雨が上がる時⑧
本格的に雨の季節が始まってからは戦争をする事などはなくて、軍人のレザファさんもこの街にいる筈だ。
『いる筈だ』と言うのはあれからその姿をとんと見ていないからだった。
(ただ数日の事なのに。数日間姿を見掛けない事なんて今までなら『よくある事』と気にも留めなかったのに………あの日、自分で否定したのに彼の姿が見えないだけでこんなに落ち着かなくなるなんて。それでも気不味くなるよりはよっぽど良いよね)
「会いたいな………」と呟きながら開店の準備をしていると音を立てて入り口の扉が開いた。
「お父さん?」
「いや…」
「え…あ、」
そこに立っていたのはお父さんじゃなくてレザファさん。驚いた私は「いらっしゃいませ」とか的外れな事を口にしていた。
「ラム………少し話したい事があるんだが、時間を貰えないか?」
(どうするの私。レザファさんに会いたかった癖にこの展開は嫌だとか。でもどれだけ悩んでも迷っても結局、彼を拒む事なんて出来ないんじゃ……)
「………分かりました」
小さく返事をすると明らかにホッとして見せる。そんな心境を図ればなんだか可愛く思えた。
連れられて来たのはレザファさんの部屋だった。
(流石にそれは……)
あの日と同じ彼の部屋の匂い。
あの日と同じ……寝台。
瞬間的にあの日が記憶が甦って逃げ出したいのに私の足はまるで棒の様に動かない。なので『逃げる事が叶わないなら』と、もう誤魔化す事も出来ずにずるずると壁を背に崩れ落ちた。
恐らく勝負は部屋に入った一瞬だった。
(15/11/28→24/03/11)