雨が上がる時⑤
熱い肌。湿った吐息。流れる涙。
この人に触れてしまえば、嫌な事や気持ち悪さは少しも無くて、私の身体はすんなりとレザファさんを受け入れた。例え彼が私を少しも見ていなくとも。
ただ、理由も分からないその悲しみを飲み込んでしまいたかった。どんなに近くにいても心が触れ合う事は決して無いとしても。
(ただ抱き締めたい。そんな顔をして涙を流すのに放っておくなんて出来ない)
それでもレザファさんに触れられる肌は喜びに熱を帯びていて『私は彼がこんなにも好きだったのか』と自覚せざるを得なかった。
辺りが白んで来た頃にふと目を覚ますとレザファさんの寝台でその香りに包まれて彼の腕の中にいた。暖かい肌と早朝のひんやりとした空気。
昨夜の行為が思い出されると、ぎゅっと胸を締め付ける。それを振り払う様にして眠るレザファさんを起こさない様に気を付けながらそっと静かにその腕から抜け出した。
(簡単に素早く身支度を整えて彼が目覚める前に姿を消す。きっと、昨夜の事は覚えていないだろうから)
最後に涙の跡を残して寝ている彼のこめかみに口唇を落として「さよなら……」と呟いた。
それで滲んだ涙は知らないふりをする。
(15/11/28→24/03/11)