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生まれたての五月

作者: 村崎羯諦

 一昨年生まれたばかりの五月を巡って、父親の十一月と母親の三月の間で揉め事が起きた。五月の平均気温が、父親の自分と似てないことに気がついた十一月が、妻の三月の不貞を疑ったらしい。


 三月は五月が私たちの子だと猛烈に反論したらしいけれど、強く反論すればするほど十一月の中で妻を疑う気持ちが強くなっていき、最終的には十一月は五月のDNA検査をさせろと主張した。DNA検査は誰も幸せにもならないというけれど、今回もまさしくそうだった。検査の結果五月と十一月は血縁関係がないということが判明してしまい、それが原因で十一月と三月はそのまま離婚してしまうことになった。それがちょうど去年の十月のことだった。


 それじゃあ、五月の本当の父親は誰なんだという話に当然なる。平均気温だけみたら、四月とか六月が近い。けれど、七月と結婚したばかりで、温厚な四月がそんなことをするとは到底思えないし、逆に陰気な六月だって華やかで華のある三月と不貞を働くなんて想像もつかない。


 ちょっとはずれるが、十一月の弟である八月はどうか? 確かに八月はかなり陽気なところがあるし、性格だけでいえば一番不貞を働きそうな月ではある。だけど、ここだけの話、八月の性的対象は月ではなく曜日で、少し前から金曜日と土曜日と交際を続けている(こっちはこっちでまた拗れた関係となっているけれど)。


 三月の叔母である一月が何かを知っているのではないかと思う人もいるかもしれないが、二人は十一月との結婚がきっかけで仲違いをしており、三月が一月に何かを相談するなんてことはありえない。元々一月はモラハラ気質だった十一月のことをよく思っていなかった。だから、一月は、三月のためを思って、遠回しに結婚をやめた方がいいと警告したのだが、それが三月の気持ちを逆撫でし大喧嘩に勃発、それ以来両者は口も聞かない関係になったようだ。

 

 九月と十二月は三月と同性だから関係ない。だとすると、結局生まれたての五月が誰の子供かなのか、みなが首を傾げている。


 ただ、赤ん坊というものはその存在自体が尊いものだ。見ているもの全てを笑顔にさせ、私たちに無条件に誰かを愛することの素晴らしさを思い出させてくれる。五月が誰の子供でも、そんなの関係ないではないか。


 私は五月をそっと抱きしめる。私の横では、五月を抱きしめる私を三月が穏やかな微笑みで見つめている。


「気温の上がり方が二月であるあなたにそっくりね」


 三月が私に呟き、私も頷く。それから私はもう一度生まれたての五月を愛おしく見つめるのだった。

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