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魔界

今回、説明回です

ご了承ください。

「じ…じじじ…女王様ぁ!?!?!?」

キュリアが死ぬほど驚いて、手をワタワタさせて、ぐるぐる目で動揺しまくっている。

「わ、ゎ私、もしかして…とんだ無礼をぉ!?」

「…問題ありません、女王、と言っても竜族はもう私一人ですので、気にせずに今まで通りの態度で大丈夫です」

「で、でもぉ…」

「言ったでしょう?私はあくまで幹部の一人、所詮は誰かの下に就いている程度なんです」

「…そ、そうなの…ですかぁ?」

「はい」

そんなやり取りをしている間にも、ドラゴンは魔界の空を飛び続け、小さな村の様なものが見えてくる。


「そろそろ降りましょう」

ドラゴンが高度を下げながら身体を縮め、村の真ん中にある、不自然に切り抜かれた広場に狙いを定める。

「オーライ、オーライ」

下で誰かが誘導している様だが、ドラゴンの体に隠れて姿は見えない。


ズシン…!

と大地を揺らしつつ、砂埃を巻き上げてドラゴンが着地する。

カインに手伝ってもらいながら、キュリアとカルロスはドラゴンから降り、3人が降りたのを確認したエリスも、身体を人型へと戻す。

カルロスが辺りを見ると、ここは村では無く、何かの前哨基地の様な見た目をしている事に気づいた。



「エリス様!お早いお帰りで!」

暫くすると、遠くの方から見たことないスマートな黒い服を着て、少し猫背気味の姿勢、赤い肌と角、下顎から生える牙に鋭い目付き、少し赤みがかった白髭を蓄えた謎の大男が笑顔でエリスに話しかける。


「ヴァーン!!ただいまー!!」

飛びついたカインも、難なく受け止め、優しく頭を撫でる。

「うーん!この硬いお髭が癖になるぅ!」

「ははは、カイン様もお元気そうだ」


「ただいま、ヴァン、いつもありがとう」

「いえいえ!私に出来るのはこの程度ですので………ん?」

ヴァン、と呼ばれているモンスターが、色々と凄すぎてポカーンとしているカルロス、キュリアの存在に気づく。


「む…むむむ?」

どこからか取り出した微妙に小さい眼鏡をかけ、二人に近づく。


「ま、まさか…貴方様が勇者カルロス様であられますか?」

「……え、えぇ…まぁ…」

「…あぁ!何と、遠路はるばるお越し頂きありがとうございます……っと、そちらの方は…」

カルロスの隣でまだポカーンとしていたキュリアへと話しかける。

「あ、わ、私ですか…えーと…その…」

色々と脳が追いついていないキュリアはすぐさま返答できずにまたまたあわあわし始める。


その姿を見兼ねてか、カルロスが照れくさそうに口を開く。

「……恋人の、キュリアだ…」

「っ…///」

「ははぁ!恋人!これまた何と可憐な…!」

眼鏡を調整しながらマジマジと近くで見る。

「い、いやぁ…そんなぁ…えへへ……確かに恋人…だけどぉ…?///」

「しかも、優れた魔術の才もお持ちで!」

「わ、分かるの?」

「えぇ、まこの眼鏡の力です、まだまだ試作段階ですが、見ただけで魔力を数値化することができます、これはレンズの中に特殊な水晶が埋められており…その水晶が瞬時に魔力を測定……更に……」

一言喋りだしたら止まらずに、物凄い情報の洪水にキュリアは固まってしまい、カルロスも訳が分からないという顔をしている。


「それで、ここからが非常に重要で…!」

「ゴホン!ヴァン、そろそろ」

エリスの咳き込みと、その言葉にヴァンはハッとする。


「し、失礼しました!つい夢中に…!」

「構いません、それより馬車を用意して下さい、キュリア様は足を怪我しておりますので」

「それは…気が利かず申し訳ありません…少々お待ち下さい…」

そういったヴァンが何処かへと走り去る。


「エリスちゃ…様…あの人は?そもそも人なの?」

「ちゃんでいいです」

「あはは…恐れ多いよ…」


「…あれはオーガという種族です、言葉を解する程の知能があり、力持ちですので建築作業や、宅配業などの肉体労働をやらせております

ヴァンは…少し、いえかなり特殊なオーガで、知的好奇心が旺盛で賢く、要領もいい、探究心があり過ぎるので少々周りが見えない事もありますがオーガ特有の筋力もあって非常に頼れる部下です」


エリスが淡々と説明してる最中に、馬車を引いたヴァンが戻ってくる。


馬車が大きく、馬がムキムキな事以外は人間のと変わらない普通の馬車だ。

「わぁ〜、大きいね!」

「…あぁ」

「乗りましたか?それでは出発致します!」


ヴァンが鞭をふるい、馬の嘶きと共に勢い良く馬車が進む、普段乗っている馬車より数倍早いが、道が整備されてるおかげで中はあまり揺れずかなり快適に進んでいる。

食糧や予備の部品などが置かれていても、端によれば全員が寝転ぶことも出来そうな程度には余裕がある大きさがある。



「ここから丸一日走ります、クッションやシーツもございますので良ければお休み下さい」


「……ふわぁ…」

カインが大きく欠伸をして、目をこする。

「…色々あって疲れたよね、よし!」

それを見たキュリアが立ち上がり、箱を漁って下に引く為のクッションと、掛ける用の薄布を持って、余裕のある端の方へ行く。


「カインちゃん、私も疲れたし一緒に寝ようか!」

「……うん…」

目を擦りながらキュリアの敷いた布団に二人で寝転び、

「おやすみ、二人とも」

「あぁ、おやすみ」

「おやすみなさい、キュリア様」


カインとキュリアは引っ付いて抱き合うように寝転び、暫くすると静かな寝息が二人の元から聞こえる。


「勇者様は?」

「俺はよく寝たから大丈夫だ」

「…そうでしたね」

ボソボソと喋る二人の話し声と二人の寝息、馬車が少し揺れている音だけがゆったりと空間に広がる。


「なぁ、聞きたいんだが」

「何でしょうか」

「…本当に、俺の故郷は襲わせてないんだな?」

「はい、ですが襲ったのはモンスターの筈です」

「…どういう事だ?」


「…人のいる人間界、私達のいる魔界

本来この二つは、一つの空間にありました

しかし今は二つに別れ、今はお互いに干渉を避けています」

「…さっき空が割れたのは、その二つの世界の壁を破ったって事か」

「はい、今の魔王様が1000年ほど前に魔界を作り、人間界と魔界の間に壁を作りました。その壁を一時的に壊し、二つの世界をある程度自在に行き来でこる魔法を私を含めた魔王の最高幹部達に与えました。

この移動魔法は改良を重ねては居ますが、それでもあれ程の負荷がかかります

ですが、それに文句を言うものは居ません、魔王様がいなければ恐らく魔族は絶滅していましたから」


「…凄いな…魔王」


「…そしてこの魔界には魔王様が作った一つの力があります」


「力?」


「"人を狂わせる力"です、正確には人間がこの魔界に入ると、非常に不快な気持ちが魔界にいる間は永遠に続きます、例えるなら…下水道の水を無理矢理飲まされ続けている様な感じです」


「最悪だな…」

「それが続くと徐々に精神を病み、いずれは発狂に近い状態になります、そうなった人間の末路は二択、廃人になって動けない所を殺されるか、そのまま死ぬまで暴れるか」


「…ん?人間って事は…もしかして…俺達もまずいのか…!?」


「そこについてはご心配なく、ダンジョンで貴方達と交わした契約がありますので」


「……なんか言ってたような…」


「"魔血の契約"です、あれは私達の血を取り込ませた特殊な杭を貴方達に打ち込み、二人に眠る祖先から巡ってきた魔族達の力を目覚めさせる契約です」

「……」


「本来なら動けないはずの傷でも動けたり、手足が使えなくなる程の怪我も回復したり…

魔族特有の再生力のおかげで二人は今も生きている」

「…つまり俺達は今、魔族に近いと?」


「というより、ほぼ魔族です

…勝手な事をして、申し訳ありません、私達は回復魔法は覚えていない、ポーションも無かったからこれしか無くて…」


「…いや、文句なんて言えない、俺達の命の恩人だからな

…だが、そうだとしたら何でモンスターはこっちの世界に来ていたんだ?」

「…魔王様が作り出した世界の壁も完璧では無い、よって時々綻びができてしまいます

そこから抜け出した魔族は、人間界に順応出来ずにモンスターとなって理性を失ってしまう」


「ん?じゃあエリスとかカインも理性を失うんじゃないか?」


「私は魔界が出来る前に生まれた存在ですから、そこは問題ありません、カインもその体質と性格によって、外の世界で正気を失うことは無い」


「そういえば、カインって何かの種族か?

角が生えてたり、肌が黒かったり…それに身体能力も凄い、かなりの距離離れていた俺の村を見つけたりもしていたし…」


「それも、"種族の特性"によるものです、彼女はかなり稀有な例になりますが…」

「…どんな特性だ?」


ガタン!

突如馬車が大きく揺れ、前側の方に少し傾いた状態になって動かなくなる。


急いでエリスとカルロスが馬車から降りると、ヴァンが左前輪の辺りでしゃがんでいる。


「ヴァン!一体どうしたの?」

「何者かに石弓で壊されています…良くある悪戯ですね…」

見ると半分程度が砕けている車輪の下に、弓の羽部分が見えている。

「…石弓って事は誰かに狙われているのか?」

「ただの罠ですよ、ゴブリンなどの知能が低い魔物が作った罠

偶に迷い込んだ人間も狩れる可能性もあるので、仕掛けられているんですが、いい迷惑ですよ…全く」

心底イラついた様子で、呆れたようにヴァンは頭を搔く。


「まぁ、魔族には殆どダメージは無いので、我々にとっては本当に鬱陶しいだけなんですが…

予備の車輪をお願いします、確か…箱の中に…」


ドス!

「!!」

ヴァンが眼鏡をかけ直しながら立ち上がった瞬間、彼の脇腹に石弓が突き刺さり、腹を抑えながら膝を付く。


「キキキ!久シブリノ人間!女モ居ル!」

「男ハ殺シテ、女ハガキヲ生マセロ!」

気が付けばゾロゾロと緑色で異臭を放つ、小さなモンスターであるゴブリンが、馬車を囲うように群れをなし、カルロスとキュリアを狙っている。


「ギギ!ツヨイヤツラモイル…」

「関係ナイ!全員デカカッテ袋ノ鼠ダ!」

その声を皮切りに下劣な笑いを上げながら、馬車へと襲いかかってくる。


カルロスは剣を構え、徹底抗戦の決意を固めるが、エリスは微動だにしない。


「おい!エリス!」

「問題ありません、彼らは終わりです」

「馬鹿野郎!何言ってるんだ!馬車を…!」


ドクン!!


カルロスの息が、一瞬詰まる。


傍からとてつもない威圧感とオーラ、そして怒りが頂点に達した、"(ヴァン)"が立っていたからだ。

ゴブリンも同じように感じ取ったのか、先程の笑い声はピタリと止まり、中には呼吸を忘れ倒れるゴブリンも現れる。


唯一無事なのは、エリスのみ。


ヴァンは右の脇腹に空いた服の穴を見て、ポツリと呟く。


「魔王様より賜った特注品の"スーツ"…」

かけていた眼鏡を外し、胸にあるポケットへ入れ、首から巻かれていた帯を引っ張り、シュルルルと音を鳴らしながら外す。


「貴様ら如き、低俗なゴブリン共が触れる所か、よもや傷付けるなど…」

牙を剥き出し、額に血管が浮き出る。

眼鏡を失った目元が鋭く尖り、眉間には樹木の如き皺が固く作り上げられていた。


「許されると、思わない事だ」

ゴブリン達は完全に縮み上がり、カルロスも至近距離で受けるその圧に目眩を起こしている。


「全員、並びなさい」

その一言で、バラバラに点在していたゴブリン達がまるで訓練された兵隊達の様に、素早く美しい直列へと並ぶ。


「一人ずつ、泣くまで尻を全力で叩きます」

赤色にヴァンの目が光り、開かれた手が掲げられる。

「精々、反省する様に…

エリス様、勇者様、少々到着が送れますがご了承ください」

「…仕方ありません、勇者様、馬車に戻りましょう」

「え?あ…あぁ…」

エリスと少し正気を取り戻したカルロスは傾いたままの馬車へと戻る。


中に入ると騒ぎで目覚めていたキュリアが、カルロス達を心配そうに見ている。


「大丈夫だったの?何か凄い音したけど…」

「…心配するな、寝ててくれ…」

定期的に外の景色が揺れているが、不思議と静かな馬車の中で、カルロスはさっきとは別の汗をかきながら、椅子へと座る。

「…え、うん…何かあったら起こしてね…」

再びキュリアは寝転び、静かに寝息を立て始め、先程と同じ音が馬車の中に充満する。


「…"サイレント(遮音魔法)"…抜かりないというか…なんというか…」

エリスが感心にも似たテンションでぼそりと呟き、カルロスは外で起こっているであろう惨状を想像し、頭を抱える。


隙間から見える揺れる景色は、数時間続いた。

何でオーガをヴァンにしたのは、なんか何処かで聞いた事あったからです。


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