元・勇者の最期
深夜テンションで描きました、おやすみなさい
「…均衡を…保つ…?」
「はい、それがかつて魔族に勇者が生まれた理由、強くなりすぎた人間に呼応する様に凄まじい力を持った魔族の勇者が生まれたのです
その強さはまさに魔神とも言うべき力でした、たった一人で敵軍を壊滅させる事も出来るほどに…」
「そんなに強かったのに…負けたんだな」
その言葉を聞いたエリスは、また黙り込んでしまう、少し苦しそうな顔をして。
そこから数十秒経ち、覚悟を決めた様に口を開く。
「…彼は、人間の罠に嵌ってしまったんです」
「…罠?」
「人間側は、お前の妻を殺した、と嘘をついて勇者を挑発しました」
エリスが、更に苦しそうな顔で、握りしめた拳から血が滴り落ちる。
「勿論、実際には殺されていません、しかし一つ前の戦いで大きな傷を負い、どこかへ消えてしまって勇者の近くには居なかった、居れなかったんです…!」
エリスの言葉に怒りと悲しみの声が混じる、誰かでは無く、自分への怒りの様な物が、その言葉には詰まっていた。
「彼は優しく、誰よりも一途で真面目でした…!
人間の卑劣な嘘を信じた勇者は怒りに呑まれ、人間共を殺そうとしました、しかし人間は卑劣にも巧妙に逃げ続けた…
……彼の正気が戻った時には…もう遅かった…
勇者が居なくなった本陣を叩かれ…彼以外の魔族の殆どが殺されていた…」
「……」
カルロスは無言でエリスの言葉を聞き続けている。
キュリアはもう聞きたくない、と言わんばかりに涙を流し、うずくまっている。
「…そして、魔族の敗北を悟った彼は、せめて滅亡は防ごうと最後の抵抗として、その首を…」
エリスは最後まで言う事はなく、さきほどより強く、拳を握り締め、怒りを堪えている。
「……そうか…その…勇者の妻は…どうなったんだ?」
「…まだ生きてこの世にいます」
「…でも…この戦いって何千年も前…だったんでしょ…!?
そんな永い時間…一人で居るんだよ…私じゃ耐えられないよ…!」
命を懸けて戦った勇者の何も救いが無い最期、騙され、謀られ、全てを失ったと感じたまま死んで行った勇者の、あまりにも悲痛な最期。
それを引き起こした人間の子孫である二人は人間に生まれた自分を、初めて憎たらしく思っった。
二人ともエリスを見ようとしない、何故かその時の感情が、嫌という程に彼女から感じ取れる、その罪悪感で自分を殺してしまいそうになるから、見る事ができない。
「…ですが数千年間、何もしていない訳ではありません」
その言葉を聞いた二人は、驚きつつ、エリスの顔を見る。
「自分達に協力してくれる人間の勇者が現れるまで、選別と観察、必要とあれば自ら勇者を殺す、そんな事を何千年も繰り返してきました」
「……?」
「…え、それはエリスちゃんの…」
キュリアの疑問を無理矢理遮り、エリスは嬉しそうにカルロスに語りかける。
「…そしてようやく、貴方に会えた」
エリスが指を鳴らす、すると空が突然ぐにゃりと横に伸び、同時に空にヒビの様な物が現れ、鉄を無理矢理切り裂くような不快な音を響かせる。
エリスは慣れた様子だが、二人はその音に耐えきれず、耳に手を当てて防いでいる。
「…なんだよ…これ…!」
「頭が…痛い…!」
甲高く不快な音が、防いだ耳の奥にある二人の脳を、じわじわと揺らす。
「…我慢して下さい、あと少しだけこのままです」
ピシ…ピシ…
徐々に、空のヒビが広がって行く。
いや空…どころでは無い、その空間全てが崩れていく様…
「……っ!!」
バリィィ…ン…!!
一瞬の閃光が2人を包み、直後に硝子のような何かを突き破る様な音と、辺りに破片が飛び散る。
青い空は砕け散り、破片として落ちる、赤黒い空と暗雲、眼下に映る木々も禍々しく、黒い幹に、空と同じ赤黒い葉を持つ植物が、真ん中に鎮座する城を囲む様に生い茂っている。
「ようこそ、勇者カルロス」
恐る恐る耳から手を離したカルロスに、エリスが語りかける。
「魔族に生まれた奇異なる勇者、イグニスの妻であり、この"魔界"を統べる竜の女王
エリス=ドラグナーデが、心より歓迎致します」
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