勇者の役割
ヒュオオォ…
カルロスは目を覚ますと、雲の上に居た。
「あ、おはよう、よく眠れた?」
そうやってキュリアはいつもより少し優しく微笑む、
普段ははつらつとした笑顔が多かった彼女だが、かなり雰囲気が変わったように感じて、カルロスは少し戸惑う。
「ここはハンナ……もといエリスちゃんの背中の上だよ」
「あんまり動いたらこしょばいので辞めてくださいね」
どこからとも無く現れたエリスが話しかけてくる。
「…それ、どういう仕組みなんだ?」
「人型で体の一部をドラゴンに変える技を逆にしているだけですよ、鱗一枚を変えているので、今の私は鱗一枚分の強さしかありません」
「…なるほどな…?」
「本当の姿はどっちなの?」
「……本来の姿はドラゴンですが、人型の方が圧倒的に動きやすいから人型にしてます、パワーは落ちますが、色々と便利です」
「へー」
(これは…予想と同じでリアクションに困った時のへー、だな)
「そういえば、カインは?」
カルロスが少し辺りを見渡す。
「あの子に同じ話をしたら退屈でまた邪魔されちゃうので、前の方に行って貰って辺りを見回してもらってます、あの子、とても目が良いので」
エリスが少し自慢げに微笑む。
出会った頃から彼女へ小言ばかり言っているエリスも、何だかんだ信頼している様だ。
いつも無表情なエリスだが、その時初めて笑顔を見せた。
「…それでは、先日の続きから…」
そしてまた無表情に戻り、話を続ける。
「元々は人間と魔族…その2つがバランスをとって共存していた事は言いましたよね?」
「あぁ」
返事を聞いて続けようとするエリスに、キュリアが横から質問を挟む。
「…ちょっと聞きたいんだけど、昔はエルフ?とかドワーフとか、色々居たみたいなお話を読んだ事あるよ?本当に居たの?」
少しワクワクした様子で、期待の眼差しをエリスに向けている。
「…確かにいました…魔法と弓術に長けた気高く美しいエルフも、あらゆる金属を完璧に加工する技術をもち、荒々しく豪快で、髭を蓄えたドワーフも」
「わぁー!」
キュリアがまるで子供の様に目をキラキラさせ、話に聞き入っている、(さっきの雰囲気は気のせいだったんだな)、とカルロスは少し後悔し、安心している。
「しかし、今は全て滅びています」
「そんなぁ!」
そんなキラキラ顔も一瞬でガッカリした顔に変わり、しょんぼりしてしまった。
「エルフに会いたかった…魔法使う、かっこいい人達…」
「…そもそも、今に伝わる御伽噺などに出てくる殆どは脚色されてる事もあり、全員が似たような性質だったわけではありません
奇声を上げて剣を振り回すムキムキのエルフも居ましたし、髭のなくて力が弱い、薬草を加工するドワーフも、勿論居ました」
「へぇ…!じゃあ、殆ど人間と変わらないんだね、皆色々個性があって、偶に変わった人が産まれるのとか」
次はしっかり楽しそうなへぇ、のトーンで落ち込んでいた顔も晴れて、またワクワクした顔でエリスに聞いている。
「はい、しかし多くの種族は僅かな子孫を残して滅亡、残った僅かな者達も人間か魔族、どちらかに着くかを強制され、その多くが人間に降りました」
「…そうなんだ…」
またエリスの表情が曇る、今度はガッカリした、というよりいたたまれない気持ちになって、少し辛い様な表情だ。
「…滅亡したその殆どの理由が、人間と魔族の争いに巻き込まれた事…
そして最終的にはその戦いも魔族が敗北、両者の大地と生き物に大きな傷を残し、文明も停滞、そのまま数千年、今のような時代が続きます」
「……」
完全にキュリアは気分が沈んでしまっている、そんな彼女を慰めるようとカルロスが口を開く。
「つまり…俺達にも珍しい種族の血がほんの少しばかり流れているかもしれない…ということか」
その意図を察してか、エリスは少し考える動きをして、言葉を返す。
「…というより、普通に流れてますね、突然変異で昔の血が呼び起こされる…なんて事も起こります
例えばキュリア様の桁違いの魔力量、これはエルフの持っていた体質に近い、そういう者がごく稀にですが生まれる事は何らおかしくありません」
求めていた回答を出してくれたエリスにカルロスはアイコンタクトで感謝を送る。
「だってよ、キュリア、お前すげぇな」
一連の説明と、カルロスの賞賛を聞いたキュリアが顔を上げる。
「…つまり、私がエルフ!?」
とまたまた明るくなり、カルロスに詰め寄り
「ねぇ!耳は!?尖ってきてる!?顔は!?綺麗!?」
グイクイと耳を見せてくる。
「いや、普通に人の耳だ、顔は綺麗というより可愛い」
「うぐ…憧れのエルフになれると思ったのにぃ…」
「そこはあくまで体質だけ…という事で」
「…あれ?でもその話だと、勇者出てないよ?負けたんでしょ?」
「…寧ろ勇者が居たから負けるだけで済んだのです」
「…負けるだけ…?」
再びエリスから重い空気が流れ出る。
少し覚悟を決め、目を閉じ、深呼吸
そして、口を開く
「…勇者は自身の首を差し出し、魔族の敗北と降参を示し、戦いを終わらせたのです」
「え…じゃあ、勇者は負けて死んじゃったの?」
「はい」
「奇跡の復活!とかは!?」
「ないです」
「…そんなの、酷すぎるよ…」
「その首を持ち帰った人間は今のエデン国王の先祖、それ程、勇者の死は影響があるのです、それ以降、人間側にしか勇者は現れず、皆魔族やモンスターを殺し、いつの間にか姿を消していく
それが数千年、いよいよあとが無い私達は協力して頂きたく、勇者様に接近したんです」
「……協力…」
カルロスが呟く。
「…俺に何をして欲しいんだ?」
「…この世界の本来の姿を取り戻して欲しいんです」
「…また、随分と壮大だな」
「…不可能ではありません、何せ、貴方は勇者様、なのですから」
「……そういえば、言いかけていた勇者の役割って、何なんだ?
今更、魔王を倒す…というより魔王なんてそもそもいないんじゃないか?」
「いえ、魔王様はいます、実際に倒された事もある、しかしそれは役割のために必要であっただけ、本来の役割では無い」
「…その勇者は魔王を倒すのが目的ではなく、過程だった…ということか?」
「そうなります…
勇者が持つ…本来の役割、それは…」
「人と魔族に仲裁し、この世界の均衡を取り戻す事です」
果たして、ここまで引っ張った意味はあったのだろうか。
あったと信じる
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