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ただいま

夢を見た。


母親の柔らかな腕に委ね、優しく揺られている夢。


父親の無骨な腕に乗って、空を泳いでいる夢。



そんな二つの腕が、赤く染まっている夢。


自分はその前に立っている。


ただ何もせず、立ち尽くしている。



寒い、雪だろうか。


体の全身を突き刺すように寒い、痛い。



誰かに抱きしめられている。


その人は泣いている。



暖かい。


だけど、その人は泣いている。


自分が冷たいからだろうか?


声は出ない。



だけど、泣いていた。


その人と同じように、泣いていた。



自分以外が、泣いていた。


笑うように、泣いていた。



自分も泣いていた。


立ち尽くして泣いていた。


「おはよう」


冷たい手が、体を包んだ。



「なかないで」


暖かな手が涙を拭いた。



俺はその手を、強く握った。



――――


「………」

視界に薄らと光が差し込む。

「……っぎっ…!!」

動こうとしても全身に激痛と重量が襲いかかった。


辺りを見回したいが体は動かず、視界のブレも耳鳴りも酷い。

だが、生きているようだ。


それだけは理解できた。


「……グス……グスグス…」


耳鳴りの中、何処かですすり泣く声が聞こえた。

まるで潜っているかのように音が籠っている、何処からかは分からない。


次の瞬間、ぼやける視界に赤色のシルエットが浮かび上がった。

柔らかで大きい、見覚えのあるシルエット。


「……っ…!?」


そのシルエットがこちらを認識したのか、何かを叫んでいる。

だが、聞こえない。

さっきよりも耳鳴りが酷い。

目もまた暗くなってきた。


間もなく俺は、ながい眠りにつく気がした。


何も分からないまま、遠くに行く気がした。


ただ、握られた手が暖かい事だけは感じていた。



―――――

再び俺は立っていた。


次は純白の雪景色だ。


寒さは感じない、だがそんな美しい景色が今は恐ろしく感じていた。


「……運命…貴方は生かされるのだから」


何処かからそんな声が聞こえた。


見回すと、白い髪に白い肌をした、雪の精霊と見間違えそうな程に白に染まった少女が立っていた。


輪郭はぼやけ、姿形は曖昧そのものだが、そうとしか感じられない不思議な感覚がそこにはあった。


「……なぁ、運命ってなんなんだ? お前の言う運命って…」


「いずれ分かる」


「…………そうかよ…」


何故だろうか、このやりとりが初めてな気がしない。


夢とは忘れる物、忘れているだけで何度もこのやり取りをしていたのだろうか?


「今は、生きなければ、ならない」


少女の輪郭が更に希薄になり、遂には景色と同化していく。


「おはよう」


冷たい手が、視界をを包んだ。


─────



「…………ん?」

視界がほんのりと明かりを取り込んでいく。


さっきよりも随分鮮明だ。


「……うぅ……グスグス…!」

すすり泣きもすぐ側で感じられた。


体も微かにだが動かせた。

視界を下に向ける。


そこにはついさっき見た、赤いシルエットの正体が涙を流して眠っていた。



「…………はぁ…」

そこでようやく気づいた。

自分が生きていた事に。


そして、その事に心底安堵したのだ。


「……はは…」

乾いた喉からそれ以上に乾いた声が響く。


周りは石で囲われた城の一室かの様な場所。

よりその音は鮮明に響いた。


「……グス……ん…」

呼応するように赤いシルエットが視界の端でモゾモゾと体を起こす。


「………おはよう」

それはまるでうわ言かのようにそう呟き、腫れた目を再び擦る。


「おはよう、キュリア」

俺は送られた挨拶を返す。


「…………うん、おは……よ…」


「……よっ、元気か?」


キュリアの顔は、凍っている。

まるで、死体が動いたかの様な驚きぶりだ。


十秒、一分……いや、もっと短かったかもしれない。

そんな沈黙が、石造りの病室に響く。


「……えーと…」

沈黙に耐えきれず、出来る限り手を動かし、反応を確認する。

瞬き一つしない、完璧に固まっている。


「……あれ?」

ポリポリと頭をかく。

困った、反応がない、置物だったのか?


なんて事を考えていると、部屋の扉が開いた。


「キュリアちゃーん、12時間経ったよー、交代ー」

気だるそうな様子のカインが、リンゴを丸かじりしながら、少し眠そうに部屋へと入ってきた。


「……あ、起きたんだ…おはよー、勇者様」


「おう、おはよう」


「……アムアム…キュリアちゃーん、勇者様起きたよー…」


「………………」


「あれ? 勇者様起きてるよぉ?おかしいなぁ…もっと反応す…る……………え?」

キュリアを揺すっていたカインだったが、突然歯切れが悪くなり、リンゴを落として、こちらの方へガチガチと首を向けている。


「…?」




「起 き て る じ ゃ ん ! ? ! ? ! ?」



「めっちゃ普通に!!!!!」



「起 き て る じ ゃ ん!!!!!!???????」


部屋が吹き飛びそうな声量でこちらに指をさして叫んだ。



「えちょ!? キュリアちゃん!? 何でノーリアクションなの!? ねえってば!!!! 起きてるよ!??」

カインは更に強く、キュリアを揺らす。


「キュリアちゃ…!! ん?」

流石に反応が無さすぎて、不審に思ったのかカインはキュリアの顔を覗き込む。


「……あ、失神してるね、これ」


キュリアは座ったまま、白目を向いて鼻水を垂らし、淑女とは思えない表情で失神していた。


「……………人が生き返ったのに、今度はそっちが寝るのか」


「しょうがないよ、だって半年寝てたんだよ? なんなら3回くらい死んでたからね、起きると思ってなかったし……あぁ、皆呼んでくる!」


「…そういえば…エリスとヴァンは?」


「あの二人なんて翌日にはほぼ元通りだったよ! 貴方が一番やばかったんだからね!」


「……そうか…」


「じゃ、お大事に〜!」


そう言ってカインは浮き足立った様子で扉を開けたまま飛び出していく。


「…はぁ…」

久しぶりの目覚めだからか、少し喋るだけでも疲れてしまった。

だが…

「…ふっ…」

目の前で失神している愛しい人の顔を見て、再び自分が生きているのだと実感する。


あの時、言いたかった言葉。

想像していたシチュエーションでも、相手でも無かったが、ようやく言える。

「ただいま」

固まるその相手の手を握り、カルロスは微笑みながら告げていた。

Trpgのシナリオばっか作ってて更新してねぇ!

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