純白の者
「…シエラ…ちゃん…?」
かつての友であった少女の変わり果てた姿に、胃の中から酸っぱい物が込み上げてくる。
「……あー、くそ…見られちゃった…」
アランは自身の肩へ伸ばされた手を愛おしそうに撫でながら、侮蔑の眼差しをキュリア達へと向けていた。
「貴方と…カルロスさんには見て欲しくなかったんですがね…」
ブレシアで傷を治しながら、少し寂しそうにボヤく。
「…ほう、彼女達を悲しませたく無かったからですかな?」
アランからキュリアを守るように間へと立ったヴァンが挑発するかのように尋ねた。
「えぇ、まぁ…悲しませたくは無いですね」
「殺したがってるのに、意外と優しいんだね」
「優しい? あぁ、違いますよ、悲しませたくないのは気持ち悪いからです」
「!!」
「僕と姉さんを捨てた癖に、まるで被害者かのように泣く、あまつさえ後悔し、偽善者の振りをする」
「……はぁ……はぁ…!」
「"ごめんなさい"の繰り返し、気持ちが悪い、姉さんの思いを踏み躙り、そして命をも投げ捨てた外道の謝罪など…」
「違…!! 私達は二人の為を思って…!!」
「では何故助けなかった!!」シュイン…!
刹那、アランの杖先に魔力が溜まり、水の形を成す。
(あれは…!!)
キュリアがそれを何か理解した瞬間
「"フェイタルショット"」
細く、速い水の斬弾がアランの杖から放たれた。
「………」
キュリアの目の前に迫る時にも、彼女はそれが放たれた事に気づいて居ない。
水の最上級魔法 「フェイタルショット」
放つ魔力を水へと変換し、それを一点から勢いよく放つ魔法。
他の技が広範囲な事もあり、一見すると地味な攻撃だが、距離と速度、何より鋭さは他の追随を許さぬ程に凄まじい。
一度放たれればどんな鎧も砕き瞬く間に敵の急所を貫く矛となる。
当然、当たればタダでは済まない。
余計な破壊をしない分、急所を狙う必要はあるが、例え外そうがその部位の機能は停止し、急所に当たれば問答無用で即死である。
そんな攻撃を生身で受ければ、魔族であろうと命の危険があるだろう。
この場にいる
「キュリアちゃん!!」
カインを除いては
「ふん!!」
カインがキュリアの頭を押さえつけ、無理やり下げさせる。
その瞬間、キュリアの顔を狙っていた水弾は変わらぬ進路のまま位置を入れ替えたカインの左目と頭を突き抜けた。
「…元仲間に対して、酷いんじゃない…?」
そんなダメージも意に介さず、怒りに満ちた表情でアランを睨む。
「…仲間…? ははっ! 僕の事を"仕方なく"仲間にしていた奴が仲間だと!? ふざけるな!!」
「…っ…」
「僕は知っていた! カルロスさんも貴女も! 欲しかったのは姉さんの能力だと!!」
「………………」
「…黙りですか…図星というk…」
「……そうだよ、私達が欲しかったのはシエラちゃんの能力…」
「……」
「…最初は私も少し嫌だった…こんなに小さい子を連れていくなんてって…
でも…何度も冒険する内に…私も君の事を本当の弟みたいだと思う様になって、楽しかった
……それにそんなに分かってたなら、ランクが上がるにつれて自分が力不足だって、少しは理解出来てたよね?
だから…パーティから抜けて貰おうって思ったんだ…
…私だって、君を死なせたく無かったんだもん……シエラちゃんは、その想いがもっと強かった筈…だから、"パーティを抜ける事を選んだんだ"」
「…………選んだ…?」
「…うん、私達は…最後は残って欲しいと伝えたよ、ただこれから危険度が増すから、心配だって事も伝えた……その後、二人は姿を消した……王都の辺りを一週間くらい探し回ったけど…二人は見つからなかった……ごめんね…私達、戦う魔法しか覚えてないから…二人を探知する魔法とか…無かったんだ」
「…つまり、姉さんは自分の意思で…僕を連れ出したと?」
「………もしかしたら、私達が追い詰めたから…そんな決断を下すことに…」
「…なら……姉さんは…自分の意思で僕を殺そうと…」
「……え?」
「…はっ…? 僕は何を言ってるんだ…? 何だ、何を勘違いしている……姉さんは、僕を守ろうとして…魔物に…いや……なら…あの言葉は…何で僕に謝って……そもそも僕は…どうやってここに…!!」
頭を抑え、明らかに錯乱した様子を見せるアラン。
「姉さん…!!姉さんは…!!どこ…!? 僕を置いて…! 一体どこに…!」
自らが背負う、今は亡きミイラの名を叫びながら、アランは辺りを狂ったように見渡す。
最早こちらの声も姿も、一切認識出来ていないといった様子だ。
「…ごめん……君がそうなったのは…私達のせい……だから、せめて…」
キュリアが杖を構え、アランを狙う。
手が震え、唇を小さく噛んで血を、目からは薄らと流し、かつての友人を手に掛けんと覚悟を決める。
「………ごめん…私が君の命を背負って…!」
悲痛な決意と共に、魔法が放たれようとしたその時
キィイン…!
辺りの空間が大きくたわむ。
そして、ここにいる全員はその事を知り、同時に理解していた。
「…次元移動!?」
エリスが魔界へ入る時に行われたあの嫌な感覚。
それが今度はアランの後ろで、より激しく世界を割りながら、移動が行われていた。
時間にして数瞬ではあるが、それでも甲高い不快感が耳を刺し、全身を包む。
そして、ガシャンと暖かな光を魔界へ流し込みながら、アランの後ろの空間が砕け散っていた。
そこから現れたのは、白い髪に白い目、白い肌をした少女だった。
全身を白いローブのようなもので覆い、右目は黒色の結晶のような何かが生えていた。
「……何をしているのですか、アラン・リィン…」
極めて冷酷、機械の様に淡々と少女はアランへと語りかける。
「命じたでしょう、勇者を殺せと…どうしてこれほどの時間を要するのですか?」
「……あ、貴方は…一体……姉さんを知りませんか…? シエラという名で…」
「………ちっ…あの馬鹿、また加減を間違えて…」
「……え?」
「…シエラ・リィンは、貴方が殺したんですよ」
「「……え? 」」
奇しくもシエラを知るアランとキュリアは、同じ瞬間に同じ言葉を放っていた。
「……アラン君が…?」
「……あ、ぁあ……ぁあああ…!!!」
しかし困惑するキュリアに対し、アランは何かを思い出したかのように頭を掻きむしり、発狂する。
「あああああああ!! そうだ!! 僕はぁ…何故……! こんな事を…!! 」
「…黙りなさい…貴方はまだ完成はしていない、その綻びを直すために、ここは引くとしましょう」
少女はアランに手をかざす。
その時、アランの体は時が止まったように動きを止め、声も消えた。
「待って、貴方は一体…!!アランを返しt…!」
キュリアが一歩、進もうとした瞬間
「言ったでしょう」
少女が冷たく言い放ち、軽く手を払う。
「!!」
その瞬間、三人の体に強烈な冷気が叩きつけられ、そこを皮切りに森の一部に巨大な氷河が現れた。
「黙りなさいと」
放った氷よりも冷たい表情で、凍りついた三人へ背を向ける。
「待て!!」
響く男の声。
その声を聞いた少女は再び振り返り、その声の主を見る。
「…勇者…カルロス…」
そこには剣を構え、少女へ向けるカルロスの姿があった。
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