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復讐

カルロス達の乗る馬車は再び城へ向かって走っている。

…ゴブリン達の惨状は最早語るまい。


流石にお腹が空いたのか、カルロスは馬車にあった干し肉を口でちぎって食べ、その様子を見ながらエリスはヴァンの来ていた"スーツ"と呼んでいた服に手馴れた動きで可愛らしい猫のワッペンを縫い付け、近くにあったハンガーへと丁寧にかけ、再び座る。


「…魔王軍の幹部もゴブリンに襲われるんだな」

「彼らは野良、我々魔王軍の兵士ではありません、所謂ゴロツキや盗賊の類です

人間界でも人が人を襲う事なんて日常茶飯事ですから」

「何も言い返せねぇ」


「人間界に行くのは彼らの様に管理出来ていない魔物達です、そして勇者様の故郷を襲ったのも…恐らく野良…」

「……そうか…お前達は関係なかったんだな…」

「…そんなのは言い訳になりません、やったのは私達の同族である事には変わりませんから…」

「……俺がそれを許さなかったら、あんたに殺されても文句言えねぇよ」

「………別に…許した訳ではありません、ただあの人なら、同じ様にすると考えただけです」

「立派だな、あんたは…」

「…ふふ…光栄です」




「ふぁぁあ…」

暫くしてから、キュリアが起き上がり大きく伸びをする。

「着いた…ぁ…?」

キュリアは座ったまま寝ぼけた目を擦り、欠伸をして、カインは起きた瞬間から干し肉へと向かいブチブチとちぎっては食べ始める。

「いえ、まだ少しかかるかと…」

「そうなんだ…そういえば何でエリスちゃんは直接お城まで飛ばないの?」

「…私が唯一生き残っている純血のドラゴンだからです、この目も翼も牙も心臓も鱗も、全てがもうこの世に二つと無い程に希少で無二の絶品、彼も綺麗だと褒めてくれました」

「へ、へぇ…そうなんだ…」

突然の惚気にカルロス達は軽く苦笑いを浮かべ、カインは何とも言えない聞き飽きてそうな顔を浮かべながら無心で干し肉をかじっている。

二人の様子に気づいたエリスは少し赤面しながら咳払いをし、話を戻す。

「そ、それ故に!信頼に足るもの以外の前ではドラゴンの姿を見せたくない…いわば私のエゴ…で……」

エリスが不穏な表情で馬車の進行方向を眺め、固まってしまう。

しばらくすると

「っ!ヴァン!止めて!!」


突如エリスが鬼気迫る表情で立ち上がり、前の方へ駆け寄り、ヴァンの肩に乗りながら手綱を引っ張って馬を止める。


「…っと…如何されましたか?」

「おい…エリス…」

「……誰か…居る…」

エリスが冷や汗を流しながら開けた道の正面へと視線を送り続ける。

「……?あぁ、あの方ですか…人間…みたいですが…」

「……この感覚…は…」

誰も見た事が無い様な動揺と焦りを浮かべたエリスの姿を見たカルロス達はただ事では無いと察して馬車から杖を構えながら降りる。


「…んー?どこー?」

キュリアが目を凝らして見ていると、数キロ以上離れている場所に静かに立つローブを纏った人型の影が僅かに動く。


その瞬間、エリスの顔が青ざめると同時に馬車の前に飛び降り、瞬時に巨大なドラゴンの翼を背中から出現させる。


「ここから離れて!!今すぐ!!」

出てきた翼を道全体を遮るように丸め、聞いた事のない程の大声で振り返りながら四人へと必死の形相で叫んだ瞬間


シュゴォォォ!!


エリスの前方が紅く染まり、辺り一体に燃えるような熱と爆発したかのような衝撃が響き渡る。


「"ヘルフレイム"…!?しかも…詠唱無しなんて…そんな人間居るの…!?」


ヘルフレイム…火属性の魔法フレイムの最上級魔法であり、多くの魔法使いの終着点の一つになる程に習得の難しい技。

類まれなる才能と魔力量を持ち、その中でも努力した者のみ習得できるまさに極技。

キュリアはその中でも最年少でこの魔法を会得したまさに逸材であり、天才と言っても差支えは無いほどに才能に満ちている。

しかしそんな彼女も詠唱破棄は愚か、省略などには至っていない。

本来は数節の詠唱の後に発動が可能で、その間は当然隙ができてしまうのが、どの魔法でも当たり前の事だ。

ごく稀に詠唱を省略する事が出来るものも居るが、それもひと握りの天才のみが行える妙技。

ましてや最上級魔法の詠唱破棄は最早ただのチートであり、到底人間には不可能な事とされてきた。


それ故に、キュリアは相手と自身の力量差を悟ってしまう。

恐怖により足が竦む、目の前に居るのは人の形をしただけの化け物だ、そう諦めるしか無い程の差をキュリアはひしひしと感じ、一人絶望へと叩き落とされていた。


カルロスも当然、その恐ろしさは理解している。

しているからこそ、彼は絶望するキュリアへと手を伸ばきて守ろうとするが、その手が届く事は無く、二人の体は何かに掴まれて宙に浮き上がり、動けなくなってしまった。


「ぐ…ぅ…ぅぁぁあああ!!」

驚異的な熱線と凄まじい密度の炎がドラゴンの翼を焦がし始め、エリスから溢れる苦痛と執念による叫びも炎の音によって掻き消されていく。


「エリス!!」

カインがエリスに駆け寄ろうと踏み出す瞬間、身体が宙から浮き、進みたい方向とは別の方へと遠ざかった。

カインが後ろへと目をやると、ヴァンが三人を掴み、凄まじい速さで飛ぶように森の方へと駆け出していた。


「やめて!ヴァン!エリスが!!」

「エリス様の御命令です!!」


時間で言えば数瞬にも満たないほどの刹那、四人が道から外れ森の中に入った瞬間、エリスの翼が炎に貫かれると同時に馬車と彼女の全身が炎に包まれ、大爆発を起こす。


ドガァァァ…ン…


煙が徐々に晴れていき、辺りはクレーターの様に窪みが現れ、その威力と強大さが顕になっていく。

カルロスとキュリアは一連の流れに全く対応出来ず、ただ助けられた事の実感と自分達の弱さを惨めに噛み締めていた。

晴れた煙の中心に映る光景は燃え尽き、原型が欠片も残ってない馬車と焦げた翼に包まる様に倒れるエリスだった。


「エリス!!」

カインがヴァンの静止を振り切り、クレーターを転がる勢いで駆け寄った瞬間


ブン…


突然、駆け寄るカインの横に現れたフードを被ったローブ姿の影が彼女の首元目掛けて、薄黄緑に光る何かを振り下ろす。


振り下ろしたものは杖だった、太く頑丈な樹齢千年以上の樹のみを使い、先の方が巻き爪の様に巻かれているエデンでは高級品として売られていた最上級の杖。


杖の先には剣の様な形をした光が現れており、その周りを僅かに照らしている。


「……っ…」

それに首を斬られたカインは声を発する間もなくボトリと地面へと頭が落ち、体も血を垂らしながらその場へと倒れる。


「カインちゃん!!」

その声に反応した影がキュリア達の方を見ると、僅かに見えた口元から嬉しそうな笑みを零し、嬉々として話しかける。


「やっと見つけたぁ…!カルロスさんだぁ…!」

若い少年の声、そしてキュリアとカルロス達はその声の主を知っている事に一瞬で気づいた。


「…嘘…だろ…」

「…もう…探したんですよぉ…?ようやく…ようやく…!」

心底嬉しそうに耳障りな声を出しながら、少年はフードを取る。


「…アラン…なのか…」

首元にひび割れた様な赤黒い痣があり、顔にはかつての彼からは想像出来ない程に歪んだ、血濡れの微笑を浮かべている。

顔つきも喋り方も雰囲気も声以外の何もかもが似ても似つかない変貌を遂げ


「姉さんの仇を…うてるんだ…」


確かな憎悪と殺意を杖と共に2人へと向けていた。

一瞬遊戯王始まらなかった?


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