輪廻
それはわずかな意思と定められている理だけを持ち、―は世界に存在した。
―の意思の大部分は苦痛であり、残りは極わずかな生存本能と――――で出来ていた。
定められている理により分かる事は、このまま天上へと昇ることで再びの生を得られるという事。本来はあるはずの様々なものを免除されて、ただ昇るだけでその権利が得られて苦痛からも解放されるという事。
理が分かる事により通常なら時間の差はあれど、―は天上へと昇り新たな命へと変わっていたはずだった。だが、―は昇る事もなくただその場にとどまり続けて、いくら時間が経とうとも決して動くことはなかった。
いくばくかの時が流れるうちに小さくなってゆく―が、いつの間にか影に蓋われるように手がかざされた。
本来なら起こり得ないはずの現象に興味を持った存在が、―の意思を読み取ることにした。
―の意思は変わらず苦痛が大きく占めていたが、僅かに生存本能が強く現れるようになっており、そして本来ならあるはずのない現世との繋がりがあった。
今にも切れそうなほど弱弱しく細い繋がりで、何度も結びなおしたような跡が見られるが、決して途切れることがないようにする意志が込められた繋がりは、現世へと続く一筋の光のようだった。
なぜそこまで、自身の存在が消えゆこうとしてまで繋がりを保ち続けたのか。興味の尽きぬ―の、訳を知ろうと現世へのつながりをたどり見たのはごくありふれた世界の摂理であった。
興味の薄れた存在は覆っていた―を手放すと天上へと帰っていった。
それから時は流れ、始めは拳ほどあった―が時を刻むごとに小さくなり、赤子の手よりも小さくなってからは、つながりを維持する事すらも難しくなっていたが、それでも決して繋がりが完全に切れるようなことはなかった。
だが、決して切れることのなかったつながりも、―が消失すると消えゆく事が分かるほどには育っていた―の意思は、大部分が占めていた苦痛より苦悩と後悔、そして無念の思いを思い出していた。
時が立ち、さらに小さくなりゆく―が消失する間際、優しく包みこむように両の手で救い上げられる時、どこか懐かしい思いと共に声がかけられたような気がした。
「本当に、変わらぬ愛しき子よ」
天上から繋がりが消えゆく光に僅かな―をのせてから光は天上から現世へと流れ落ちるようにして消えていった。
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とある病院の一室。
病室の前では手を組み祈る男や夫婦が静かに何かを祈るようにして待っていた。
時間が経ち病室からさっきまでとは違う大きな泣き声が聞こえると、病室の前では夫婦は抱き合い男性は祈りを感謝にして声をあげて泣いていた。
病室から面会の案内をされると、病室の中には赤子を手に抱きながら涙を浮かべて抱きしめる、女性の姿があった。
女性は病室の前で立ち尽くしていた男性と目を合わせて近くまで来るように呼ぶと、今までどうやっても決まらなかったわが子の名前について話し始めた。
「あのね。この子の名前なんだけど…つばさがいいなって思ったの。どんな場所にもどんな所へでも飛んでいける名前。私たちが守って育てて大きな翼を持って生きて行ける名前にしたいなって思ったの」
男性は涙を流しながら女性の言葉に賛成して、2人で大切に育てていこうと周りの医師や看護師まで心が暖かくなる雰囲気を醸し出していた。二人がその空気に気付いて恥ずかしそうに笑いあった後は、2人の両親も加わって再び幸せな風景を作り出していた。
時がたち自宅へと変える途中の道で、一組の夫婦が子供の手を繋いで歩いている子供の胸元には、きれいに加工された青い羽のペンダントが揺れていた。
お読みいただきありがとうございます
・なぜ姉弟を救うためにここまでしたのか
・天上の女神が助けたのはなぜなのか
タイアップ期間が終わった後に少しづつ書いていきたいと思います