episode45
予定していた昼の集合時間。
集まったのは、厨房を担当していた処刑人二人以外のメンバーだった。
単身現れたヒュウに、グレウが他二人の不在の理由を問いかける。長髪の青年曰く、あの二人には抜け出せるよう外から仕組んだそうだが、一向に出てこなかったと言う。
渋々厨房へ名指しで呼び出したはずだのに、いくら待てど合流できなかったため一人でここへ来たそうだ。
「他の使用人たちも見てないって言ってたし、どこ行ったんだろ」
「じゃあ探そうよ。カツェル、探し物を見つけるのは得意なんだっ」
頭上に疑問符を浮かべるヒュウへ、勢いよく少女が手を挙げる。自信ありげな笑顔で言う彼女に、傍らの男も頷いた。長であるグレウは、あの二人が勝手な行動をするとは考えにくいと断言する。
一先ず、軽い報告会をしたのちに一行は、二手に分かれて城内を歩き回ることとなった。
しかし厨房に赴くも知らないと返され、休憩中のメイドたちに尋ねても首を振られるばかりだった。今日来たばかりの新人の顔など覚えられていないこともあり、聞き込みは不発に終わる。
カツェルが残り香を辿ってみるも、途中で何度も強い香水や花に惑わされて上手く進まない。
結果として、彼らが見つかることはなかった。
生きている形では。
昼休憩が終わるという頃、悲鳴が廊下を響き渡る。
即座に動いたのはリグだった。髪の中に隠した狼耳が拾い上げた、甲高いメイドの声の所在地を的確に割り出す。厨房の方角へ走ると、人気のない倉庫に着いた。
そこで目にしたものは、腰を抜かし震えるメイド。そして赫に塗れた壁と床――転がる二つの肉塊だった。
顔を顰める青年を追って、他の者たちも駆けつける。同じ景色を見た処刑人たちが息を呑み、カツェルが悲痛な声を上げた。
「おじ様っ この匂い、マシューさんとオーウェンさんだよっ」
転がる二つの遺体は、どちらも上半身が鋏で切られているかのようになくなっていた。内臓までも切りたての野菜のような断面で、残った足が力なく投げ出されている。
手前、震えながら顔を両手で覆う女給の隣に、ヒュウが膝をつく。見てしまったことによる衝撃が大きすぎたらしく、彼女は短い息をして身を縮こませていた。
安心できる場所へ運ぶと言い、彼はメイドを抱きかかえて立ち去る。その後を追いかけつつ、弟子が執事長を呼ぶと言った。
無音の訪れた現場。
立ち尽くすリグ、困惑を隠せないカツェル、顔色一つ変えないグレウが、まだ熱を持つ亡骸を注視している。
少女は悲しげな目をして呟いた。
「このお仕事終わったら、おいしいタルトごちそうするって言ってたのに。二人が食べられちゃうなんて」
赫に手を伸ばそうとする。それを男が野太い声で制止した。
「言動を慎めカツェル。俺たちはいつ死んでも可笑しくない、これもまた運命だ」
仲間が死んだというのに、長の言葉は諦めの意味合いが強かった。まるで仕方なかったと言っているようで、リグは顔を向けられずにいた。胸中で、この人の姿勢は揺らいでいないのだと思い知る。
居た堪れない空気が流れる中、おもむろにグレウが踵を返す。金髪の青年に背を向けて彼は言った。
「お前たち、ここは任せた。俺は人外を始末する」
その台詞が自分にも向けられていると気づき、リグは翡翠の目を見開く。咄嗟に返事をしようとしたが、何故か声は発せられず詰まってしまった。喉を絞められているのに似た苦しさが、彼の意思を阻む。
まごまごしているうちに父親の姿は見えなくなり、入れ替わるように執事長を連れたシュリが戻ってきた。
「リグさん、私は先生とともに犯人を摘発します。貴方はカツェルと一緒にここの処理と、使用人たちに注意喚起をしてください」
「り、了解した。頼む」
幼い顔立ちから発せられる的確な指示に、リグの瞳が揺れる。瞬く間に少年は体の向きを変え、走り去ってしまった。
バタバタと喧騒に染まっていく廊下。
取り残された気がして、彼は強く奥歯を噛み締める。
(何をぼうっとしてる。ここでは唯一の軍人だ、おれがしっかりせずにどうする)
心中で叱責し、彼は一歩前へ歩み出た。
*
殺人事件が起こったという話は、波紋のように使用人内で広がっていった。従者も家政婦も、漠然とした不安と焦りを感じている。
彼らが仕事の合間にひそひそと取り沙汰する最中、シュリは師のもと――使用人区画へと駆けてきた。出入り口付近に到着するのと同時に、女中を休ませたらしいヒュウが戻って来る。
彼はエプロンを脱いで、弟子にも動きやすい格好になるように言った。
「多分、相手には僕たちの存在がバレてる。だから処刑人たちを狙って先に襲ったんだろ」
「仰っていた例の蜘蛛の人外ですね。やはり他の場所に移動して」
「いや、違う」
師はシュリの言葉を遮り、神妙な面で言い切った。
「相手はもう一体いる」




