表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/108

episode45

 予定していた昼の集合時間。

 集まったのは、厨房を担当していた処刑人二人以外のメンバーだった。


 単身現れたヒュウに、グレウが他二人の不在の理由を問いかける。長髪の青年曰く、あの二人には抜け出せるよう外から仕組んだそうだが、一向に出てこなかったと言う。

 渋々厨房へ名指しで呼び出したはずだのに、いくら待てど合流できなかったため一人でここへ来たそうだ。


「他の使用人たちも見てないって言ってたし、どこ行ったんだろ」

「じゃあ探そうよ。カツェル、探し物を見つけるのは得意なんだっ」


 頭上に疑問符を浮かべるヒュウへ、勢いよく少女が手を挙げる。自信ありげな笑顔で言う彼女に、傍らの男も頷いた。長であるグレウは、あの二人が勝手な行動をするとは考えにくいと断言する。

 一先ず、軽い報告会をしたのちに一行は、二手に分かれて城内を歩き回ることとなった。

 しかし厨房に赴くも知らないと返され、休憩中のメイドたちに尋ねても首を振られるばかりだった。今日来たばかりの新人の顔など覚えられていないこともあり、聞き込みは不発に終わる。


 カツェルが残り香を辿ってみるも、途中で何度も強い香水や花に惑わされて上手く進まない。

 結果として、彼らが見つかることはなかった。


 生きている形では。


 昼休憩が終わるという頃、悲鳴が廊下を響き渡る。

 即座に動いたのはリグだった。髪の中に隠した狼耳が拾い上げた、甲高いメイドの声の所在地を的確に割り出す。厨房の方角へ走ると、人気のない倉庫に着いた。


 そこで目にしたものは、腰を抜かし震えるメイド。そして赫に塗れた壁と床――転がる二つの肉塊だった。

 顔を顰める青年を追って、他の者たちも駆けつける。同じ景色を見た処刑人たちが息を呑み、カツェルが悲痛な声を上げた。


「おじ様っ この匂い、マシューさんとオーウェンさんだよっ」


 転がる二つの遺体は、どちらも上半身が鋏で切られているかのようになくなっていた。内臓までも切りたての野菜のような断面で、残った足が力なく投げ出されている。


 手前、震えながら顔を両手で覆う女給の隣に、ヒュウが膝をつく。見てしまったことによる衝撃が大きすぎたらしく、彼女は短い息をして身を縮こませていた。

 安心できる場所へ運ぶと言い、彼はメイドを抱きかかえて立ち去る。その後を追いかけつつ、弟子が執事長を呼ぶと言った。


 無音の訪れた現場。

 立ち尽くすリグ、困惑を隠せないカツェル、顔色一つ変えないグレウが、まだ熱を持つ亡骸を注視している。

 少女は悲しげな目をして呟いた。


「このお仕事終わったら、おいしいタルトごちそうするって言ってたのに。二人が食べられちゃうなんて」


 赫に手を伸ばそうとする。それを男が野太い声で制止した。


「言動を慎めカツェル。俺たちはいつ死んでも可笑しくない、これもまた運命(さだめ)だ」


 仲間が死んだというのに、長の言葉は諦めの意味合いが強かった。まるで仕方なかったと言っているようで、リグは顔を向けられずにいた。胸中で、この人の姿勢は揺らいでいないのだと思い知る。


 居た堪れない空気が流れる中、おもむろにグレウが踵を返す。金髪の青年に背を向けて彼は言った。


「お前たち、ここは任せた。俺は人外を始末する」


 その台詞が自分にも向けられていると気づき、リグは翡翠の目を見開く。咄嗟に返事をしようとしたが、何故か声は発せられず詰まってしまった。喉を絞められているのに似た苦しさが、彼の意思を阻む。


 まごまごしているうちに父親の姿は見えなくなり、入れ替わるように執事長を連れたシュリが戻ってきた。


「リグさん、私は先生とともに犯人を摘発します。貴方はカツェルと一緒にここの処理と、使用人たちに注意喚起をしてください」

「り、了解した。頼む」


 幼い顔立ちから発せられる的確な指示に、リグの瞳が揺れる。瞬く間に少年は体の向きを変え、走り去ってしまった。

 バタバタと喧騒に染まっていく廊下。

 取り残された気がして、彼は強く奥歯を噛み締める。


(何をぼうっとしてる。ここでは唯一の軍人だ、おれがしっかりせずにどうする)


 心中で叱責し、彼は一歩前へ歩み出た。


 *


 殺人事件が起こったという話は、波紋のように使用人内で広がっていった。従者も家政婦も、漠然とした不安と焦りを感じている。


 彼らが仕事の合間にひそひそと取り沙汰する最中、シュリは師のもと――使用人区画へと駆けてきた。出入り口付近に到着するのと同時に、女中を休ませたらしいヒュウが戻って来る。

 彼はエプロンを脱いで、弟子にも動きやすい格好になるように言った。


「多分、相手には僕たちの存在がバレてる。だから処刑人たちを狙って先に襲ったんだろ」

「仰っていた例の蜘蛛の人外ですね。やはり他の場所に移動して」

「いや、違う」


 師はシュリの言葉を遮り、神妙な面で言い切った。


「相手はもう一体いる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ