episode42(ⅱ)
ヒュウは弟子に視線を遣りつつ、話を切り出す。
「従者として働くって聞いてはいたけどこの人数だ。三つに分かれよう」
彼は平生と変わらぬ笑顔を浮かべて提案し、手早く役割を分担した。
庭園や城周りをグレウとシュリ、城内の清掃をカツェルとリグ、厨房をヒュウとその他二人の処刑人が担当することになる。
調査期間は、国王と王妃が隣国訪問をしている間の本日のみ。
従者たちに怪しまれないようにするため、何より顔と名を覚えられてしまっては融通が利かないため、このような無謀な依頼内容となっている。
あまりにも短い猶予に、流石のカツェルも弱音を吐いた。後方の処刑人たちも互いの顔を見合わせている。
言わずもがな、シュリも遂行不可能な要求だと感じていた。失敗したとしても報酬がないだけであってリスクはないが、あの弟の様子である。何か文句を言われるに違いない。
少年は目を伏せた。
(まるで、昔の私を見ているみたいだった)
傲慢で身勝手な言動は、彼には似合わない。むしろ穏やかな人間だったはずだのに見る影もなかった。
不安な空気を割るようにグレウが立ち上がる。早いところ行動するべきだと言い、ドア付近にいた執事に歩み寄った。
彼の言葉に、シュリは胸の奥に走る痛みを投げやりに遠ざける。
担当する場所に合わせた服に着替え、彼等は一度解散することになった。
気掛かりは、人外である師が処刑人二人と組んでいることだ。本人はヘラリと笑って心配ないと言うが、少年は瞳を濁らせたままでいる。
「他人のことより自分のことだ。君こそリーダーに迷惑かけるなよ」
師はそう言って去り際、骨張った手で弟子の頭を撫でてやった。
その少し離れた隣、茶髪の少女がリグの顔をまじまじと見つめている。葡萄色の円な瞳には不純物など一切なく、ただ真っ直ぐに青年に視線を向け続けていた。
長身の青年は不思議に思って小首を傾げると、カツェルも同じように頭を傾ける。
「リグさんだっけ。よろしくねっ」
ぱっと花が咲くように笑いかけられた。
意図のわからないにらめっこをさせられ、彼は困惑したが、すぐさま気を取り直す。
「こちらこそよろしく。ルーカスと言ったな、レイツァから話は聞いてる」
「ほんと! えへへ、なんだか恥ずかしいな」
処刑人とは思えないほどに無邪気な返答に、リグは表情を固めた。
これが父上が拾ってきた子どもなのかと。
背格好よりも幼い反応が、まさかあの男にも向けられていたと考えるだけで違和を感じる。厳粛で静かな彼が、自らの判断で彼女を傍に置き続けているとは考えられない。否、考えたくない。この娘が勝手に懐いているだけではないのか。
彼は無意識のうちに顔を顰めてしまっていた。
だが、カツェルの呼ぶ声にはっとし、仕事の準備に取り掛かったのだった。
*
朝露の伝う庭園は、一輪として花が咲いていなかった。代わりに周辺を囲む常緑樹が、寒さを耐え忍びながら黎明の光を受けている。
グレウとシュリは、庭師という役名を任されていた。
早い時間なこともあってか外には人影がなく、捜査をするには好都合だ。
大小極端な影が奥へ行く。
いくら潜入のためとは言え、振りだけでも庭師としての仕事も熟さなくてはいけない。剪定鋏を片手に、少年は偉丈夫の隣を歩いていた。
「この付近に食いかけの死体があったと聞いたけど」
「あぁ、発見された場所は共通して普段使われない場所だった。内訳は確か……外で一カ所、王宮内で二ヶ所だったか」
綺麗に整えられた緑は、寒国に適応した強かな顔つきでこちらを見ている。霜に当てられてしまった箇所は切り落とし、歩きながら作業をした。
冬が終わったとて、朝晩は凍えるほどの寒さである。
シュリは大きな革手袋の下の手をきつく握った。感覚が鈍る気がして落ち着かなかったのだ。
やがて二人は現場に辿り着く。
事前に知らされていた情報と合致する場所だったが、時間が経っていることもあって特に何も残されていなかった。
グレウは周囲を見回し、ふと、ロープが繋がれている空間を見つける。城の壁と壁に結ばれたものが、高さの違う状態で数本あった。
洗濯物の乾燥場だ。
近くには直接城内へ入ることができる扉もある。
そこを注視したまま彼はシュリに、扉の向こう側は何があるかと問うた。子は驚きつつも回顧する。鋭痛が頭を駆け抜けたが、なんとか思い出した。
「洗い場と、風呂場。少し離れているけど、古い書庫があったはず」
かつて奴隷として働かされていた記憶が蘇る。思わず彼は苦しそうな表情をするが、男の淡白な返答に顔を上げた。
何かに気づいたのか、ただの質問だったのか。
グレウはそれ以上口を開くことなく歩み出した。




