僕の彼女が初過ぎる〜1年経ってもキスできない。と思ったら何か理由があるようで……?僕と彼女のあべこべラブコメディー
クリック(タップ)頂きありがとうございます〜
「ほら、付いてるよ」
そう言いながら、僕は彼、キースの頬についている、ケチャップを舐めとった。
周りの席から、女の子の黄色声が上がる
「やめろ。」
キースは眉根を顰めて、そう言った。
「女の子が喜ぶからね。きっとモテるさ。」
キースはすっと通った高い鼻筋、形の良い薄い唇、そして良い筋肉を持っているが、
三白眼は鋭くて、イケメンなのに隠しきれない圧迫感があった。
僕は、キースと幼馴染なので慣れているけど。
「……なんか、チゲぇ…」
僕がキースに、「モテるから任せて」と言って彼にした行為は、どうやら彼のお気きに召さなかったようだ。
「でも、ファンの子に声掛けられるようになっただろ?」
「俺らの関係を聞く。毎回だ。」
「そこで、君に興味を持って貰えば良いんだよ」
「お前こそ、恋人は?」
「僕?……そうだなぁ……今は恋愛する気ないよ」
僕はキースの耳元に顔を寄せる。
「ちやほやされるのが、好きなんだよ。」
僕はキース向かってニッコリ微笑む。
「刺されるぞ?」
「羽根のように軽い女の子を抱き留めれるなんて、役得だよ。」
僕は、キースに聞こえる程度に囁く。
「それに、僕はタンクだよ?」
「振る舞いも、どっしり構えとけ」
「う〜ん。それは、女の子たちが魅力的すぎるから、無理だね。」
また、黄色声あがる。
幾人か男もいるが、ちやほやされる分には、性別は問わない。
僕は心の広い男だからね。
バタッ、ガッ!
ギルドの扉が開いた。
木製の、殆ど外の景色が見える扉で、軽いために、少しの力で壁にぶつかり、
跳ね返ってそれをまた、バンッ!と壁に押し付けられるか?と言うのが、
初めて来た冒険者が、初心者か中堅以上かを見分けるメアスとなる。
今回は、後者のようだ。
しかし、そこで一際目を引く女性がいた。
純白に銀の刺繍をされたシスターの服なのに、何処か黒薔薇の似合う妖艶な風貌であり、左目のちょうど真下にある黒子が、より艶かしさを際立たせていた。
骨格がしっかり見えるのは、体型が細身だからだろう。
しかし、それがまた体の柔らかな曲線を強調して見えた。
髪型は、丸みを帯びたショートカットで、触れば、フワッとした感触がしそうだ。
脳内で、それを触ってみてた時の感覚を一瞬、想像した。
そう、ドストライク。
一目惚れだ。
「どうした?」
「あ…いや。彼らは?」
「Bランクパーティーの龍の牙だ。
期待のルーキーらしい。」
「名前は?」
「いや、そこまでは。気になるのか?」
「…あぁ」
「姉貴なら、知ってるだろ」
ガタッ!
僕としたことか、立ち上がる時に音を立ててしまった。そんな事は関係ない!
「聞いてくる」
僕は、そそくさと受付へ向かった。
視界の端に、キースの呆然とした顔が目に入った。
次の日。
「やぁ、美しいレディーたち、それと君たちも、宜しく。
僕は、風の便りのリーダーのロイド。
一応、君たちの先輩だね。
仲良くしてくれると、嬉しいよ。
特に、レディーたちは、ね。」
僕は彼女らにウィンクした。
「あ、あぁ…」
少し頬を染めているのが、金髪を高い位置でポニーテールにした槍を持つ、
気の強そうな女性、リザである。
「そうですか」
そして、何でもないように微笑しながら答えるのが、天使よりも可愛らしい、
ネリスちゃんである。
とはいえ、名前はまだ聞いていないから呼べないし、
普通は、僕の愛しいマイエンジェルとか言っても、
好意が分からない状態で呼ぶのは、マイナスになりかねない。
しかし、それは女の子が男嫌いか、
イケメンでなない人間くらいだろう。
つまり、このイケメンフェイスには自信があるから、ガンガン攻めるのが良いことはわかっている。
女の子は、ちょっと強引なくらいのほうが、グラッとくる子も多い。
…いや、まぁ…ある程度は趣向によって変化するけどね?
チャラ男とか、絶対無理!っていう、女の子も偶にいるから。
と言っても結局、僕が優しい男だって知ると、女の子はみんな僕に好意を持つけどね。
っと、傲慢な考えは行動にも現れてしまう。気を引き締めないと。
僕は、紳士な男なんだから。
「オレが、龍の牙のリーダー、アレクだ。んで、アンタ強いのか?」
アレクは、燃えるような赤い逆だった髪が特徴的な男だ。
パーティーメンバーの中でも、一番若く見える。
「アレク。失礼ですよ。」
マイエンジェルのネリスちゃんが言う。
「マイエンジェル、構わないよ」
…あ。言っちゃった。
マイエンジェルのネリスちゃんは一瞬、ピクリと頬が引き攣ったが、
直ぐに変わらぬ微笑になる。
う〜む。感情が読みにくいなぁ〜…
「僕は、パーティーのリーダだけど、
一番強いとは言えないね。
僕はタンクだし、個人戦なら剣士のゼラが強いと思うよ。」
「そんな、ほせぇーのにタンクなのか?」
「身体強化と、魔法のお陰だよ」
「へ〜じゃ、そのゼラって奴と合わせろよ。」
「良いよ。ほら、そこのテーブルに座ってる目つきの悪い白髪の男だよ。
ゼラ!」
「目付きの悪いは、余計だ」
ゼラは、僕らの会話を聞いていたようだ。
「らしくないな」
ゼラは訝しげに此方を見る。
「そうかい?」
僕は、心底分からない、という風に答えた。
ゼラは、僕の演技じみた仕草を訝しげに見つめる。
いつもならパーティー接触するし、予め情報も収集して相手を判断しに行く。
情報なんて殆ど、マイエンジェルのネリスちゃんの名前を聞くだけで
終わったし、仲間との相談もしていない。
よく考えれば、そこそこ軽率な行動だった。
いくら、僕らのパーティーがAランクとはいえ、絶対に危険が無いとは言えないからだ。
慎重な僕らしくないのは、確かだった。
恋は盲目というが、僕もそれに当てはまったらしい。
とはいえ、やってしまったモノは仕方ない。
リーダのアレクは単純な戦闘バカのようだし、問題になりそうなタイプとは思えない。
どちらかと言えば、このパーティで一番影の薄い、元暗殺者との噂の……
…ゲインだっけ?彼は龍の牙がCランクパーティーと揉め事があった際に、
キレて、1人でそのパーティを皆殺したらしいし。
そして、暫くパーティー活動の停止を食らったとか。
よくある事、と言ったらアレだけど、キレられたら、僕一人じゃ耐えられないかもしれない。
どっちかと言えば、ゲインの方を気をつけておこう。
彼は、黒いフード付きローブを被っていて、顔は見えない。
後ろで括ってあるらしく、束となった青色の髪が胸に垂らしている。
武器の類は見えず、恐らくフードの中に何種類もの武器を隠しているのだろう。
数週間が経った。
彼女は、僕が特別扱いしているのに気がついたらしい。
今までは、僕が誘っていたが、彼女から個人的に誘いを受けた。
すごく、不安だ。
そもそも、彼女は聖職者である。
恋愛できないので、お断りします。
と言われることの方が、可能性は高い。
それに、理想は彼女が僕のことを自然と好きになり、告白という流れである。
というか、その流れしか僕は経験したことがない。
だからこそ、そんなにいい雰囲気に成らなかった彼女が、僕の事を好きっているのか?それとも、拒絶するのか。
非常に不安だ。
不安すぎる。
しかし、男は度胸である。
僕は、女の子と1線を引いてはいたものの、告白されたことはある。
そして、その尽くを断ってきた。
つまり、断られる覚悟も持っていなければならない。
そうでないと、女の子側にも失礼である。
…よし。行こう。
どんな結果になっても、スマートに行動するのだ。
見苦しく縋る姿なんてネリスちゃんに見せられない。
「私、好きです。」
ネリスちゃんは、雑貨屋で小物を見ている途中、何でもないように言った。
「僕も、好きだ。」
「一緒ですね」
ネリスちゃんは、今までとは違う、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
それから、僕らは付き合いことになった。
今、僕らははカフェにいる。
白と茶色を基調として、ワンポイントで観葉植物なんかが置かれている、落ち浮いた雰囲気だがオシャレなカフェだ。
「ネリスちゃんは、甘いもの苦手なんだね」
「ロイドさんが甘いもの好きなのは、意外です」
「僕、コーヒーもブラックで飲めないしね。」
「…私と一緒にいた時、ブラックでしたよね?」
「カッコつけてたんだよ。」
「言っていいんですか?」
「恋人同士だからね。隠し事はなしだよ。」
「…そうですね」
ネリスちゃんは右肘を付いて、左手で小さなスプーンを使いコーヒーを混ぜながら、窓の外を見つめる。
「ふふっ」
「?どうしました。」
「肘」
「…あ。行儀悪いですね。」
「でも。気を許してくれてるって感じがして、嬉しいな。」
「そうですか…」
ネリスちゃんは、恥ずかしそうに視線をそらした。
数週間。
「あの人、良かったんですか?」
彼女が言っているのは、先程ファンだと言って抱き着こうとしてきたばかりか、
恋人になって欲しいと、隣町から態々やって来た女の子のことを言っているのだろう。
もちろん、僕はネリスちゃん1筋なので、丁重にお断りしたけど。
「もちろん。僕のマイエンジェル」
「それ、恥しいって言いましたよね?」
「ふふ。ごめんね。ネリスちゃん」
「……あの」
僕は、真剣そうな表情のネリスちゃんから言葉を待つ。
「ご注文の品をお届けしました。コーヒーと紅茶、フルーツパフェになります。」
「ありがとう」
店員は、少し頬を染めながらもテキパキと配膳してくれた。
僕は、フルーツパフェと紅茶をコーヒーと交換した。
「あ、このコーヒー美味しいです。豆のいい香りがしますね。」
「うん。このフルーツパフェもおいしいよ。特に、フルーツが瑞々しくって。
フルーツだけ食べる?」
「あー折角なので」
「何がいい?」
「えーと…」
そうして、月日は過ぎていく。
ネリスちゃんと恋人となって約1年。
僕は、彼女が過度な接触をしないようにしている事へ、気がついていた。
男嫌いの毛がある女の子や、初な女の子が良くする行為である。
しかし、かと言って1年も付き合った恋人にまで、するだろうか?
それとも、僕が急ぎ過ぎているのだろうか?
本当の恋愛経験なんて、殆どない僕には判断が出来なかった。
でも、キスの一つやニつくらいは有ってもいい筈なのに、彼女はやんわり避けてくるから、如何しても先に進む勇気が出なかった。
「ね、なに悩んでんの?」
長い白髪を緩く巻いている受付嬢は、ゼラの姉である。
釣り目はゼラに似ているものの、彼女の場合は常に微笑を浮かべ、釣り目を隠すように化粧をしている。
そのため、上品な女性という雰囲気である。
「セラ姉さん。」
「彼女のこと?」
「…そうだよ」
「喧嘩したの?」
「いや」
「聖職者だから?」
「…いや、彼女は厳格なタイプではなくて…」
「それで?」
「キスの一つも、まだ出来てないんだ」
「…え。キス?ロマンティックな雰囲気が作れないのね?」
「いや、僕も初めはそう思って、薔薇を渡したり、個室のレストランに入ったり、海へ行ったりと、色々してるんだけど……
彼女が避けてるみたいで…」
「なら。聞いてみなさい」
「え。いや、え?」
「それしか、ないでしょう?」
セラ姉さんは、じいっと見つめてくる。
僕は根負けした。昔から、セラ姉さんには勝てない。
「……はい。」
「じゃあ、はい。とっとと行ってくる!」
セラ姉さんは、ドンっと、僕の背中を押した。
「わ、分かったよ。セラ姉さん!」
「ネリスちゃん」
「どうしたの?」
「聞きたいことが、あって……ネリスちゃんが、何で僕を避けてるのか」
「避けてる?ですか。」
「その、手を繋いだりするのも、いつも恥しそうで………ネリスちゃんに対して、愛してる、って言っても、ネリスちゃんはいつも、そっぽを向いてしまうよね。
初めは、照れ隠しだと思っていた。でも、今なら分かる。ネリスちゃんは、そう言う時いつも辛そうだった。
理由があるなら、教えて欲しいんだ。」
「…場所、変えましょうか。
私の家。教会でいいですか?」
「あ、ああ」
ネリスちゃんの家に行くのは初めてだ。
「その、私。この話は、信じてくれないと思います。 頭の可笑しい女だと思うと、思います。
それでも聞きますか?」
ネリスちゃんは、これ以上ないくらい苦い顔で言う。
「うん。聞くよ。聞かないと、判断できないからね」
そうして聞いた話は、殆ど僕の秘密と似通ったものだった。
彼女は、前世日本で生きていた高校生、それも男性だった。
それが、死んで目が覚めると異世界に転生して、女になっていた。
孤児で野垂れ死にそうなところを神父に拾われて、今は神父にお金を返すために冒険者として働いていると言う。
そこで、僕と出会った。
彼女は、常々男たちにその美貌から纏わりつかれて困っていたそうだ。
髪が短いのも、男対策のようで、しかし、まだまだ彼女に言い寄る男は多かった。
そこで、沢山の女の子たちを相手にしている僕を選んだ。
他の男に言い寄られても、僕はAランクの冒険者のリーダである。
実力は十分。
それに、本気にならないと思ったらしい。
しかし、日が経つごとに僕の愛が、ネリスちゃんへ真っ直ぐと向いており、女の子たちとも、1線を引いて接している事に気がついていた。
「本当は、ロイドさんが、本気だと分かった時点で、別れるべきだったんです。
すみませんでした」
「そっか…ネリスちゃんは僕のこと、嫌い?」
「い、いえ。嫌いでは。
他の男性方よりも随分、紳士的に対応して下さっていることは、よく分かるので。
元男ですし。あの、信じてくれるんですか?」
「うん。だって僕も元女の日本人だし。」
「………へ?」
「死んだのも、ネリスちゃんと同じ高校生の頃だよ」
「…な、なら。何で私が好きだと」
「好きだからだよ。愛に性別は関係ない。」
僕は断言した。
「は、はぁ…」
ネリスちゃんは木の抜けた声をもらした。
「だから、僕はネリスちゃんに好きになってもらえるよう頑張るよ。」
「話きいてましたか?」
「うん。
その上で、僕はネリスちゃんが好きだし、ネリスちゃんに好きになって欲しい。
だから、これからも宜しくね。ネリスちゃん。」
「いいんですか?元、男ですよ。」
「うん」
「男避けに利用してたんですよ?」
「うん」
「私、お金に汚いですよ」
「うん」
「私、可愛くないですよ」
「ネリスちゃんは可愛いよ」
「愛せるか、わからないのに?」
「愛させてみせる」
僕は変わらず、ネリスちゃんのアメジスト色の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「…はぁ……………わかりました。
宜しくお願いしますね。
ダーリン」
「もちろんだよ、ハニー」
「…言うんじゃ、ありませんでした。」
ネリスちゃんは頬を赤くして、僕を睨みつけた。
僕は笑ってしまった。
「笑わないでください。」
「ごめんごめん。ネリスちゃんが、あんまりにも可愛いから。」
「もう」
僕らは顔を見合わせた。
それからフッとお互い吹き出して、暫く笑いあていた。
読んでくださり、ありがとうございます〜
宜しければ、ブックマーク、いいね、高評価、
他作品の閲覧などして頂けると作者が狂喜乱舞いたします〜