幼馴染みの結婚
数年振りに幼馴染みから連絡があった。疎遠になってしまった彼女は自分の知らない時間の中でどんな経験をして成長していったのだろうか?
自分の知らない時間の中でもわかることはある。美少女だった彼女もこの数年間の間に美女に成長しているはずだ。
幼馴染みからの連絡は両親を経由して伝えられた。結婚の連絡。
相手は拓也というクラスメイトだった。2人は小5から付き合っていた。
2人が付き合うことになったきっかけは……おそらく自分にある。あの時、選択肢を間違えなければ、大好きだった彼女の隣には拓也ではなく自分が居たのだろう。
小5のあの日を思い出す。
「ショウちゃん」
幼馴染みの深雪。当時は雪ちゃんと呼んでいた彼女がはにかみながら語りかけてきた。
家が隣ということもあり、ものごころついた時から近くにいた雪ちゃんは年を追うごとに綺麗になっていった。そして、思春期をむかえ彼女が向けてくる好意に嬉しさと恥ずかしさが入り雑じり、素っ気ない態度をとることが増えてきていた。
深雪とのこの関係がずっと続いていくと思っていた。綺麗になった彼女に好意を持つクラスメイトが沢山いる事を知りながら……幼馴染みというアドバンテージにおごっていたのだろう。
「一緒に帰ろう」
「ごめん。用事あるから無理」
雪ちゃんの誘いを今日も断ってしまった。これで3回連続で……
彼女の悲しそうな表情に胸が痛むが、この頃のクラスメイト――男子の中では〖女子と一緒=カッコ悪い〗という風潮が拓也を中心に築き上げられていた。
雪ちゃんと仲良く一緒にいることの嬉しさと恥ずかしさに加えてクラスの男子にからかわれるという事実が加わり、俺は周囲の目を気にする様になっていた。
この日も、さりげなく周囲を確認すると拓也とその友達の目。こちらを見ていた。
〖女子と一緒=カッコ悪い〗という風潮が出来上がってからはいつも俺達を見ていないかと思える程に拓也の目を感じるようになっていた。
必然的に素っ気なく冷たい対応をとることが多くなり……
俺を好いてくれていたはずの雪ちゃんにも不満や不安がたまってしまっていたのだろう。
「ショウちゃん。私の事……嫌いになっちゃったの?」
上目遣いに俺を見つめて尋ねる。ドキッとする程に可愛いかった。
その可愛いさに思わずのけ反り、俺は慌てて。
「嫌いなわけないだろ!」
「じゃ、じゃあ好き?」
不安そうに更に尋ねる雪ちゃんに『好き』と答えようとした瞬間。拓也の姿が目に入り俺は、
「すっ……ごめん。今日は本当に急いでいるから!」
雪ちゃんに答えを返さずに逃げるようにその場を後にしてしまったのだった。
それから数日の間、雪ちゃんは答えを待っていたのだろう。物憂げな目を向ける様になり……
そして。
その日が来てしまった。
朝。ランドセルを背負って何時もの時間に家を出るとそこには雪ちゃんの姿。
俺は朝から好きな娘と周囲の目を気にすること無く話ながら登校できると内心喜んでいたが……
「おはようショウちゃん」
朝の挨拶を交わすと雪ちゃんは言葉を続ける。その内容は……
「私。拓也君とお付き合いする事にしたから……」
「えっ?」
雪ちゃんの言葉に呆然とする。
「実は拓也君から先週告白されて、この1週間迷って……私決めたの」
言って雪ちゃんは俺の顔をじっと見つめ、そして悲しそうに顔を反らしたのだった。
思い返せばこの時が本当に最後のチャンスだったのだろう。だが、俺は彼女の言葉に呆然とするだけでそのチャンスに賭けることさえ出来なかった。
深雪と拓也が付き合いはじめてからそれは俺にとって地獄のような日々だった。
直ぐ隣にいたはずの好きな娘がクラスメイトと恋人関係になり、俺は拓也と付き合う深雪を見るのが辛くて彼女から距離を置くようになっていた。
そして、深雪も拓也との仲が深まるにつれて疎遠になっていった。まるで未練を断ち切るかのように……
2人が付き合う様になり、直ぐにクラスの風潮も変わっていた。〖女子と一緒=カッコ悪い〗から〖彼女や彼氏=カッコいい〗というステータスに……
拓也は俺に見せつけるかの様に深雪と仲良く過ごしていた。
深雪が中学の終わりか高校のはじめ頃に拓也の家を訪れてからは本当に話をすることもほぼ無くなっていた。
高校を卒業して俺は県外の大学へと進学した。
幼馴染みの深雪を忘れるために……
大学。就職と時は流れていくが深雪を忘れることは出来なかった。どうしても深雪と比べてしまい、彼女は出来るが長続きがしなかったのだ。それどころか深雪への思いを余計に募らせてしまう結果となっていた。
激しく後悔をする俺に両親から深雪の結婚の連絡があったのはそんな時だったのだ。
大好きだった幼馴染みの結婚式に出席する為に帰省する俺。
実家の門を潜ろうとした時、
「ショウ君?」
優しそうな女性の声。
振り向くとそこには見惚れる程に美しく成長した数年振りに再会した深雪とその婚約者である拓也。
「深雪」
「久しぶりね。元気だった?」
朗らかに笑う深雪。
「ああ。元気だよ……結婚おめでとう」
「ありがとう」
ぎこちない会話をする俺と深雪。
昔は何も考えずに会話が出来ていたのに……と、俺はそう思い悲しくなった。
選択肢を間違えてしまった結果。俺にとって最悪の結末をむかえてしまった。
そして、深雪の後で俺をニヤニヤと見つめる拓也の姿がとても印象的であった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
ご感想/評価/いいね等よろしければお願いいたします。
また〖受験勉強していたら幼馴染みの彼女が浮気してた。〗についても拙い作品ですがよろしくお願いいたします。