1 【 図書室の住人 】
「え~つまり、この遺跡の地下に眠っていたが今から約千年前に開発された召喚魔術であり――」
太陽が真上あたりに差し掛かった頃、オレの腹の虫が昼時の時間を知らせてくる。
長い長い教師の説明を右から左へと流し聞きながら、窓の外を眺めていると、何かがオレの頭に叩きつけられた。
「なぁ~にをしてるか。 ちゃんと授業聞いとるのか。 ハルト」
「・・・うす」
メガネを光らせながら見下ろしてくる教師に、オレは少しむくれながら短く返事をする。
すると先生は肩を落としながら深い深い、それはもう深い溜息を吐いた。
「あのなぁハルトよ。 お前わかっとるのか?」
「今日の昼飯がですか?」
「違うわバカタレッ! 今やってる授業がどれだけ大切な内容なのかをだ?!」
「あぁ・・・・なんか、遺跡がすごく珍しいものだって事は」
「バカタレがッ?! お前なぁ~んにも聞いとらんじゃないか!?」
先生の怒鳴り声がまさしく右から左へと豪速で通り抜ける勢いは寝ぼけていたオレの頭を起こすのには十分な威力だ。
おかげで少し耳鳴りがする。
「いいかハルト。 今度はちゃーんと聞いとれよ。 この遺跡は今から千年も前に」
キーン コーン カーン コーン
「あ、授業終わりっすね」
「・・・・はぁ。 仕方ない。 この続きはまた明日するので、皆も・・・特にハルトは! ちゃんと予習をしておくように! 号令~」
こうして、オレの退屈で平穏な午前授業が終わった。
◆ ◇ ◆ ◇
オレの趣味は本を読む事、というより物語を見る事だ。
小説、漫画、アニメ、ドラマ、なんでもいい。
兎に角、楽しくてワクワクして感動して、最後に納得のいくハッピーエンドを迎える物語。
それらを読み終えた後にある、なんとも言えない幸福な感覚が堪らなく心地が良い。
だから昼休みや授業以外の時間はすべて学校の図書室で過ごしている事が多く、他生徒からは皆がオレの事を 図書室の住人 と呼んでいる。
「お、いたいた。 おーい図書室のじゅうにーん」
そして、ここにもオレの事をそう呼ぶ生徒がいる。
「まったく君は、本当に本が好きなんだね。 もしかして住人じゃなくて妖精の類じゃないのか?」
「・・エルザ」
「はいはい私ですよー。 魔術図書委員長を任されている学園のマドンナ。 エルザ・ウインターとは私の事ですよー」
彼女はエルザ。
魔術図書委員長という名目で勝手に学校の資金で魔術書を買い込む変な女子生徒だ。
銀色の長髪に整った綺麗な顔、更には高校生にして大人顔負けのスタイルを持っている事で三大美女と有名だが、変な女子生徒だ。
っていうか自分で学園のマドンナって言うな。
「ん? 君が今、何を考えているか当ててあげようか」
「いや、いい」
「君は今、私が綺麗で大人顔向けのスタイルを持つ美女だと思っていただろう?」
「・・・」
「あっはっはっ! 沈黙は肯定したと言っているようなものだよ図書室の住人くん! 相変わらず可愛い奴だな! ・・恋人にしてやろうか?」
「いや、いい」
「おっと、即答とは傷つくな。 それともあれかな? 君、実は男の子の方が好k」
「違うに決まってんだろうがドアホ」
「あっはっはっ! 私にドアホなんて言うのは君くらいだよ!」
何が楽しいのか分からないが、エルザは毎日こうしてオレに変な質問をしては絡んでくる。
「それで? 今日は一体なんの用なんだ?」
「うん? そんなの決まっているだろう?」
すると、エルザは持っていたカバンから2つの弁当箱を取り出して、その内の1つをオレに渡してくる。
「お昼、まだだろ? 君の分、今日も作ってきたから一緒に食べよう!」
そして何故か、エルザは頼んでもいないのにオレの分の昼飯を作って持ってくるのだ。