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風波さんと休みの日

作者: DORA

皆さんは、土曜日に対してどんな思い出がありますか?

自分は、いつも引きこもってゲームをしていた記憶しかありません。正直、司くんが羨まし…何でもないです。

 上田(うえだ)(つかさ)、18歳。

 有明(ありあけ)町(ド田舎)在住。

 市ノ川高校に入学するも2年生に進級出来ず中退、理由は『成績が悪すぎて単位が取れなかったから』。

 その後は職探しをするも、あまり長続きする職には出会えていない。

 前回の仕事はコンビニのレジ担当だったが、傷害事件を起こしてクビになる。

 好きな物、レモンティー。

 好きな色、緑。

 得意教科、体育。

 苦手教科、国語、数学、日本史、歴史、世界史、化学、物理、地学、英語。

 友達、数人。

 親友、いない。

 家族、母親、父親、妹の4人家族。


 好きな人。

 風波(かぜなみ)みどり。


 5月14日。土曜日。

 その日の午後も面接が入っていた。スーツ姿に着替えて面接の練習をするというのが俺にとって最善の選択だが、そんな気力は一切なかった。

 理由?、暑すぎるからに決まってる。

 まだ5月だって言うのに太平洋だか大西洋だったか高気圧が張り出したため、ここ有明町でもかなり高い気温を叩き出していた。(スマホを見たら35度を超えていた、熱いお湯で顔を洗ってしまった自分をぶん殴ってやりたい)

 田舎だからヒートアイランド現象なんて起こるはずないのにな。

 ともかく、今スーツを着たら汗だくで面接に挑む事になる、そうなったら間違いなく不合格の通知が来るだろう。(しかも今回不合格なら5回連続不合格という不名誉な称号が貰える、要らない)それよりもこんないい天気なんだから、軽く運動がてら散歩に行きたいという結論に至った。


「母さん、俺ちょっと出かける」

「午後から面接じゃなかったの?」

「それまでに戻るからさ」


 靴紐を結んで、立ち上がる。ドアを開けて「行ってきます」と叫んだ。


 -----


 つっても、田んぼだらけだな…。

 どこまで歩いても田んぼしかない、わが有明町にテーマパークはいつ出来るのだろう。

 無理だな、町役場もボロいし。金ないし。

 そんな事を考えながら歩いていると、有明の人殺し坂に来た。

 傾斜5度の坂が500mほど続く、めちゃ長い坂である。

 人殺し坂なんて聞くとここで誰かが殺されたんじゃないかと誤解するかもしれないが、この坂を登ると誰もが貧血で死んでしまうみたいな事を小学生時代の友人達(ちなみに今もとは言っていない)が言っていて、それでこんな名前になったと言うだけだ。

 実際、18歳になってからこの坂を見ると、別にどうって事ない坂である。ただ、小学生の俺には、この坂はまるで崖のように感じていたのだろう。

 補足、この坂を登ると、隣の水川(みずかわ)町に出る。水川町はとても都会で、小学校、中学校、そして俺が退学した(成績が悪すぎて退学したのを、校長の恩義で自主退学とさせてもらった)市ノ川高校もそこにあり、段々長くなっていく通学時間にうんざりしながら通っていた。

 懐かしい。忘れかけていた思い出が甦ってくる。

 すると、俺から見て右手にある小道から女性が歩いてきた。チラッとこちらを一瞥(いちべつ)すると、人殺し坂を登り始めた。

 多分、俺が止まって坂を見ていた事が気になったのだろう。俺もその後に続くように歩き出した。

 水川町に行って、それからどうしよう。何かジュースでも買って帰ろうかなとか思っていると。

『ガチャン』

 大きな音が前から聞こえてきた。俺は思考を中断して前の方に意識を集中させる。

 見ると、ペンケースが地面に落ちていた。俺はそれを拾う。

 多分、前に歩いている女性の物だろう。俺は呼び止めた。


「すみません!、落としましたよ?」


 だが、その女性は反応しない。よく見ると、両耳にイヤホンを付けていた。だからペンケースを落とした音にも反応しなかったのか。俺はもう1度呼び止める。


「すみません!、ペンケース、落としてますよ!」

「え?」


 ようやく気づいた様子だ。そして彼女は俺の方へゆっくり振り向く。


「私ですか?」

「………」


 ショートカットのヘアスタイルに整った顔立ち、水色を基調にしたワンピース。(改めて、自分のファッションセンスの低さにヘコむ)

 一目惚れってあるんだなと、初めて実感した。


「あの…」

「あ……、えっと、すみません、これ。落としましたよ」


 慌てる女性に(慌てる)俺はペンケースを渡す。


「ああ…すみません!ボーッとしちゃってて」

「いえ、大丈夫ですよ、次から気をつけて下さいね」


 動揺のためか敬語になっているのは無視してほしい。俺は再び歩き出そうとした。したのだが。


「ちょっと待ってください」

「え?」

「少し、一緒に歩きませんか?」


 -----


 待て待て待て。

 ちょっと待て。

 いや違う俺はただペンケースを拾ってあげただけなのにこんな事になるなんて思ってもいなかったんですよとか混乱してい自分(を他所)に、彼女はもう話を続けていた。


「お名前、伺ってもいいですか?」

「あ…上田司です」

「上田さん…ですか?、ありがとうございます」


 別に感謝されるような事はしていないのだけれど…、この女性。とってもクールって感じがする。物静かそう。

 偏見だが。


「私は風波みどりです」

「みどりさん、はい」


 風波さんではなく『みどりさん』と親しげに呼ぶのもどうかとは思うが、それよりも。

 一生忘れることの出来ない彼女の名前をゲットした。それなのに少し歩いたらもう彼女の名前を呼べなくなる事実が悲しすぎる。


「司さん、その…2度も助けて下さり、ありがとうございます、本当は私からも何かお返しをしなきゃ行けないんですけど…」

「いや、別にそんなのはいいですよ!、ペンケースを拾ったくらいでお返しだなんて、荷が重すぎますよ…」

「ふふっ、そうですね」


 ヤバい直視出来ないほどの天使の微笑みだ。(元)職場の(元)上司の怒っている顔しか見ていない俺にとっては目に毒な光景だった。


「というか、2()()()?」

「はい…本当にありがとうございます」

「いや…俺は1度も助けてないけど…?」

「さっきのペンケースを拾ってもらった事、そして()()()()()()()()()()()()の2回ですよ?、もしかして、覚えていませんか…?」


 コンビニ…確かコンビニ関連で助けた事はあれくらいしかないのだが…?


 -----


 話は5月12日。木曜日に戻る。

 そう。俺がまだコンビニでレジ担当をしていた時の話だ。(凄い昔の話をしているように感じるが、実際は2日前である)

 その日は夜勤で、店長と俺の2人で店を回していた。店長が休憩室に入り、俺がレジに立っていた時の事である。


(ん…?あれって市ノ川高校の制服だよな…?、なんでこんな時間に…?)


 ロングヘアの女子生徒がコンビニに入ってきたのだ。

 時刻はすでに午前0時を回っている。こんな時間帯に出歩いていたら深夜徘徊で補導されるのは目に見えている。(俺は高校生ではないのでそこら辺は関係ない)

 俺はその時は面倒事には関わりたくなかったので、注意しなかった。すると、


「ギャハハハ…そいつはおもしれーな!」

「本当、30万くらい金取ってさ、取られた奴の顔マジで面白かったわ!」


 うわ…ヤンキー2名様ご来店じゃん。


「お前、何見てんだよ?、あ?」

「ああ…すみません」

「ビビってんのかよ!、ハハハ…」


 頼むから早くここから出ていって欲しい。酒の匂いがここまで漂ってくる。

 ここまでは別にどうって事ない、通常運転だ。


「お?、君、女子高生?」

「めっちゃ可愛いじゃん、市ノ川?何年生?」

「…近づかないで下さい」

「おっとー、怒った顔も可愛いですね?、『近づかないで下さい』だってよ!」

「良いとこ紹介してやるよ、こっち来いよ!」

「嫌です!、離して!」

「心配すんな、ちょっとだけだからよ」


 俺は何も考えずにそいつらの所に向かった。


「離してあげなよ」


 やっべ、ついに介入してしまった。面倒事に!


「あ?、なんだよ貧弱店員さんよお?、もしかしてやる気あんのか?」

「ああ、あるよ、その顔ちょっとぶん殴りたくなったんでな」

「てめえ…舐めた口しやがって!」


 ヤンキーの1人が、俺の顔をぶん殴る。俺は受け身を取る事も出来ず倒れた。


「あ!」

「ガキが調子にのんなよ!、さ、行くぞ」

「お前はその女連れて先に行っとけ、俺はこいつに分からせてやるよ!、正義のヒーローごっこはやめなってな!」


 いやいや、そんな事言うのは漫画の世界だけですって。

 ヤンキーは俺の背中を思いっきり蹴り飛ばした。衝撃で商品が全て崩れる。


「分かったよ、ほら行くぞ!」

「待てよ」


 傷だらけの身体を引きずって起き上がる。というか、正直言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、あまり痛みとして感じない。


「うるせえよ!黙ってろ!」


 再び、俺の顔目掛けて拳が飛んでくる。俺はそれを下から避けた。

 殴ってくるんだったら俺も容赦はしねえよ。空手8段の実力、見せてやるぜ。


 ヤンキーの顔を軽めにぶん殴った。衝撃で「ぐわっ!」と悲鳴が聞こえた。


「そいつを離せ、離さないと…」

「…っ!分かったから!、許せ!」


 女子高生が解放されたと同時に、店長が休憩室から出てきて、「なんじゃこりゃあ!」と叫んでいた。

 その後、俺は朝まで(店長による)取り調べを受けて後このコンビニをクビになったが、店長は警察に通報せず、俺が逮捕される事はなかった。コンビニを出る時に、


「君の判断自体は間違っていなかったと思う、ただ、暴力をしたのは間違いだったと反省してほしい」


 と店長に言われ、少し泣いてしまった。

 涙を拭いて、家に帰ろうと歩き出した時。


「すみません!店員さん!」


 後ろから声がかかった。見ると、さっきの女子高生が立っていた。


「ああ…すみません、こんな大事になってしまって…」

「いえ、こちらこそ…助けていただいてありがとうございます…、店員さんが殴られていた時も、私、何にも出来なくて…」

「大丈夫ですよ、自分が勝手にやっただけですし…」

「あはは…、でも、元はと言えばコーヒーを買いに来ちゃった私の責任ですからね…店長さんに叱られちゃいました」

「店長さん、ああ見えていい人ですからね…誤解しないでくださいよ…?」

「分かってますよ」


 彼女は微笑を浮かべる。


「本当にありがとうございました」


 そう言って彼女はお辞儀をし、向こうに走っていった…。


 -----


 回想終了。


「分かりましたか?」


 いや、何も分からない…というか、みどりさん、俺が長々回想してるの見えてるのかよ!


「コンビニで助けたと言えばこれくらいしか思い付かないんだけど…」

「それに私、ずっと登場してますよ!」


 ん…?

 ヤンキーは男2人組だったし、女子高生もロングヘアだったよな…?


「ああ!」

「分かりましたよね!」

「去年か!」

「違います!」


 若干キレられた。めっちゃ可愛い。


「ヒント、髪!」

「あ!、もしかして、髪切った?」

「何で回想シーン長々と書いて気づかないんですか!、鈍感なんですか!」


 突っ込まれた。めっちゃ可愛い。

 というか鈍感は余計だと思うけど…。

 つまり、女子高生=風波みどりと言う方程式が出来上がったと…、これテストに出るね絶対。

 司検定4級程度の問題。(このノリ終わりたい、めっちゃ)


「私、あれからロングヘアにするのが怖くなっちゃって…それで、ショートにしたんです」


 確かにヤンキー2人に絡まれるというのは女子高生のみどりさんからしたら相当怖いイベントだよな…。でもショートにした結果より可愛さが際立っているだけのような気がするが…。


「でも、ショートって良いですよね…、髪をわざわざ乾かす手間も無くなったし、前髪が目にかかるのも気にしないで良いんですよ!」


 あれ…。

 みどりさんがなんか心を開いて会話している。助けてもらったとは言えまだそんなに親近感がある訳でもないのに…、まさかこれ、みどりさんと距離が近くなってもしかしたら付き合える可能性、あるんじゃないのか!?


「ふーっ、少し休みませんか?」


 そんな知能の低い事を考えている俺に、みどりさんが聞いてきた。

 休んでもいい?、ああ、喫茶店か…。


「うん、大丈夫だよ」


 大丈夫だよなんて親近感めちゃくちゃ湧いてる感じを出してる自分に気を悪くしないかとか考えたが、当のみどりさんと言えばそんな事は露知らず。

 もう喫茶店に入っていた。


 -----


「私、オレンジジュースで」

「あ、レモンティーでお願いします…」


 当たり前のように飲み物を頼んでいるが、異性の、それも一目惚れした異性と一緒にお茶を飲めるなど、俺にとっては至福の時間だった。


「もうすぐ、12時ですね」

「そうだね、俺もそろそろ用事があるからお茶飲んだら帰るよ」

「…」

「…どうしたの?」


 まさか、俺が馴れ馴れしくした事を嫌がっているのか?


「みどりさ…」

()()()

「は、はい」

「言っておきたい事があるの」


 え…ここで『くん』呼び?、しかも名前で?

 しかも何これ。1日目なのに告白される雰囲気MAXな気がするんですけど。

 もしかして今日は告白記念日になるのかっ…?


「私、コンビニで司くんに助けてもらった時、決めてたんだ、もし私に親切してくれる人に会ったら、次は私もなにかしてあげようって」

「…」

「そして私は助けられた、しかも2回も…、だから、私に出来ることがあるなら言って欲しいの、何かある?司くん」


 今、言うしかない。


「あります」

「何?」

「付き合って下さい」


 普通、定番の告白スポットと言ったら、なんかロマンチックな海辺とか、なんかめっちゃ綺麗な夜景とかを見ながら告白するというのがベストだが、俺の場合は喫茶店の、それも人が多い中での告白だった。場所選べよ、俺。

 そんな事はさておき、みどりさんの反応は、ふーっとため息をついている。そして言った。


「…気持ちは嬉しいんだけど…、私、彼氏いるんだよね…」


 は?

 え、は?

 ()()

 その一言に目の前が真っ暗になる。


「だから、司くんとは付き合えない」

「え…何で…そんな事一言も…じゃあ、なんで俺と一緒に歩いてくれたり、喫茶店に誘ってくれたりしたんですか…?」

「ええ…?、だから、私はお礼をしたくて…」

「男って!」


 俺は叫んだ。


「そんな事されたら誰でも好きになっちゃうじゃないですか…」


 と、俺は(かす)れた声で言った。

 みどりさんは何も答えなかった。ただ、少し目元に涙が浮かんでいるのが見えた。


「…私、行くね…。お礼の事はもう忘れて…」

「…はい」


 みどりさんは喫茶店のレシートを手に取ると、レジへと向かった。まるで、コンビニで取り調べを受けた時のように。

 と思ったが、みどりさんは急に立ち止まるとこちらを向いた。


「もし、私が彼氏と付き合う前に司くんと出会ってたら、私は司くんと付き合ってたかもね」


 みどりさんは足早に喫茶店を出ていった。


「2人分、払ってくれてるじゃないか…」


 彼女にとって、俺のレモンティーをおごるのが、せめてものお礼だったのだろう。そして、俺には1つ分かったことがある。

 それは面接に遅れると、こっぴどく叱られるということだ。

いかがでしたか?

「いかがでしたかじゃねえだろ」と思った人はいいねお願いします。

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