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六六七七  作者: てこ/ひかり
浅葱幕振り被せ
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KABUKI

 20XX年、ネオ日本政府は収まる目処のない内戦を憂慮、能力差における差別の激化を問題視し、有能無能問わず、全ての国民に人権を与えると閣議決定した。


 と同時に『宇宙政府』が発足、浮都は放棄され、世界中の有志を募って人類はとうとう宇宙へと旅立った。


 宇宙移民・開拓時代が本格的に幕を開けたのである。

 地球上のありとあらゆる問題をぶん投げて、逃げたとも言える。


 あれから。

 一番合戦を退け、ネオ東京の浮民をあらかた避難させることには成功したのだけれども、それだけでは全ての火種を消すことはできなかった。全国各地で戦闘は激化し、件の閣議決定と新政府発足が決まるまで国内は分断され、荒れに荒れた。全てを一瞬で解決する魔法など、そうそう見つからないものである。


 あれから。

 浮都に住んでいた要人・特権階級がこぞって宇宙へと移ったのは言うまでもない。かつて『無能』と呼ばれた人々も、首輪が外され、ようやく人並み以上の生活が送れるに喜んだが、だからと言って資源が復活した訳でもない。突然家の庭から油田が湧いて出ることもなく、相変わらず食糧は不足し、自然環境は何百年に一度の巨大災害を毎年の恒例行事にした。


 焼け野原になっても、生活は続く。とはいえ、何も絶望と虚無ばかりが世界を闊歩していた訳でもない。三好博士が先頭に立ち『人工才能』の研究開発が進み、徐々にではあるが、『能力』を使い世界を良くしようという動きも見られてはいる。希望の種が花を咲かすのは、数年後か、恐らくそう遠くない未来だろう。


 あれから。

 ネオ日本人初の『宇宙開拓士』に任命された七海七緒は、発射直前のスペースシャトルの前にいた。ちょうど、地球とのしばしのお別れをしているところだった。


 次に地球に帰ってくる時は……一体いくつになっているだろうか。あまり考えたくはない。七緒は苦笑した。今回の旅の目的は『新たな資源調達のための未知の惑星の探査と研究』──だが、実際は、消えた一番合戦六三四(いちまかせむさし)(と六道十三日(りくどうとみか))の捜索の方が本筋(メイン)だった。


 一番合戦六三四。


 何せ彼は『自由』なのである。彼が死んだとは思えない。何処かに消えてしまったからと言って、それだけで自由が終わるとは、到底思えなかった。かつて浮都に住んでいた者は彼を英雄として、地上に暮らしていた者は仇敵として、一番合戦を見つけたがった。それぞれ思惑は違えど、方向(ベクトル)は一致したのだった。


 七緒は……死体・二十九(ゾンビ・ひずめ)が淹れてくれたダージリン・ティーを飲みながら、ほぅ、と息を吐き出した。今回は、七緒の(未来の)息子を探す旅でもある。


 十三日は……結局彼はあのタイミングを、ずっと待っていたような気がする。つまり、一番合戦が武器を振るう瞬間。捕食者が獲物を捕らえる寸前、どうしても意識がそちらに向き、隙が生じる。誰かの『自由』を新たに奪おうとするその瞬間を、じっと狙っていたのではないだろうか?


 七緒は再びため息を落とした。真実はどうあれ、彼に再び会うことがあるのなら、どうしても伝えなければならないことがある。フルーティな香りに身を委ね、物憂げにカップに目を落としていると、


「オイ! 何のんびりしてんだよ! もうすぐ出発だぞ!!」


 六道六太が大声で叫びながら七緒の方に走って来た。これから宇宙に出向こうというのに、何故かバッチリと白塗りに隈取りを施し、派手やかな衣装に身を包んでいる。七緒のため息がまた一層深くなった。


「……何でアンタも着いて来るのよ?」

「ったりめえだろ! お前の『百花繚乱(オーバードライヴ)』は、俺のラマに刻まれてるんだぞ? 俺が行かなくちゃ、誰がラマの世話するんだよ?」

「ラマぴょんでしょ?」

「ラマぴょん言うな!! コラ!!」

「着いて来たいなら着いて来たいって、最初から素直に言いなさいよ」

「誰が……!!」


 ぎゃあぎゃあと騒いでいるうちに、あっという間に出発時刻になってしまった。席に座り、シートベルトを締めていると、後ろから六太が声をかけて来た。


「なぁ……」


 窓の外、忙しない地上の様子を眺めながら。


「そういや、どうしてアイツ、最後切れなかったんだ?」

「…………」


 数分後。大気圏を抜け、重力の鎖を振り払い。七緒たちは無事宇宙へと打ち上げられた。何処までも広がる、深く青青とした世界。


 未知への冒険は、今、始まったばかりである。

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