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六六七七  作者: てこ/ひかり
幕間
24/38

KATANA

「またお前か」


 一番合戦(いちまかせ)六三四(むさし)が首相官邸に向かうと、待っていたのは内閣総理大臣──ではなく、いつぞやの黒装束の少年だった。確か名を、十三日。その他には誰も……お付きの秘書も、SPも、取り巻きの政治家も……いなかった。小柄な少年が、恐らく自分より背の高い椅子に座って、自分の部屋みたいにくつろいでいる。広大な部屋の中を見渡して、一番合戦は尋ねた。


「総理大臣はどうした?」

「洗脳しました」

 まるで昨日の晩御飯はカレーライスを食べました、くらいの気軽さで、十三日が朗らかに告げた。


「簡単でしたよ。政治家さんって、金と権力の言いなりなんですね。”お国のためだ”とかなんとか言っときゃ、向こうから喜んで洗脳されに来ましたから。そこらへんの野良猫より警戒心なく……」

「お前の『能力』じゃないだろう?」

 仲間が近くに潜んでいるのか。正徒会長は刀を具現化し、柄に手をかけた。


「今日は一人で来たんですか?」

「……大臣に呼ばれて来たんでな」

「七海七緒さんは、今ネオ京都にいますよ」


 黒装束の少年が、揶揄うような視線を投げかけた。


「ネオ京都のネオ清水寺で、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてます。良いんですか? このままだと、大切な部下が殺されちゃいますよ?」

「下らん」

 一番合戦はコキ、と一度首を鳴らし、それから絶対零度の瞳で十三日を睨め付けた。


「そんなことを言うために、わざわざ人払いした訳じゃないだろう。さっさと要件を言え」

「ぼく、昔から不思議だったんですよねえ」

 椅子をくるくる回して遊びながら、十三日が口笛を吹いた。


「”動物園のライオン”と”野生のライオン”って、本当に同じライオンなのかな? って」

「何?」

「だってそうでしょう。片やガラスケースの中で毎日ゴロゴロして……何もしなくても餌をもらえて。片や過酷な自然環境の中で、他の動物たちと混じって、命がけのサバイバルをしているんですよ?」

「…………」

「そんなのが”王”を名乗っちゃ、”百獣”に失礼だと思いませんか?」

「……安い挑発だな」

 とは言え一番合戦は、刀から手を離さなかった。いつでも抜刀できる。部屋の中の空気が、ピン……と張り詰めていく。少年は椅子を回すのをやめた。


「……もうじき下界で武装蜂起が起きます。もう止めるものはありません。政治的なしがらみも、こうして排除しました。一番合戦会長」

 そこで言葉を切り、一度息を吸い込む。

「あなた、本当に強いんですか? まさかちょっとくらい『才能』があるからって、毎日ゴロゴロ怠けてた訳じゃないですよねえ? だとしたら”浮都”は落ちますよ。血に飢えた”野生”の獣たちの手によって。何百万……いや下手したら何千万の怒れる民衆相手に、本当に勝てるとお思」

「言いたいことはそれだけか」

 その瞬間、少年は思わず顔を強張らせた。一番合戦が、その向日葵模様(ひまわりもよう)の瞳を燦々(さんさん)と輝かせ、嗤っていたからである。


「ならば答えよう。()()()。たとえ何億、何十億の敵が相手だろうとも、俺は絶対に負けない」

 その言葉、今から証明してみせよう。

 それだけ言うと、一番合戦はその巨体を翻した。肩にかけていた臙脂色(えんじいろ)のマントが、ふわりと風に舞う。扉の手前で立ち止まり、肩越しに言い放った。


「小僧。この国、そう簡単に落とせると思うなよ」


 ビリビリと怒気混じりの声が部屋を揺らす。少年は、何も答えられなかった。

 やがて足音が遠ざかり、ゆっくりと扉が閉められた。


 ……重圧(プレッシャー)をかけるつもりが、逆に気圧されてしまった。


 黒装束の少年はしばらく放心していたが、すぐに気を取り直し、煙のようにその場から姿を消した。

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