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六六七七  作者: てこ/ひかり
幕前
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SUSHI

 才能があって本当に良かった……。


 7月7日、14歳の誕生日。七海七緒(ななみななお)は誕生ケーキの前で、ホッと胸を撫で下ろしていた。


 七緒の『花』はちょうど胸の真ん中、鎖骨の下辺りに埋まっていた。

 幼い頃から中々花開かず、自分には何の才能もないのではないか、と不安に押し潰されそうになっていた彼女だったが、14歳になってようやく大輪の花を咲かせた。


 人間は皆、生まれながらに何かしらの才能を持っている。


 才能のある人間には、身体の何処かに『才能の花』が埋まっており、14歳までに見事な花を咲かせる。それが目印だった。彼女の胸に咲いた花は、【睡蓮】だった。薄い桜色の、ちょうど七緒の髪と同じ色合いの、小ぶりだが凛と咲き誇る美しい花……。


 ここまで立派な花は中々ない。恍惚な表情を浮かべる七緒の視線が、ゆっくりと部屋の中を泳いだ。


 立体TVの画面の向こうでは、優秀な『才能』を持った能力者(トップオブトップ)が、何の才能もない一般人を蹂躙して、ガッツポーズを決めている。よくある、地域の()()()()ニュースだった。『能力者』が神のように崇め奉られる今の日本では、もはや見慣れた光景だった。

 別に一般人が何か悪さをした訳ではない。

 ただ、『能力がない』……才能がないこと自体が、この国では罪なのだ。社会に何の有益ももたらさない『無能』を駆除するのは才ある者の義務であり、英雄的行為である。上級国民である七緒も、子供の頃から上級学校で、ずっとそう教えられてきた。


 七緒はフッと笑みを零した。

 

 子供は皆、『才能のある人間』に惹かれるものだ。七緒もそうだった。学問、芸術、スポーツ、それに魔法……様々な分野で突出的な活躍をし、己の才能を花開かせる人々は、羨望の的だった。

 将来は自分も何か、『才能のある人間』になりたい。

 多分漏れず、七緒もそう思っていた。


 そして彼女は『有能』の中でもとびきり上等な……一握りの人間だけに許された特別な才能・【花形】を胸に咲かせたのだった。

 これで嬉しくないはずはない。


「誕生日おめでとうーっ!」

「ありがとう!」


 友人たちの声で我に返った。七緒はロウソクの炎を息で吹き消し、幼い頃、生き別れた父から幾度となく聞かされていた言葉を噛み締めていた。


 ”いいかい七緒。人間は皆、生まれながらに何かしらの才能を持っているんだ。()()()()()、才能のない人間は、人間じゃない”……。


 この国では、14歳までに何の才能も見出せなかった者は、奴隷や家畜のように扱われる。


『無能に人権はない』。


 20XX年。才能のある人間が絶対である『超能力者社会』ネオ日本では、政府による凡人狩りが全盛を迎えていたー……。

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