番外編 女護衛ユナの物語
ユナ視点のビンスとの出会いとお付きあいの話になります。読んでいただけたら嬉しいです。
私の本名はユリアナ。
アリステアの王都の、中流家庭で生まれ育った。
近所には男の子が多くて、男の子とばかり遊んだ。
私は身体能力が高かった。早く走れた。木登り、塀の上を歩く、チャンバラは相手の動きがトロク見える、などで敵なし。悪ガキだったと思う。10歳くらいの時に、父親がいなくなった。浮気して家族を捨てたのだ。
母親は実家に帰った。私を置いて。私は父親に顔が似ていた。思い出すから嫌だったのだろう。
私はスラムで生きた。男の子の格好をして、仲間と暮らした。
時折手伝い程度の働きをしてお金を稼いだ。私はすばしっこく、目端が利いた。人の目線を見て買うのを迷う客を見つけては声をかけて、上手いこと売るのだ。
また、出店の御用聞きみたいなことや、客引きで小銭を稼いだ。
10代半ばになると仲間の女の子は体を売りはじめた。楽してお金がもらえると誘われた。
だけど、家庭で育ったことのある私は嫌だった。まだ正常だった頃の母に「女の子の身体は夫になった人だけに、見せたり触らせたりするものよ。結婚するまで、男の子に身体を触らせてはいけません。」とすりこまれたからかね。近所のおばさん達も夫以外とはそういうことはしてなかった。
スラムには性病を患った女の人もいたし。
この頃の私は将来「夫」が欲しかったし、失くした「家庭」にあこがれてた。そこまで堕ちたくなかった。
ある日、スリを捕まえた。逃げるソイツを塀の上を走って追いかけ、上から飛びおりてソイツを蹴飛ばし、失神させてやった。
街の警備してる偉い人がその時、私を見てたんだって。
正当なご褒美がもらえると期待したら、私が捕まって王宮の訓練生にさせられた。騎士爵位の警備隊の人が私の保護者になったらしい。
いい人だった。「俺も孤児だったからさ。武勲を立てて騎士爵位をもらった平民だよ。後ろ盾と言えなくもないくらいだけどな。保護者が騎士爵位持ちだと、嫌な仕事はあてがわれないはずた。お前を見つけた責任てやっだ。」って。
訓練生なのにお小遣い程度の給与が出るので、まあいっか、とそこで暮らした。屋根のある暮らしとご飯がもらえたから。
格闘術。体術。暗器。毒物。マナー。勉強。忙しく過ごした。
数年後、私は王宮の護衛メイドになった。
そうして平穏に、王宮の政治をしてる方面の文官達の護衛メイドをし、18の時に特別任務として、令嬢の護衛をした。ローラン子爵家で。
結果、、、任務に失敗した。
下衆でクソで臭くて汚い男どもになぶり物にされた。私が処女であったことを笑いやがった。最初に突っ込んできた奴が、私の破瓜の血を見て。
男達に玩具のようにいいようにされた。痛かった。苦しかった。くやしかった。
、、、怖かった。
そう、怖かったのだ。恐怖だった。
私の自負していたもの、プライドも強さも何もかもが砕け散った。自我が崩壊した。小さな子供のようになって記憶を封じようとした。
でも、出来なかった。
恐ろしい記憶が夜な夜な私を苦しめた。夢で私は何度もその場面に戻り、また、苛まされた。
苦しい、死にたい、そんな毎日を相棒のネイが一緒に泣いて過ごしてくれた。
ネイも、私と一緒にゴロツキ達にメチャクチャにされたのに。ネイは強い。私と違う。
一緒に元娼婦から聞いた話を思い出して慰めあった。
護衛対象のお嬢様が通った変った職業学校で聞いた話だ。村娘、町娘でもひどい目に合うのかと悲しかったな。
スラムで知り合いが客をとり始めた時、騙されて何人もの男にやられて、金も貰えず泣いてた。他にも若いのに病気をうつされて苦しんでた子。誰も、好きで身体を売ってなかった。お金のためだ。病の家族のため。家賃のため。ご飯が食べたかったから。弟妹の衣類。お金が生きるために必要だったから。男の子みたいに、力仕事で稼げないから。
ある日、忘れる事が出来るという薬をもらった。
実体験が薄れて、いつかの昔の事、窓から見た景色、としてふんわりと記憶が遠のいて、少し楽になった。
ネイは王都に戻ると決めた。
私は、まだ怖い。男が怖い。それに、私があんな目にあったと知る人が王都にはいる。訓練生の知り合い、王宮の知り合いには伝わるだろう。知られたくない。同情の目で見られたくない。
知らない人ばかりの場所に行きたかった。願いは聞き届けられた。
私はフランセーア王国の孤児院で、外部の人に会わずに、女性と子供だけに囲まれて一年を過ごした。
ビンスさんが来るまで。
いつもは男が来る前に知らされて、部屋に籠もるのに。
その日、いきなり部屋に入ってきた男に、私は恐怖が蘇って失神してしまった。情けない。でも、男が怖かった。自分ではどうしょうもないのだ。
後日、孤児院の園庭で子供らと遊ぶビンスさんを見た。
本気で遊んでいた。
運動不足なのが、足が遅い。走る姿勢も悪い。子供に負けて、本気で悔しがっていた。子供より子供っぽい。私はいつのまにか、笑っていた。
そして、ビンスさんが背後から棒で子供に頭を打たれて失神した。
私は慌てて、外に出てビンスさんを背負い、医務室に運んだ。
男の人だけど、足は遅いし背後からの子供の攻撃にやられるなんて。、、、私より弱い。可笑しくなった。
その後、ビンスさんは私に好意があるらしく、やたらと孤児院にやって来た。贈り物もくれた。
良い人だ。スキだらけだ。簡単に勝てる!
男の人が怖かった。けど、、。ビンスさんは怖くなくなっていった。
訓練を受けた私は強い。人の急所を知っている。攻撃の仕方を身に着けている。身体能力は高く、身軽だ。その辺の男なら、勝てる。
ビンスさんと付き合ううち、私は自分を取り戻していった。
それは、ビンスさんが私を尊重してくれるから。特別な人だと扱ってくれるから。私は自分に自信が持てるようになった。私は価値のある、ユリアナだ。
そして、ビンスさんは私にプロポーズしてくれた。可愛かった。年上なのに、赤くなりながら、セリフをたどたどしく言う姿。本当にスキだらけ。これで、あの有名店「エイリーン」の目利き店長、敏腕と言われる人なのだ。守ってあげたくなるくらい、弱いのに。
私はプロポーズに「はい。私で良ければ。」と返事した。
ただ、難関がある。結婚するとは、ビンスさんとあの行為をすることだ。
私は、ビンスさんと、子作り出来るだろうか?恐怖で無理かもしれない。
私はビンスさんに婚前交渉を提案した。
「エツ?、、、。ダメだ。自分を大切にしなきゃ。ユリアナさん。そ、そういうのは、その、け、結婚してから、、、」ビンスさんがうろたえる。
「私、初めてではないのです。幻滅されましたか?プロポーズを撤回でも構いません。
、、!以前男に襲われて、それ以来、男の人が怖くて。
結婚するということは、そういうことをするのでしょう?
私、ビンスさんとなら大丈夫だと思います。あなたがダメだったら、一生結婚できないと思います。
一度、試してみて、ちゃんと大丈夫なら、あなたと結婚します。」
嘘です。私は己の中の恐怖を克服したいのです。
ビンスさんが複雑そうな顔をして、私の言葉を聞いていた。
どうやら院長先生から私のことを聞いていたようだ。ビンスさんは驚かなかった。
「辛いなら、そういうことは、無理にしなくていい。子供も、無くていい。
俺、孤児だから。家族が欲しいんだ。仕事を終えたら、家に帰ってさ。俺を待ってくれる人がいたらな、って。
男だから、そういうことはたまにしたくなる。ユリアナさんには悪いけど、ユリアナさんと出来なければ娼館に行くかもしれない。
俺では、ユリアナさんを幸せにできないだろうか?」ビンスさん。
この人は優しい。だましてごめんなさい。
「ありがとうございます。嬉しいです。でも、夫婦となるなら、乗り越えなくてはならない壁ですから。お願いします。試したいのです。私が自分に打ち勝てるかを!」
私はビンスさんをホテルに引っばって行った。
ビンスさんは「え、え、いや、その、えっと。」などつぶやきながら、私に引っ張られていた。
お読みいただきありがとうございました。




