番外編 ラレット商会のビンスの物語 2
ユナの物語の2編目です。
番外編だけでも、恋愛ものとして読めると思います。よろしくお願いします。
素敵な女性だと思い、お近づきになりたいとの下心はあった。
男が苦手なのか。何となく、理由がわかった。嫌な目にあったんだな。
見習いお針子さんは4名。孤児院の優秀進学者は2名。
礼服にもなる正装とおしゃれ着を4名で分担することになった。
俺は一人で孤児院に来た。
採寸したので、合いそうな服を抱えて本人に選んでもらう。色はこれ、デザインはこんな風で、など紙に書いてほしいと伝えた。
服を置いて、俺は孤児院の遊び場に出た。俺がいないほうが、自由に選べるだろうから。
遊び場に出ると男の子達が寄ってきた。
慈善に女性は多く来るが、青年は来ないんだよな。知ってる。院長先生の許可は取った。
俺はチビ達と格闘ごっこや、ちょっと放り投げてキャッチ、とか、肩車して走ってやったりした。大人気だ。
走り回って心地良い汗をかいた。子供たちは遊び足りないらしいが、俺がギブアップだ。やっぱり、子供は元気だなあ。
俺は花壇の縁に座って汗を拭いて呼吸を整えていた。突然、後頭部に衝撃があり、俺は意識を失った。
「やったー!勝ったー!」遠のく意識の中、男の子の声がした。
話し声がする。
「こないだと反対ですね。」リンの声だ。
「そうね。」
「意識がなければ大丈夫なんですね、ユリアナさん。」リン。
「ええ。」
「もう服の寄贈を止めると言われたら困るなあ。」
リン。俺はそんな心の狭い男だと思われてる?
「大丈夫よ。楽しそうに子供と遊んでたし。本気でかけっこして負けて悔しがっていたのよ?面白い人ね。」
え、見られてた?
「後頭部の傷、不味くないですか?」リン。
「こういうのはちょっとハゲになるかもしれないわね。黙っておきましょう。見えないだろうし。」
いや、それは重要だ。
「なかなか起きないですね。もう夕方です。お店に連絡しますか?」リン。
「こういう場合、ご家族にご連絡して謝罪しなくては。奥様は?」
「いないですよ。奥様もご家族も。この人、孤児院の出身だそうです。」リン。
「そうなの?独身なんだ。素敵な方なのに。」
なに、素敵だと!よし!
「なら、ユリアナさんが奥様に立候補しては?」リン。
リン、いい提案だ。寝たふりを続けよう。返事が気になる。
「私では無理よ。リンには話したでしょう?」
「この方は良い人ですよ。ユリアナさんがいてくださって助かってますけど、いつまでここにいるつもりですか?30歳40歳50歳になっても、ここにいます?私は、ユリアナさんに幸せになって欲しいです。」リン。
「ありがとう、リン。この一年、リンに沢山助けてもらったわ。」
「私も、来年は孤児院を出ます。ユリアナさんが心配です。」リン。
二人が部屋を出ていった。
リンを味方にしよう。俺をユリアナさんに推してもらおう。
うーん、よく寝た。俺は起き上がった。
ハゲるのか?後頭部を撫でた。出来立てのでかいタンコブがあった。
上着を着て部屋を出ようとしたら、リンが来た。
「うちの子達が申し訳ありませんでした。大丈夫ですか?」リン。
「うん、大丈夫だよ。そんなに怒らないであげて。とても楽しかったから、子供達は?」
「これから夕食です。よかったら、ご一緒に夕御飯はいかがですか?」リン。
ちょうど腹が減っていた。お言葉に甘えた。
食堂に行くと遊んだ子供達が駆け寄ってきた。
「ごめんなさいー!」チビの一人が泣いて謝る。こいつが頭に一撃食らわしてくれた子らしい。
「もう大丈夫だよ。頭は攻撃したらダメだぞー。」
賑やかに夕食を食べた。俺がいた孤児院より味も量も良かった。やっぱりフランセーアは豊かな国だな。
ご馳走になったので皿洗いに名乗り出た。
ちょっと待たされて厨房に行くと、ユリアナさんがいた。
「洗剤は手が荒れますから」と俺が言い、洗う役を引き受けた。リンが拭き取り、ユリアナさんが食器棚に運ぶ、となった。
30人ほどの孤児と、職員の食器は中々洗いがいがあった。たわいのない雑談をした。リンと。ユリアナさんは俺には近づかない。話しかけてくれない。
でも、リンは頼まずとも俺の味方になってくれた。
「ユリアナさんと仲良くなりたい。やましい気持ちではなく、結婚を考えてる。ユリアナさんが、嫌でなければ。協力してほしい。」
そう言うと、リンは喜んで橋渡し役をすると言ってくれた。
これ以降、俺は孤児院に通った。
売れ残って廃棄の物から、俺が買い取った(社員割引で)物を差し入れた。
ユリアナさんにはハンドクリームや、ハンカチ、髪飾りや小物類などを。
俺は25歳だ。ユリアナさんは19歳。ついでにリンは14歳だ。
お針子さんは無事に衣類を誂え直した。
用事がなくても俺は通った。
頃合いを見てユリアナさんを食事に誘った。
俺の好意は伝わっている。最近は話もしてくれている。おしとやかで内気そうに微笑むユリアナさんは可愛い。
「お返事はいつでも良いので。ご都合の良い日に」と言うと、ユリアナさんは意を決した顔で「行きます。」と言ってくれた。
リンが、「ユリアナさんが外に出るのは、初めてです。この一年、孤児院の建物から一度も出ていないのです」と言う。
ユリアナさんはアリステア王国の出身で、馬車からほぼ出ずにフランセーアに来たそうだ。
なら、フランセーアは初めてと同じだろう。
人混みは怖いみたいだから、馬車を孤児院に付けて、料理店では個別の部屋で食事にしよう。
幸い、俺は結構、金持ちだ。
バートさんのラレット商会は、とても儲かっている。商会立ち上げ時からバートさんの片腕をしている俺は、高給をもらっていた。独り身で使うあてのない金は貯まる一方、と言う状態なのだ。
ユリアナさんは恐縮していたが、俺とのデートを楽しんでくれた。
孤児院から料理店の個室デート。
エイリーンで服やアクセサリー、靴やバックなどの小物を選んでもらい、プレゼントした。
ユリアナさんは高いものよりも実用的な服や小物を選んだ。
アクセサリーは固辞されたが、俺が贈りたかったので、なんとか受け取ってもらえた。欲のない人だ。益々ユリアナさんに好感を持った。
いや、俺はユリアナさんにかなり本気になった。
優しくて可愛くて臆病で、内気で健気。守らなくては!と。
ユリアナさんは若い女性なのに1年間も外出しなかったので、とても楽しそうだ。
こうして俺は時々ユリアナさんを街に連れ出してデートした。
院長もリンも、ユリアナさんが明るくなったと喜んでいた。
お読みいただきありがとうございました。




