番外編 ネイリーとハンスの物語 終わり
ネイリーが護衛のために他領へ行って3ヶ月もたった。あいつは俺に一度も手紙を寄越さない。
家族とも恋人とも思われてないな。これは。
がっかりしてるし、心配もしている。
護衛だから、俺達は怪我や命の心配がある。ネイリーは女の子だから、貞操の心配もある。本人は何とも思わないようにしてるみたいだが。
アノ行為を「大したことではない」と思い込もうとしているように思うのだ。仕事の一部だと。
離れていて、やはり俺はネイリーに惚れてると自覚させられた。ネイリーに会いたい。抱きたい。
あいつ、こんなに長く離れてたら俺以外のヤツにアレを頼んでいるんじゃないか?心配だ。
俺以外に、仕事以外に、アレをしてほしくない。
本当は結婚してほしい。
この2年、何度か結婚してくれと言ったが、その度「責任感じなくていいから、恋人が出来たら言ってね。」と言われる。
「俺はお前と恋人になりたいんだ!」
そう言ってもあしらわれる。本気にしてくれない。
他のヤツにコレを頼まれたら、と思うと抱くのを止めれない。抱きたいし。無茶苦茶気持ち良いし。
それまで娼館に通うヤツの気が知れなかった。うまいもんを食べたほうが?と思っていた。
これは、確かに金を払ってでも娼館に通うかもしれない。
俺はネイリーとしか、こんなこと、したくないから行かないけどな!
なんでこんな事に。
金をためてネイリーと所帯を持ちたかった。そのために頑張ってたのに。
ネイリーが帰ってこない。
まだ今回の任務は終わらないらしい。
時々聞いていた。心配だ。
そしたら、王宮の仕事を辞めたと伝えられた。上司の歯切れが悪い。
食い下がったら「任務に失敗した。放っといてやれ。」だと?
そんなの、ほっとけるわけない。それでも食い下がって恋人関係にある(無いけど肉体関係はあるから俺の中では恋人)と言ったら、四番街の菓子屋だか、特産品を売ってる店が美味しいらしいなあ、と、ネイリーの居場所を教えてくれた。
俺はその日の内にその店に行った。もう夜だった。
裏口の戸を叩いて、名前を言って、なのにそんな人はいないと追い返された。ショックだった。
俺は仕方なく忍び込み、ネイリーの部屋に行った。探りながら。間違えたら大変だからな。
気配をわかっていたらしく、ネイリーは俺が部屋に入っても「あら、来ちゃったの。」と言って許してくれた。
見た目は変わらない。良かった。顔に傷が出来てたり、身体が不自由になったりしたのかと心配だったのだ。
「良かった。元気そうで。心配したんだ。連絡無いし。
、、、その、俺に会いたくないのは、恋人が出来たのか?」
「違うよ。」無表情のネイリー。
「じゃ、なんで?」
「任務に失敗したの。ここで普通に働いて生きていくわ。あなたは王宮で働くでしょ?関わらないほうがお互いに良いと思うの。だから、もうアレは頼まない。だから、会う必要ないでしょう?」ネイリーが淡々と言った。
「普通に?この店で働くのか。じゃあ、もう仕事でアレをすることはなくなったんだ。良かった。
ネイリー。俺と結婚してくれ。」
「お断りします。責任感じなくていい。」
「責任とかじゃない!ネイリーが好きだ。ずっと!子供の頃から!好きだ。そばに、居てほしい。人生を共にしたい。、、、抱きたい。」
そばに寄ろうとしたら、手で近づくなと制された。
「駄目よ。私、病気をうつされたかもしれないから、しばらく、様子見なの。」ネイリー。
「えっ?」
「任務に失敗して、捕らわれたの。大勢にアレをされたのよ。素性の悪い奴らだったから。病気持ちがいたかもしれない。さすがに、もうアレは懲り懲りなの。ハンスともしたくなくないの。だから、アレの相手は他を当たって。もう帰ってくれる?」ネイリー。
俺は呆然となった。
なんてことだ。辛かったろう。痛かったろう。苦しかったろう。屈辱だったろう。
そばにいれなかった。
俺はまた無意識に泣いていた。
ネイリーがギョッとしている。
「わかったら帰って。もう来ないで。」ネイリー。
俺は一歩前に出て両手を広げて近づいた。ネイリーを抱きしめようとした。
「ヒッ。」ネイリーは怯えた。
「触らないで近づかないで来ないで!」
ネイリーが壁側に逃げてしゃがみこんで震えている。フラッシュバックしてしまったらしい。
「ゴメン。」考えが足りなかった。男が怖いのだ。それ程ひどい目に合ってしまったのだ。
「け、け、結婚なんて無理。わかるでしょ?もう、アレは無理なの。来ないで。」ネイリー。
俺はネイリーに、何もできないのか。
「急に来てごめん。心配だったんだ。
今日は帰る。何もしないから今度話をしたい。家族として。」俺は帰宅した。
俺は翌日、ネイリーに花を贈った。
ネイリーの心が少しでも癒やされますように。
それから、月に3回、ネイリーに花を贈り続けた。
初めてネイリーと結ばれた日。孤児院でネイリーにお菓子をあげた日。ネイリーの誕生日の日(ネイリーの親はネイリーの誕生日をキチンと教えてくれたそうだ)。
わかってくれたかな?
これらの日は、俺にとって大切な記念日だ。
3ヶ月ほどしてから、ネイリーから手紙が来た。
ドキドキして封を開けた。
「話をしたいって、いつ来るの?いつまて経っても来ないけど、病気なの?花をありがとう。でも、花より食べ物がいいな。」
俺は拍子抜けした。良かった。拒絶じゃない。
その後、俺は休みの日にはネイリーに会いに行った。
話をして、お茶をして、公園を歩いた。普通のデートだ。
もう、嬉しかった。これがしたかった。
ネイリーの身体を知っているから、快感をしってしまったから、抱きたい気持ちもあったが。俺はネイリーの心が欲しかったから、我慢できた。大切にしたい。
少しずつ、手を握って大丈夫になり。頬にキスが許され。軽くハグが出来るようになった。
幸せだった。そんな付き合いが1年ほど過ぎた。
笑ってくれて、ハグも震えなくなって、俺の背に手を回してくれるようになった。
「ネイリー、好きだ。」囁く。
「私も。ハンスは安心できるわ。でも、アレは無理。それでも、私と結婚したいの?」ネイリー。
「うん。アレをしなくてもネイリーといたい。そりゃ、ネイリーは魅力的だから抱きたいけど。ネイリーとしかアレをしたくないし、一生この付き合いだけでも、ネイリーといたいんだ。ネイリーが結婚しないなら、俺も誰とも結婚しない。ネイリーだけだ。抱きたいのも結婚したいのも。ネイリーが好きだ。ネイリーと一緒に居ることが俺の幸せなんだ。」
ネイリーがぎゅうっと俺を抱きしめた。嬉しい。身体が反応してしまう。ネイリーも気がついたみたいだ。それでも、ネイリーは俺の腕の中にいてくれた。
だいぶいい感じになったので、ある日ネイリーに「軽くキスしたいけど、大丈夫かな?」って聞いたら。
「家族は口にキスはしないんじゃない?」だって。
家族として会ってくれていたのか?そりゃ、言ったよ?家族として心配してる、って。
ガックリして、「好きです。僕とお付き合いしていただけませんか?結婚を前提として。」と申し込んだ。
「そうねえ。私、店を買おうと思うの。ローラン領特産品を中心に置く店をしないかって言われてるの。候補地はフランセーアの王都か、サンフォーク公爵の領都か、クロフォード伯爵の領都かに。相互に特産品を置くようにするんだって。ついてきてくれるなら、私と結婚して下さい。まだ、怖いからゆっくり、優しくしてくれる?
あのね、私、帳簿を付けたり経営のやり方をかじったの。出来たらあなたも一緒にローラン領の職業訓練学校に学びに行かない?素敵な領主様ご夫妻と、面白い学校だったの。もう大丈夫だと思うの。一緒にハンスが来てくれたら心強いから。ダメ?」
俺の女神がそう言ってキスしてくれた。
いたずらっぽく笑うネイリーは色気があって困る。
俺の答えは決まってる。知ってるだろ?ネイリー。
これから新しい二人の生活が待ってる。人生を始めるんだ。
俺は幸福の予感に胸が高鳴っている。
やっと俺のものになると覚悟を決めたんだな、ネイリー。俺の腕の中にいる大切な女性は、俺の人生を彩り、支配し、俺を幸福にしてくれる唯一の女神だ。




