番外編 女護衛ネイの物語 2
観念したハンスは、私を抱いてくれた。
「初めてだから、痛いとかあったら言ってくれ。苦しませたらゴメン。」
ソロソロと、ぎこちなく、時に激しく、ハンスは私に触れた。
潤んだ目で私を見つめ、口付けしてきた。何度も名前を呼び、きれいだと囁きながら身体を撫でて肌にもキスをした。
私は自分の身体に、初めてそのような事をする部分があり、初めて味わう感触を驚きを持って知った。肌を重ねることの心地良さ。抱きしめられる安心感。
それはハンスも同じだったらしい。
お互い、親に捨てられた身の上だから。
ハンスの身体は固くて筋肉がついていて、そして重い。汗臭い。だけど、全然嫌じゃない。
宿代を全部払おうとしたら、ハンスに怒られた。
「男が出すもんだ。」って。
「慣れるまであと何回か頼みたい、無理ならお友達を紹介して。」と言ったら、すごく変な顔をされた。
そして、休みを合わせよう、と言ってくれた。
知らない人よりハンスが良かったので、ありがたかった。
ハンスに「絶対に他のヤツに頼むな。俺だけにしろ。」と言われた。
「わかった。病気持ちになりたくないしね。」と言ったら、また変な顔をされた。
さらに、ハンスは「こ、こ、子供が出来たら、責任取るから」と真っ赤になって言った。
「無理に頼んだ事に、責任なんてとらなくて良いよ。自分で処理するから。」と言ったら怖い顔をされた。
「愛されない望まれない子供は、私達だけで十分よ。」と言ったら無表情になった。わかってくれたらしい。
宿から出て、夕暮れになり、日が沈む。夜道を二人で歩いた。ハンスが手を繋いできた。しばらく無言で歩いた。
「ネイリー、俺とけ、け、け、結婚してくれ。」ハンス。
「だから、責任感じなくていいよ。まだ若いし、働き始めたばかりでしょう?」
「だから、違うんだ。なんで、こうなったんだ。大事にしたかったのに。」ハンス。
「負担かけてごめんね。次の休みもお願いします。少し、はじめは痛かったけど、大丈夫だったし。慣れたら気持ちよくなるって。だから、お願いね。嫌なら」
「バカ!嫌じゃないから!すごく、その、き、き、気持ち良かった。し、う、嬉しかった。だから、他には頼むな!」
その後、数回の逢瀬を重ねた。なるほど、身体は慣れてくるものだった。手順は覚えた。
王宮でその貴族が来て、指名された時も、覚悟を持って接待した。その貴族は楽しそうに私の身体を楽しんだ。
「若いね。ハリのある胸だ。いいね!まだそんなに慣れてない。恋人はこんなことしてくれる?」「いい身体だ。鍛えてるね。いい肌をしてる。柔らかい。うん、いい。気に入ったよ。」
軟弱な薄っぺらい身体も言葉も、ハンスとは明らかな違いがあった。
数回召されると、寝物語にいくつかの質問があった。生まれ育ちや今回の仕事について。
生まれ故郷や孤児院育ちだと話した。
隠すこともないので、上司に「お召があるかもしれないので、経験を済ませるよう言われましたので、幼なじみに頼みました。」というと、少し虚をついたようだった。
「じゃ、私は2番目か。光栄だな。」と貴族。
貴族は王宮を去る日の朝に、袖のエメラルドのカフスをくれた。
「いただけません。」というと、もう片方のカフスも私のポケットに入れた。
「盗んだと疑われますので」と返すと、
「強情だね。花代だから」とサラサラと「夜伽の花代として与える ルカリード・クロリッチ」と書いて渡された。
そこまでしてくれたので、ありがたく頂いた。
ハンスにあった時に、「ハンスの手ほどきのおかげでお気に召していただけた。褒められた。ありがとう。」
と礼を言ったら、ハンスは真っ青になって震えだし、ポロポロ泣き出した。口がパクパクして、何か言いたげで、言えなくて、ただ泣いていた。とうしたんだろう?
その後も時々頼んで抱いてもらった。ハンスとのそういう行為はなぜだか快感で満足できたから。
ハンスは男として絶対に譲らないと、宿代や食事代を全て出してくれた。
そして、「絶対に他の人にコレを頼むなよ!な、頼むから俺だけにしてくれ。」と言うのだった。
その後も貴族の接待メイドに何回か指名された。それは仕事の一環としてこなした。
私は娼婦の子だから、平気。
ある時、女性の貴人の護衛を命ぜられた。破格の高待遇。しかし王宮でなくて、勤務地は田舎の貴族の領地だと言う。
断れない私はローラン子爵領へ行くことになった。
そこでは同じ年の18歳のユナと言う子と一緒に15歳の令嬢の護衛をした。可愛らしい、貴族らしくない令嬢だった。変わっている。
だけど、護衛に失敗した。襲撃されて負けた。
敵数が多かった。これ以上戦意を持ち続けると殺される。諦めて投降した。武器を捨てた。捕えられていたぶられた。多数の荒くれ者達に何度も何時間も行為を行われた。
かわいそうに、ユナは初めてだった。ユナのほうが胸が大きい。荒くれ者達は私よりユナに群がった。
助けが来るまで、と我慢した。されるがままに、脚を開かされ突っ込まれ続けた。局部はもう、ヒリヒリどころではない。奥まで乱暴に突かれて痛い、苦しい。
男達は獣みたいだ。いたぶり、順番を争い、私達の身体で楽しむ。
早く終わって。痛い。苦しい。
頭に浮かぶのはハンスの顔だった。助けて、痛いよ、苦しいよ。ハンスに会いたかった。
身体中を撫で回され乱暴に揉まれる。痛い。気持ち悪い。局部から血が流れ、脚をつたう。男の精液が臭い。
バン、とドアが開いて饗宴は終了した。朦朧としていてあまり覚えていない。
私とユナは保護された。
ローラン子爵は善良で信頼できる方で、手当を受けさせて静養させてくれた。
落ち着いたら王都の支店で働かせてくれる事になった。
今回の事で王宮づとめは辞めることにした。
ユナもだ。
辞退したが、王宮からの手当と、子爵から、子爵経由でお嬢様の御両親からの3方から手当をいただいた。子爵の経営店で雇ってもらえて、住むところもあるそうなのでとても助かる。
ローラン子爵領でお嬢様のお供をして職業学校に通った。仕事だけど、とても楽しかった。
その職業学校で、護衛対象のお嬢様は数名の元娼婦と知り合いになったことがある。変わったお嬢様で、元娼婦の話を涙して聞いていた。私も横で聞いていた。酷い話だった。
この国では女は権利がない。
子供の頃は父親、結婚すれば夫の保護下に置かれる。
元娼婦達は父、夫に売られた話をしてくれた。
父親の酒代、ギャンブルのために娼館に売られた話。元々騙して売るために、彼女らと結婚して村を出ていき、そのまま娼館に売られた話。
客という見ず知らずの男達に身体をなぶられて売女と罵られた話。
何人もの娼婦が自殺したと聞いた。友達娼婦のぶら下がる遺体を前に、悔しさ悲しさで泣いた話。
「汚いのは私らを売った男だ。買う男だ。身体はいいようにされても、心は負けないって、決めたんだ。生きてやる。生きて幸せを自分で掴み取るって決めたんだ。」娼館を出た彼女達はローラン領ては女性が保護され、女性の権利があるという噂を聞いてここに来た。
彼女らは熱心に勉強して資格を取っていた。一人で生きていくために。
何人かは連れ合いもできていた。その男たちは母親が売られたり、姉妹が売られたりした男だそうだ。職業学校で彼女らの身の上を聞いたそうだ。
「母を知らないか?」「姉を知らないか?」
元娼婦だという彼女らに聞きに来たのだ。
元娼婦たちは親身に話を聞いていた。「似た人をしってる。」「娼館の友達に紹介してあげる。聞いてみて。」など。
お嬢様は叔父上に相談したらしい。
近隣の娼館に娼婦の名前、年齢、出身地の調査という名目で聞いたようだ。全てではないが、そこそこの娼館から名簿が出された。
職業学校で娼館の名簿が管轄されて、身内なら問い合わせが出来るとひっそりと広まった。
多くの人が母の、姉妹の、従姉妹の名前を探しに来た。
そして、死亡の欄に名前を見つけて泣く人。家族の名前を見つけて迎えに行く人。
この時、私は彼女らの境遇を本当には理解していなかったと、自身の身を持って知った。
「負けてたまるか。生きて幸せになってやる。」と言った元娼婦。私もそうなりたい。生きる勇気をわけて。何度祈ったか。私も強くなりたい。悪夢が私を苛む。
お嬢様も攫われてひどい目にあったらしい。お嬢様も、娼婦の話を聞いていたから、絶対に死を選ばないはずだ。お嬢様の御心は強い。
ユナは状態が良くなかった。心配だ。私達はこのあと、行き先が違う。頑張れ、ユナ。負けるな、ユナ。
絶対、負けない。生きて幸せになるんだ。私もユナも。お嬢様も。
私達を攫って弄んだ男達はもうこの世にいない。捕縛後すぐにあいつらは性器を切り落とされたと聞いた。その後の裁判後、処刑された。
私達を苦しめた男達は罰を受けた。
さらに記憶を薄れさせる薬も取り寄せてくれた。私達は恵まれてる。
だから、私は希望を捨てない。あきらめない。幸せになるって決めた。




