ビアトリクス王女の誕生式典
ベルンハルトとの会談で、王家はフェリシティーの結婚にも言及した。
フェリシティーにトュリューグ公爵領地の一部を割譲し、伯爵家を名乗らせよ、と。断ったとしても領地なしの貴族として叙爵する、と。
フェリシティーを平民にしては危険すぎるとの判断だ。女伯爵とし、夫も貴族籍に入れるように、と。
これは一度持ち帰り、返事は改めて、という事になった。
エヴィと話しを終えたフェリシティーが応接室に来たので、陛下や王妃に軽く挨拶したあと、リカルドとシェリーがフェリシティーをビアトリクスに会わせたいと応接室を出た。
フェリシティーとシェリーは仲が良い。
リカルドは少し離れて妻とフェリシティーの会話の邪魔はしなかった。
フェリシティーは揺りかごで眠るビアトリクスを見せてもらって感激した。
幼馴染み夫婦の赤ちゃん!可愛らしい!眠る赤ん坊を覗き込んで目を細めて微笑む。
「とっても可愛いいわ。いいなあ。あ、うちのルークやアイリーンも可愛いいけどね。赤ちゃんて、すぐ大きくなるの。はあ、ミルクの匂い懐かしいわ。本当におめでとう。リカルド様、シェリー様。ビアトリクス姫が健やかに育ちますように。」フェリシティー。
「ありがとう、フェリシティー。ふふ、フェリシティーももうすぐ結婚なのでしょう?楽しみね。」シェリー。
「バート・ラレット殿ですね。ぜひ一度お会いしたい。」リカルド。
「うーん、無理、かな。王太子夫妻が一平民と会うのは。」フェリシティー。
「そうねえ。でも、結婚式にはお会い出来るわよね。」シェリー。
「アリステアのバートの実家近くの教会でこじんまりと結婚式をするから、無理なの。ごめんなさい。」フェリシティー。
「フェリシティー、君は貴族籍から抜けるつもりのようだが、それは許容出来ない。フランセーア王家と君との婚姻は諦めた。バート殿との結婚も祝福する。けれど、君は精霊姫ラミーナの孫。精霊エヴィの愛し子。アリステア王家、フランセーア王家の血を引く姫だ。フランセーア国民も君を望んでいる。」リカルド。
「、、私は、ただのフェリシティーです。」
「誰もそうは思わない。バート殿とも相談すると良い。何時でも二人で王宮に来てくれ。」リカルド。
「もう、フェリシティーはビアトリクスを見に来てくれたのよ。生誕式は教会で行うの。その後はパーティーよ。フェリシティーとバート様にも来ていただきたいの。」リカルドを諌め、笑顔を作り言うシェリー。
「そう、ですね。バートと出席出来るようにしたいです。楽しみですね。」少し愁い顔のフェリシティー。
1ヶ月後、ビアトリクス姫の生誕式とパーティーが行われた。
リカルドとシェリーの結婚式が行われた大聖堂教会で、それはもう厳かに、それでいて、豪華絢爛に。
もちろん、トュリューグ公爵一家とバートも参列した。
その後のパーティーでバートはフランセーア王族に拝謁することになった。
ベルンハルトとサーラが王、王妃に拝謁し、言葉を賜る。次いで、フェリシティーとバートが拝謁。正面に王家一家(王、王妃、王太子、王太子妃、エルド王子)が立ち並んでいる。エルドの視線がバートに鋭くあたった。トュリューグ公爵一家、バートはその視線をスルーする。
次にビアトリクス姫が侍女に抱かれて会場に入り、王太子妃シェリーに抱かれた。
「我が孫、ビアトリクス王女に拝謁を許す!」
陛下が声高らかに述べた。
高貴な者から拝謁していく。トュリューグ公爵家が最初だ。ビアトリクス王女は眠っていた。静かに膝をつき、頭を垂れて敬意を表す。
拝謁し終わった新王家の面々が階段(一段が15センチほどで、段ごとのフロア面は2メートルほど、10段ある)の両脇に立ち並び、トュリューグ公爵一家も段に立つ。
会場のフロアと同位置に宰相や大臣一家が次に並んで待つ。
その後旧王家であった高位貴族が拝謁しては会場に散っていく。
上位貴族の拝謁が済むと、シャーン、と3回音がなった。会場が一気に静まった。
貴族たちが王の言葉を待ち、注目した。王が高らかに声を上げた。
「今日は良き日ぞ!次代を担う王太子の初子のビアトリクス王女の生誕式によく集まってくれた!フランセーアに栄光あれ!
我らはフランセーアの民を守る貴族としてここに居る!神を信仰し祈ろう!平和こそ神の真意、初代王の願い。皆も己を磨き民の良き見本となるよう、日々励むようにせよ!
さて、ビアトリクス王女の誕生を祝い、健やかな成長を願ってくれ!食べ、笑い、良き日を祝ってくれ!
音楽を奏でよ!」
王が言うと音楽が流れ始めた。王と王妃が玉座に付いた。
王太子夫婦が中央に出ていき、ダンスを始めた。短めの一曲が終わり、貴族たちがダンスフロアに入り、2曲目が始まった。
綺羅びやかな祝宴が始まっていた。音楽、ダンス、衣装の絹連れの音、人々の囁きの会話。
そして、チラチラとフェリシティーに視線が注がれていた。
豪華な金髪はハーフアップでくるりと結われ、小さな白い生花が所々に挿し込まれている。残りはゆるくウェーブしながら背中に流されていた。薄い黄緑のシフォンのドレス。胸元は小さな青いサファイアのネックレス。胸は品良く覆われているが、出るところは出で、ウエストは細く、しなやかな細腕は長い。ほっそりとして、仕草も気品がある。陶器のような白い肌。大きなアーモンド型の目に深い青の瞳。その瞳をに影を落とす金の長いまつ毛。形の良い眉。スッキリとした形の良い鼻。小さめの唇は可愛らしく動いて微笑みを絶やさない。
なにより、その幸せそうな微笑みに目を奪われる。隣に立つ意志の強そうな瞳をした賢そうな青年と腕を組みながら談笑している。フェリシティーの深い青い瞳はその青年ばかりを見ていた。青年もフェリシティーばかりを見ている。
春の妖精のようなフェリシティーを見て、「精霊姫」「妖精姫」「天使」と呟く人々。
ふと、フェリシティーがダンスフロアに目を向けて隣の青年に囁いた。青年がフェリシティーをエスコートしてフロアに進む。新たな曲が流れ出し、初々しい恋人は互いに礼をして手を取り合い、ダンスが始まった。
一曲だけ踊り終えると、フェリシティーとバートは王太子夫妻と談笑している弟妹の元に向かった。
歩く道すがらに、数名の高位貴族の子息がフェリシティーにダンスを申し込んだが、「婚約者としか踊るつもりはありませんの。」と断られていた。
ベルンハルトとサーラは新王族の好意的な親族と、友好的な貴族の間を回り、旧交を温めることに努めた。
ベルンハルト一家は早めにパーティーを辞し、公爵邸に帰った。
このパーティーが公爵令嬢フェリシティーが公の場に出た最後となった。




