フランセーア王家の願い
フランセーア王国からの再三の帰国を願う文はベルンハルトに届けられていた。
ベルンハルトが帰国を決めたのは、リカルドとシェリーに王女が誕生したと報告があり、王女誕生を祝う生誕の儀式にトュリューグ公爵一家の参列を願う文書だったからだ。
王女は誕生したばかりで、生誕式は数ヶ月後と記されていた。トュリューグ公爵家の帰国に合わせてくれるらしい。
なので、帰国の旅も植樹しながらとなった。
やっと、トュリューグ公爵一家がフランセーアに帰国した。
前王、前王弟が毎月精霊の泉に定期的に祈りを捧げていたが、湧き出る水量はわずかだった。
帰宅後すぐに一家で王宮に向かったが、アイリーンが護衛服に拒絶反応を示したので一旦取りやめにした。
後日ベルンハルトだけが王宮に上がり、精霊の泉と大樹に祈った。とうとうと泉から水が湧き出し、王家、王宮の官達は一安心した。
ベルンハルトが王や宰相にプロンシアーナ王の伝言などを伝えた。平和条約と通商、関税についてだ。伝えると早々にベルンハルトは帰宅した。
トュリューグ公爵家では急ぎ式典に出席するための衣類の準備に追われた。子供たちの成長で衣類が全く合わなくなっていたのだ。また、ベルンハルトとサーラも、農作業で身体が引き締まり、サイズ直しをしなくてはならなかった。
そのまた後日、フェリシティーとベルンハルトが王宮を訪れた。ベルンハルトは王家と宰相に呼び出されたのだ。
フェリシティーはエヴィに会いに来た。
「エヴィ、来たよ。、、ねえ、エヴィ。、、大好きだよ。たくさん、ありがとう。」フェリシティー。
泉から水柱が噴き出した。光に映えて、虹が見える。金色の光の粒をまといながら、エヴィが現れた。
大樹が枝を揺らして葉を何枚も落とした。
王宮の侍女達が葉を拾い、大切そうに布をひいた籠に乗せていく。
「久しぶりね、エヴィ。」
この一年、平民の暮らしを直に見てフェリシティーの瞳は思慮深くなった。
「、、、遅いよ。私を忘れたかと思った。」エヴィ。
「忘れるわけないよ。」フェリシティー。
「だって、行っちゃうんでしょう?もう、滅多に会いに来てくれないでしょう?」エヴィ。
「私はエヴィが大好きだから、また会いに来る。
私はエヴィから貰ってばかりだよ。なにか、私に出来ることはない?可愛いエヴィ。私の天使。」フェリシティー。
エヴィがフェリシティーの胸の中に飛び込んだ。
「思い出したの?」
「夢で見たの。始めはなんの夢なのかわからなかった。気づくのが遅くてごめんね。
ずっと、長い間一人にしてごめんね。ただの夢なのか、意味あるものなのか、私も受け入れられなくて。なんかね、繋がったの。植樹の旅をして、星を見て、風を感じて、大地の匂いに触れて。命が育って、死んでいくのを身近でたくさん触れて。昔、同じことをした、感じてたって。昔に、生きていたことが繋がったの。夢と記憶と、今と前世と、私とエヴィとバートさんと。」
フェリシティーがエヴィをそっと胸に抱いた。
かつてエスメが愛娘エヴィを愛おしく腕に抱いたように。
「エヴィ、エヴィは精霊なんだよね?」
「今は精霊なの。生まれた時は大地の精霊の力を持った水の精霊で半分は人、だった。でも、体は死んでしまって、今は精霊。かつて人だったエヴィの記憶を持ち続ける精霊、かな。」
「寂しくはない?私もそのうち死ぬわ。人と仲良くなって、別れての繰り返しではなかったの?」
「寂しい、よ。みんな、逝ってしまう。、、、私は人の心を持ってしまった。人に寄りすぎてしまった。与え過ぎてしまった。、、精霊として異端で、いびつかもね。それでも、人が、好きなの。辛いときもあるけど、また違う姿の大好きな人に会えるから、大丈夫。在り続けて人の生きるさまを見続ける。それが、泉と大樹の精霊である私の役目だから。」
「、、そう。無理、してない?」
「うん。、、忘れないで。私を。また、会いに来て。」
「会いに来る。あのね、3ヶ月後、私、結婚するの。結婚式はアリステアのローラン叔父様の領地の教会でするの。エヴィにも来てほしい。」フェリシティー。
「ここで、フェリシティーとバートの幸せを祈ってる。、、本来、私はここに居なきゃならないの。前は、すごく無理して出たの。精霊王に消されても仕方ないくらい、干渉したから。ごめんね。」エヴィ。
「ううん。そんなに無理してくれたんだ。ありがとう、エヴィ。」フェリシティー。
「幸せに、フェリシティー。」
「ありがとう、エヴィ。」
一方。
王宮のプライベートな応接室で。
王、王妃、王太子リカルドと王太子妃シェリーと宰相がベルンハルトを待っていた。
「ベルンハルト殿下、お帰り頂き感謝いたします。」王がへりくだってベルンハルトに声をかけた。
「陛下、そのようなお言葉をおかけいただいては、過分すぎます。」
「いや、公爵一家がフランセーアから出ていかれてはフランセーアは立ち行きません。」宰相が言う。
「フェリシティー姫に無礼を働いた令嬢がどうなったか、お聞きしませんでしたか?」宰相。
「聞いておりません。どうかしたのですか?」ベルンハルト。
「1年と少し前、になりますかな。フェリシティー姫を侮辱した、侯爵令嬢でしたが、親が王都にいる事を許さず領地に行かせたのです。しかし、その侯爵領は日照りで水不足、その後は冷夏となり、大不作となりました。また、侯爵家のみに10回も落雷があり、侯爵邸は焼け落ちました。死人は出ておりません。」
宰相が淡々と語った。
ぽかんとするベルンハルト。
「日照り、冷害が侯爵領地のみで近隣の他領は豊作ではないが不作と言うほどでもなかった。まあ、今年はフランセーア全体がそうなのだ。で、その侯爵領地のみ大不作なのは件の令嬢がフェリシティー姫を侮辱したからだと噂になった。
領民は令嬢の領地からの追放を求めた。侯爵も困ったのだろう。令嬢を結婚で他領に押し付けようとしたが、男爵でさえ恐怖して侯爵令嬢との縁談を断った。リカルドやエルドの婚約者として名の上がった令嬢だった。母親が旧王家の出で、父親が現在トュリューグ公爵領地を持っていた旧公爵家の親戚だった者だ。だから、私怨と侮りからフェリシティー姫に敵意を持っていたのだろう。結果として、報復を受けたな。」陛下が続けた。
「、、あの、フェリシティーはそのような事は望んでません。」呆然とするベルンハルト。
「そうであろうな。天意だ。」諦めたような王の言葉。
「令嬢は1ヶ月ごとに修道院や教会を転々として奉仕活動をしている。侯爵領地は今年は天候は落ち着いている。が、もう侯爵領には戻らんだろう。嫁に行く先も無いな。そして、フランセーア貴族達はフェリシティー姫の噂を一切しなくなったよ。、、精霊に愛されるとは、天を味方につけることなのだな。」陛下。
「、、、フェリシティーの意思に関係ない事とはいえ、罪の無い領民を苦しめた事、深くお詫びいたします。」ベルンハルト。
「いいえ。ベルンハルト殿下、侯爵領民にはとばっちりでしたが、結果的には良い方に傾きました。
トュリューグ公爵がフランセーアに定住してくださってから、豊作が当たり前、災害なく暮らせていたのだとフランセーア国民が気付きました。」リカルド。
「ベルンハルト殿下、あの、今回お越し頂いたのは私的なお願いですの。お断りされても仕方ないことですが、私達王家の願いです。」シェリー王太子妃が言う。
「ルーク様に私達の王女、ビアトリクスの婚約者になっていただきたいのです。行く行くは、フランセーア王として、ルーク様に、と。」シェリー。
「それは、お断りいたします。」キッパリと言うベルンハルト。
室内の王族、宰相がガックリと落胆した。
「成長したルークとビアトリクス王女が望めば、否やはありません。
しかし、王太子ご夫妻はお若い。これからもお子に恵まれますでしょう。王子もお産まれになりましょう。そのように性急に決めなくとも。」ベルンハルト。
「王子が産まれたら、アイリーン様を王妃にいただきたい。」リカルド。
「はあ?」ベルンハルト。
「王家は、トュリューグ公爵家の血筋が欲しいのです。精霊姫ラミーナ様、フェリシティー姫に連なる精霊に祝福された正当な王家としたい。それが我らフランセーア王家の願いです。」リカルド。
「私は子供に幸せになって欲しい。それだけです。」ベルンハルトは無表情になった。
「ベルンハルト殿下、今回のフェリシティー姫への精霊の恩寵は感服いたしました。今後もトュリューグ公爵家はフランセーアに必要なのです。王家はトュリューグ公爵家の意思を尊重します。ただ、お心に留め置いて下さいませ。」シェリー。




