プロンシアーナで旅しています
「私って、農家の見習いの苗植えの人よね?」
農家の作業着を着て、大きな麦わら帽子と首にタオルを巻いて軍手しているフェリシティー。
「そうだね。俺も農家の下っ端だね。」
同じような格好のバート。ニコニコ笑っている。フェリシティーと一緒に過ごせてゴキゲンなのだ。
「私達、農家の旅人一家かなあ?」サーラ。
「僕も!」ルーク。
「アイも!」アイリーン。
「なんでこうなった?まあ、結構楽しいけど。家族で一緒に出来るし。達成感あるし。」
ブツブツ言うベルンハルト。
「健康的でいいわね!朝早くから仕事をして、体を動かすからご飯が美味しいし、ぐっすり眠れるし。」サーラ。
「楽しい!」ルーク。
「しい!」アイリーン。ニコニコ笑っている。
「可愛い!幸せだ!うん、こんな生活もいいな!」
幼子二人を見てベルンハルトが言う。
ベルンハルト一家とバートは見た目、完全に農民である。
ベルンハルト一家はプロンシアーナに旅行中ということになっている。
非公式である。
一度王宮でセインに会い、干ばつ地域の地図をもらい、案内人や護衛、庭師と旅をしている。ベルンハルトのフランセーア人の護衛とプロンシアーナ人の護衛、半々だ。
全員同じ作業着。村人に聞かれたら一族で苗売りの行商をしている、と言うことにしてある。
一応、どの地区の領主も連絡をもらっているらしく、役人に咎められることもなく、順調に旅が出来ている。
セインから聞いてバートが駆けつけた。フェリシティーと毎日デートしている。というか、一緒に苗木を作り育て、植林している。
バートはプロンシアーナのラレット商会の会長だ。2週間ほどプロンシアーナの王都で商会の仕事をして、2週間ほどベルンハルト達と植林の旅に同行する、を繰り返している。
エヴィは色々疲れたらしく、フランセーアの精霊の木に戻っている。ただ、フランセーアを旅立つ前に分身の苗木を沢山取らせてくれた。
今は精霊の大樹の苗木を育てながら植林の旅だ。
庭師は職人肌のお爺さん。ロンガン爺さん。
「何しとんじゃ。そんなじゃ根が出んじゃろが!」
ペシッとフェリシティーの手を叩く。
「そんくらいの量しか運べんのか?弱っちいのお。」
苗木を並べた箱を運ぶベルンハルトにも容赦がない。
「こうお?これでいー?」アイリーン。
「ロンガンおじいちゃん、おしえてー!」ルーク。
ルークとアイリーンがロンガン爺さんに懐いて色々教えてもらっている。
「おー、じょーずじゃ。いい子じゃのー。」
ロンガン爺さんも小さい子には甘い。
「ね、これってエヴィから聞いた、エヴィのご両親みたいじゃない?木を植えて旅するって。」フェリシティー。
「そーね。あ、私だけ邪魔じゃない?精霊様の血筋じゃないわ。苗、育つかしら?」サーラ。
「はあ?何言ってんの?サーラ。」ベルンハルト。
「そうよ!お母様。」フェリシティー。
「大丈夫ですよ。それなら、俺のほうが他人だし。」バート。
「バートさんは、その、私の大切な人です。他人じゃありません。」
ちょっと赤くなりつつ言うフェリシティー。その言葉に嬉しそうなバートを睨むベルンハルト。
「まあまあ、どの苗もフェリシティーが触ってるし、水やりしてるんだから、大丈夫だよ。」バート。
「俺の娘が、バートのものになるなんて。学園の頃を思うと不思議だ。」ベルンハルト。
「そうねえ。四人でいて、私とベルンハルトさまが結婚。エリンとベルンハルト様の娘を私が育て。その娘がバートと結婚かあ。」サーラ。
「そうだなあ。人生、何が起こるかわからないもんだな。」バート。
4人はせっせと水やりや土運び、堆肥混ぜ混ぜしながら会話している。
今、ちび二人はお昼寝中だ。
こうして、元アリステア王国王族、フランセーア公爵一家は植木屋さんとなり、プロンシアーナをまわっている。
安い宿屋に宿泊したり、野宿したりの旅だ。
時々ちょっと良い宿泊施設や温泉宿で疲れを癒やし、野営では火を囲んで宴会の様な無礼講な食事となり、すっかり公爵家族と護衛達は仲良くなり、旅をしている。
ある日の夕暮れ、フェリシティーとバートは散歩していた。数名の護衛が農作業着で付いてきている。
頬を撫でる風が心地良い。豊かな農村の風景の中、小川に沿った小道を歩いた。
オレンジ色やピンクに彩られた雲と空がゆっくりと形や色を変えて一日の終わりを鮮やかに飾っている。
「バートさん、不思議な話をしてもいい?、、頭がおかしくなったと思わないで欲しいの。夢で見た話。」
フェリシティーがバートの腕に自分の腕を絡めた。
「フェリシティーと会ってから、沢山の不思議な経験ばかりだから、大丈夫だよ。」バート。
「、、、襲われていた時にずっと眠っていたの。その時にエヴィが夢に現れて、私に眠ってて、って。その夢の中の夢で、いくつも不思議な夢をみたの。私だけど私じゃなくて、今の私は知らない場所で、生きていたの。バートさんも、違う姿でいたわ。姿は違うけれど、わかるの。印象深い場面をいくつも見たの。
今、とても恵まれて幸せだって思ったの。お腹が空いて飢えていないし。清潔な生活が出来て、平和で。私はまた、バートさんと出会えたわ。
、、エヴィが私に良くしてくれる理由も、わかった。私が、エヴィの、家族だったからかな、って。
でもね、今、私はフェリシティーでこの人生を私として生きていくの。バートさんと。」フェリシティー。
「、、、フェリシティーは何時だってフェリシティーだったよ。優しくて前向きでひたむきで。
どんな困難にも、辛い事も受け止めて、命を大切にして生きていたよ。そんな君と一緒にいられて、俺はいつも幸せだった。」バート。
バートの言葉にフェリシティーは足を止めてバートの顔を見上げた。
「あの襲撃のあと、俺もちょっと変わった夢を見たよ。何日も寝ていたからかな。、、ずっと好きだった幼馴染と結婚して旅をする夢。やっと授かった幼い娘が死んでしまって嘆き悲しんだ。妻の瞳を見て、フェリシティーだとわかった。妻まで喪って、俺は妻の望み通りに娘の墓地の隣に妻を葬った。そこで、俺はもう生きる意味がなくなって、そのまま。そこで死んだと思う。
不思議な夢だった。」バート。
バートは驚いて眼を見張るフェリシティーを抱き寄せた。
「夢の中の俺は、辛いばかりじゃなかったよ。ずっと好きだった女の子と結婚できて、子供を授かって幸せだった。樹の実を分け合って笑い合ったり。泉を見つけて嬉しかったり。植えた木々が大きくなって側に村ができていたり。
俺は幸せだった。今も、フェリシティーがいてくれて幸せ過ぎて怖いくらいだ。」バート。
「バートさん。私も同じ!幸せだったの。辛いことも幸福も、あなたがいたから!
、、だけど、夢を見てから、貴族でいる事が居心地が悪くて。今の暮らしが、落ち着いてて好きなの。」
「そうか。でもね、フェリシティーは元から貴族っぽくなかったよ。淑やかじゃないし。自分の意志を強く持っていて素敵だ。俺は何時だって君に惹かれる。きっと、これからも何度も。君に恋する。」
バートが甘く囁き、フェリシティーは赤くなった。
「残念だけど、農民にはなれないよ。フェリシティーはラレット商会の会長夫人になるから。」バートがくいたずらっぽく笑う。
「ええ、もうすぐこの旅は終わるわ。フランセーアにも帰らなきゃ。」フェリシティー。
夕焼けは紺色の空に変わり、金星が輝き始めていた。東からは夜が迫り来ている。月が帰り道を歩く二人を照らしていた。
フェリシティーは16歳になった。
家族でささやかなお祝いをした。ロンガン爺さんや護衛庭師さんも一緒に。
少し良い宿に泊まっている。
「おめでとう!成人だな、フェリシティー。」ベルンハルト。
「「おねーちゃん、おめでとう!」」
ルークとアイリーン。花冠と野花の花束を二人でフェリシティーにプレゼントした。
フェリシティーは妖精のように見えた。
「おめでとう、フェリシティー。」
バートがリボンのかかった小さな箱をフェリシティーに渡した。フェリシティーが箱を開けると金に青い小さな石が嵌め込んである指輪だった。
「俺は茶色の髪と目だから、フェリシティーの色で。そんなに高くないから、普段使いにして。」バート。
「嬉しい。大切にします。」フェリシティー。
宿から御馳走が届き、宴会となった。
「皆さん、ありがとうございます!そして、いつもありがとうございます。お疲れ様です。今日はのんびり楽しく美味しく過ごしましょう!」フェリシティー。
ベルンハルトとバートは少しばかりお酒を飲む。
「前に、殿下からお酒をいただきましたね。フェリシティーが来たあとに。」バート。
「久しぶりの再会だったのに、殴られた、あれか。」ベルンハルト。
「おい、殴らせろ。」ベルンハルト。
「えっ?」バート。
「大切な娘を、お前に託す。だから、殴らせろ。」ベルンハルト。
「、、良いですよ。どうぞ。」バート。
ベルンハルトがバートの額に頭突きした。ドゴッ。
二人で頭を抱えて突っ伏している。
「、、殿下?」ベルンハルトの異変にバートが気付く。ベルンハルトは泣いていた。
「大切にしてくれ。俺の、命より大事な娘だ。お前は俺の親友だ。親友の頼みだ。長生きして、一生大事にしろよ。泣かせたら、、、殺す。」ベルンハルト。
いつの間にかそばにいたサーラが、笑っていた。
「もう、ベルンハルト様はいくつになっても、カワイイんだから。素直で優しくて。、、愛していますよ。ベルンハルト様。私がいるから。ずっとそばにいますから。
フェリシティーもそんな人を見つけたんです。私達の娘は幸せになりますよ。大丈夫。」サーラ。
バートは親友の本気の涙に襟を正した。
「大切な親友夫婦の宝物を、この命が尽きようとも、全力全霊を持って守ることを誓います。
俺にとっても、フェリシティーは人生を灯してくれた光。行く道を照らし導いて共に歩んでくれる大切な女性です。ベルンハルト殿下、サーラ様、二人の宝物フェリシティーをバート・ラレットは生涯愛することを誓う。」
三人はお互いの目を見つめ合う。嘘がないことがわかる。
バートの言葉にベルンハルトとサーラは頷いた。
「幸せを願ってる。何かあったら遠慮なく頼ってくれ。」ベルンハルトが微笑む。泣き笑いだ。
バートも頷いて微笑む。
ベルンハルトとサーラは部屋に下がった。ふらつくベルンハルトをサーラが支えている。
バートは旅が終わったのだと感じた。
土と緑に触れ合う旅はもう終わりだ。
「王都に戻り、商売に身を入れないとな」と呟いた。席を立った。フェリシティーを妻に迎えるのだ。お膳立ては十分してもらった。ラレット商会を揺るぎない大商会にしてみせる、バートは一人、決意を新たにした。
閑話。
旅の最中。休憩などでフェリシティーとバートが微笑ましく初々しく仲良く話を始めると、ベルンハルトがわざとらしく乱入。サーラが割って入りベルンハルトを回収する、という事が続いた。
なので、サーラはフェリシティーとバートを応援することにした。フェリシティーの誕生日の宴会前にベルンハルトにサーラが話しかけた。
「ベルンハルト様、フェリシティーとバートは婚約して、そろそろ半年ですね。」サーラ。
「そうだな。」ベルンハルト。
「バートさんは、お行儀が良いですね。」サーラ。
「ん?お行儀?」
「誰かさんは、婚約した途端に手を出してきたじゃないですか。」サーラ。
「!!そ、そうだったかな。」汗タラタラのベルンハルト。
「そうですよー。わすれたんですか?」サーラの声が冷たい。
「忘れてない!嬉しくて。その、早く、自分のにしたくて。安心したくて。その、悪かった。」ベルンハルト。
「王宮の侍女や女官にどれだけ嫌味を言われたか。恥ずかしかったか。私は、忘れてませんから!」サーラ。
「ホントにごめん。そういう気遣いは出来てなかった。」
「じゃ、バートとフェリシティーがそういう仲になっても、文句は言えないですよねー?」サーラ。
「えっ!ダメだ!結婚式までは。」
「それを言った私に、ベルンハルト様は、、、」サーラ。
「、、はい。何も言う資格はないです。ゴメンなさい。」
「なら、もう邪魔しないこと!みっともないですよ?フェリシティーに嫌われますよ。」サーラ。
「、、はい。」




