エルドの恋心
幼い初恋は、いくつになっても、そのまま俺の中で育まれている。
ただ一人の女の子を想い続けている。
その女の子はカワイイ。率直。飾り気のない性格。負けん気が強い。優しい。賢い。
俺はその子に惹かれている。その子に対しては自分で自分が制御不能になる。
しかし、その子の眼中に自分はいない。
いつか、想いが届くだろうか?
女の子は少女になり、どんどん美しくなっていく。
その少女、フェリシティーは異性に興味が無いようだ。
多くの婚約申し込みは全て断り、男達はパーティーでアプローチしても玉砕している。
多くの令息がフェリシティーに恋していた。
本当にカワイイから。仕方がない。
俺は睨みを効かせていた。鳶に油揚げを掻っ攫われてたまるか!と思っている。本当は不安でたまらない。彼女が他のヤツに恋したら俺は耐えられるだろうか。
兄上の婚約者のシェリーが俺の行動の指南役だ。
どんな男が好ましいか、良い言動悪い言動を指南、指摘してもらっている。
ある時、シェリーが報告してきた。
「フェリシティーに気になる異性が現れました。本人は気付いてませんが、かなりの好印象ですわ!」
俺は真っ青になった。フェリシティーが?
あのカワイイ美しい優しい賢いフェリシティーに好かれたら、その男はフェリシティーを好きになるだろ。クラクラしてきた。
「でも、かなり年上ですわねえ。憧れで終わるのではないかしら?フェリシティーは包容力のある大人な男性が好みですのね。エルドじゃお子様、範疇外?」シェリー。
「グサグサ刺さるから、止めてくれ。その人はどんな人だ?俺の知ってるやつか?」
「ほら、その言葉もよくありません。どんな人だろうか?教えてくれないか?と言えないのですか?」シェリー。
「気をつけます。毎回のご指摘ありがとう。その人のことを教えて下さい。」
ふぅっとため息をつき、じろりと憐れみの目で俺を見るシェリー。やめてくれ。
「貴族ではなくて、商人ですって。ベルンハルト殿下の御学友ですから、かーなーりーの、年上ですわ。しかも、実母のエリン様を幼い頃から陰日向に支え、助け、思い続け、未だに独身の清廉潔白なお人ですって。私が聞いても、せつない恋物語ですわ!好感度200パーセントです!
想い続けて25年ですって。生半可な恋心ではありませんわね。ですからエルドもあと20年程想い続ければオッケーですわ!頑張ってくださいませ!」
「長いよ!」
「ホホホホホ。まあ、それは冗談ですわ。
歳の差がありすぎますから、憧れで初恋は終了ですわよ。親子ほどの差ですから、ベルンハルト殿下が反対なさいます。その想われ人も、お人柄からしてフェリシティーの想いを受け入れ、、、、るかもしれませんわね?
エリン様とフェリシティーはそっくりですもの。親子とはいえ、別に育っていますから。フェリシティーと結婚してもエリン様が義母になるわけではないですし。
長年想い続けている方にそっくりなフェリシティーから想いを寄せられたら、グラッとくるのではありませんこと?殿方は若い女の子が好きですからね。」シェリー。
「うわああああ!どうすればいいんだあああ!」うろたえまくる俺。
「そういうところが良くありませんのよ。
言っておきますけど、邪魔をしたら嫌われます。せいぜい御自分をお磨きなさいませ。
ま、難しいですわよねえ。フェリシティーは高価な品を嫌いますから贈り物は効果がございません。パーティーも最低限しか出掛けませんし。ドレスも使いまわしてますもの。着飾ることに興味が無いのです。
フェリシティーは元が良いから、生花を髪飾りにして宝石をつけません。それがまた、フェリシティーを妖精のように見せるのですよね。男性達を虜にしておりましたわ。
華やかなことより読書や庭いじりが好きなんですものね。
、、、ソロソロ諦めてはいかがですか?」
「義姉上(まだ兄上の婚約者だが、そう呼ぶと機嫌が良くなる)は俺に協力してくれるんですよね?さっきから容赦がないのですが。」俺は抗議した。
「ですから、追いかけるのはお止めになって、ご勉学に励みなさいませ。フェリシティーから一目置かれる存在になるのです。第一印象が最悪なんですのよ?」
シェリーが俺の古傷をえぐる。
「恋は、落ちるものですものね。どうしようもなく、惹かれてしまうもの。、、、諦められませんわよね。、、、辛いですわね。殿下。」憐れみの目でシェリーが言った。
かなり焦ったが、フェリシティーとその商人は接点がなく、たまに文通しているだけだった。良かった。
何年経っても、フェリシティーは俺と婚約してくれない。学園で俺はフェリシティーのそばにいた。他の男がフェリシティーに話しかければ割って入った。
シェリーに止めろと言われたが、フェリシティーが他の男と居ると心配だった。
フェリシティーはそんな俺にも、寄ってくる男にも興味が無いみたいだった。
俺に寄ってくる令嬢もいた。そうするとフェリシティーは「私はお邪魔なようですから。どうぞごゆっくり。」と俺を令嬢に差し出す。
俺は令嬢に「邪魔はお前だ。」と言ってフェリシティーを追いかける。そんなことが何度も繰り返された。
フェリシティーが学園を休学した。
俺は何度もトュリューグ公爵邸を訪問した。
会わせてもらえなかった。
もう、ドン底に落ち込んだ。
トュリューグ公爵邸に忍ばせている使用人が俺に定期報告を送ってくる。
一時期、フェリシティーの身長体重胸囲(胸のカップやトップやアンダーのサイズ)ウエストサイズ足のサイズまで俺は把握していた。報告書にあったし。ドレスを贈りたかったし。
そしたら、シェリーにキモがられた。
「ストーカーですわ!女には知られたくない秘密があるものです!体重や胸の大きさまで!身体の成長をエルド殿下に知られているなんて!最高に気持ち悪いですわ!フェリシティーがこれを知ったら、即、口を聞いてもらえません視線を合わせてもらえません存在を抹消されます変態確定です。」
そうなのか?全て知っておきたいのに。
実は月経周期も報告書にあった。これもだめっぽいな。月のものがきている間はお茶や劇場に誘わないようにしていた。難しいな。
それで、報告書はそれらを抜きにして作成する事にさせた。
それからは、報告はフェリシティーの日々の様子。会話。交友。趣味。興味。好物。公爵夫妻の動向に留めた。
15歳になった。
フェリシティーは今、公爵邸にいないと報告書が来た。留学しに出ていったと。
俺もそこに留学したい。
探らせた。
アリステア王国のローラン子爵領地の職業訓練学校たった。
調べさせたら、不思議な学校だった。
貴族向けではない。平民向けの働く者向けの学校だ。
フェリシティーは何をしたいんだ?
???束の間の自由、かな?
探らせながら定期報告を受けていた。
フェリシティーはのんびり過ごしていた。
父上に留学したいと言ったら、即却下された。そっとしておけ、って。フェリシティーを追いかけようとしているって、わかったみたいだ。悶々と過ごした。
フェリシティーに男が出来たら、心配だ!
それは突然の知らせだった。
ローラン領地の報告書が特別便で届けられた。
同時にトュリューグ公爵邸からの報告書も来た。
ローラン領地からのものは、
「事件発生。フェリシティーらが襲撃、拉致された。さらに、純潔も失った。現在行方不明。」
トュリューグ公爵邸からのものは、
「公爵が急ぎ他国へ出国予定。サーラ妃殿下が倒れた。公爵邸は慌ただしい。公爵が自軍を出す予定。王宮と連絡を取り合っている。フェリシティー姫が事件に巻き込まれた模様。緊急を要している模様。」
ローラン領からの連絡を受けて、ベルンハルト殿下がローラン領へ向かうのだ。
フェリシティーが行方不明。もう純潔を失ったなんて。
無事に救出出来たとしても、もう王族との婚姻は絶望的だ。
俺はどうしたら良いんだ。
祈ることしか出来ない。
王宮にも報告があったようだ。
王太后様がお倒れになられた。王宮も慌ただしくなった。
しばらくしてフェリシティー保護の報告が来た。良かった。
フェリシティーが帰国したら、俺はフェリシティーを見舞おう。きっと落ち込んでいるだろう。慰めよう。
婚約をまた、申し込もう。例えフェリシティーが傷物でも気にしないと伝えねば。
騒動が落ち着いたらしい。ベルンハルト殿下がフランセーアに帰国した。
また王宮と密に連絡を取り合っている。
シェリーが来て、俺にたずねた。
「秘密ですけれど、フェリシティーは純潔を失いました。エルド殿下はそれでもフェリシティーを望みますの?」
「その事は残念だが、それでもフェリシティーと結婚したい。」
俺は心が広いつもりだ。フェリシティーにとって不本意な出来事だったろう。可哀想に。傷物となっても、俺の心は変わらない。
「、、、フェリシティーが子供を産めなくても?」シェリー。
「それは、困る。兄上とシェリーに子が多く産まれたら、まあ、良いけど。」
俺は子供が欲しい。30過ぎても子ができなければ愛妾を娶るしかないな。フェリシティー自身も実母は他にいる。心を広くして俺と愛妾の子供を我が子として育てるだろう。
「エルド殿下はフェリシティーか王族貴族籍を抜けたいと言ったら、ご一緒に平民になることが出来ますか?」シェリー。
「はあ?それも困る。さっきと同じだ。兄上達に男子が多くいて、隠居後ならいいけど。王族、王統の安定が国の安定でもある。無理だろ。」
「そうですわよね。エルド殿下は偉そうに生きたいのですもの。人に頭を下げたりする生き方は出来ませんわね。以前、王太后様が仰っておられましたわね。精霊の祝福を受ける王族は王族でいたくない、平民になりたい人だって。
フェリシティーもそうだと考えたことはございますか?」
俺は答えに詰った。
「エルド殿下はフェリシティーが望んだら、全てを捨てれますか?」シェリー。
黙り込んだ俺にシェリーは言った。
「以前ご報告したフェリシティーの想い人の商人ですが、襲撃の際フェリシティーをかばって背に矢を受けたそうです。その方は自分の命をフェリシティーのために投げ出したのですわ。
フェリシティーはその方と婚約するそうです。
エルド殿下の覚悟を聞いてこいと王妃様に遣わされまましたの。
ですが、、、、無理ですわね。覚悟はない。上からしか物事を見れない。フェリシティーから好かれてもいない。
諦めてくださいましね。
フェリシティーは精霊エヴィ様にこよなく愛されています。フェリシティーが平民となったとしても、フランセーア王家と密接に良い関係を続けてもらわなくてはなりません。
おわかりですか?フランセーアはエルド殿下よりフェリシティーが大事ですから!
フェリシティーの婚約、結婚を邪魔するものは容赦いたしません。
初恋は実らないと言いますから。お気の毒に。諦めて下さいね。もう、無理ですから。決定ですから。
私とリカルド様は初恋を実らせましたし、フェリシティーもですわね。ホホホホ、ホントにお気の毒ですわ!」
言うだけ言ってシェリーは灰になった俺を憐れみの目で見て、侍女と部屋を出ていった。
俺は、それでもフェリシティーへの想いを捨てることが出来なかった。だって、好きなんだ。どうしろというのか?
お読みいただきありがとうございます。




