ブランドンの呪い
フェリシティーは深夜の突然の地響きで目を覚ました。
直ぐにバートが部屋の前に来た。フェリシティーの無事を確認したいようだ。
セインとガイルもフェリシティーの部屋の前で心配していた。
フェリシティーは3人を部屋に招き入れた。令嬢としては駄目だが、エヴィが現れてセイン達を部屋に入れろと言ったのだ。
エヴィが「来る!」と叫んだ。
火の入れていない暖炉に突然火が上がり、勢いよく燃えたように見えた。その炎の中からブランドンが現れた。同時に部屋の空間がグニャリと歪んだ。ドアと窓が消えた。
ブランドンはフェリシティー、バート、セイン、ガイルがいるのを見て悔しげに睨んだ。
フェリシティーは後ろに下げられた、男3人に盾のように守られている。
手に張り付いたトカゲに「派手に音を立てたな!」と言った。
「だが結界を張った。ここは俺たちのテリトリーだ。」トカゲがチチチと音を立てた。
「女、また種を付けようと来たが、そこのハエが邪魔した。お前が俺の女になって子を産むなら生かしてやる。拒否するなら、考えがある。」ブランドン。
「あんたには渡さない。」エヴィ。
「ハエは黙ってろ。ここは俺のテリトリーだ。力は使えないだろう?」ブランドン。
「お前に彼女は渡さない。」バート。
「兄さん、もう止めてくれ。わからないのか?魔族に良いように使われてるんだ。幼い頃の兄さんは俺に優しかった。」セイン。
「黙れ!セイン、お前こそ誇りを忘れた出来損ないだ。俺は特別だ!精霊は人心を惑わす害悪だ。俺は精霊を根絶やしにする。そしてこの大陸の帝王になるのだ!魔族が俺にやるべきこと、行く道を指し示しているのだ。その女は俺の子を産むために生まれたのだ。」ブランドン。
「もう人の痕跡は欠片しかないわ。そのトカゲに支配されてる。」エヴィ。
「ふん。女、お前は俺のだ。すでにお前の身体には俺の印がある。俺に純潔を捧げた。俺の子を宿した。流れたがな!さあ、来い。もう一度種付けしてやる。」ブランドン。
「傷つけられないかもしれないが、ぶん殴っていいか?」ガイル。
「お前が怪我するだけだ。止めとけ。」セイン。
フェリシティーはブランドンの言葉を全く信じていない。皆が守ってくれている。
エヴィがフェリシティーに言った。「精神攻撃よ。受け入れては駄目。」
「主よ、この女は信じない。俺はそばにいた。見た映像を見せてやろう。」トカゲ。
部屋の壁に襲撃された時の服装のフェリシティーが粗末な部屋のベッドに寝かされている姿が写った。
ブランドンがフェリシティーのに覆いかぶさり、脚を広げさせて揺らしている。
隣の部屋からだろうか?男達の下卑な笑い声、愉悦の声とユナの悲鳴、泣き声、嗚咽がかすかに聞こえる。
「なにこれ、やめて!」フェリシティーが顔を歪めて叫んだ。
「見るな、見なくていい。」バートがフェリシティーを胸に閉じ込めた。
「ふん、もっとあるよ。山荘では女はずっと裸だった。」
いくつかの映像が映し出された。
豪華なベッドでブランドンがフェリシティーと重なっていたり、フェリシティーをうつ伏せにして腰を上げさせて揺らしていたり。ブランドンのハアハア言う声にフェリシティーのウウっと苦しそうな声が重なっていた。
「いやあ!やめて!」バートの腕の中で目をつぶり耳を塞ぐフェリシティー。
「お前は眠っていた。そこのハエが眠らせていた。
お前はもう俺の女だ。認めろ。」ニヤニヤして言うブランドン。
ブランドンの口から黒いモヤが吐き出された。フェリシティーに向かう。
「情けない男だ。女性を攫い、意識のない女性に。恥ずべき行為だ。ローラン領ではこの犯罪の全ての非は男のみにある。女性は被害者だ。」バート。
「バートさん、私、汚い、バートさんと結婚出来ない。」フェリシティーが泣いている。混乱している。
フェリシティーとバートにブランドンの黒いモヤがかかり、二人を包みこもうとした。
「何を言うんだい?フェリシティー。君はキレイだ。愛してる。結婚して。そばにいて。大好きだ。どんな君だろうと、ずっとそばにいる。」バート。顔が赤い。耳まで赤い。
「でも、私は。」フェリシティー。
「僕が欲しいのは君の心だ。一緒に人生を過ごして笑い合って、心を重ねて時を共にしたい。君は?」バート。
「バートさんといたい!バートさんが好き!」
フェリシティーはそう言って泣きじゃくった。
フェリシティーの周囲に漂っていたモヤが弾かれた。
「よし!謀は破られた!精霊よ集え。」
エヴィの周りに光の渦ができ始めた。光の帯がブランドンを絡め取り繭の中に閉じ込めようとした。
「まだだ!トカゲ、最終手段とやらをしろ!許す!」
ブランドン。
「クケケ!あらよっ!」
トカゲが炎をまとい、尻尾を刃物にしてブランドンの喉を引き裂いた。
ブランドンが大きく口を開けて血を溢れさた。目も見開いている。「なん、で」ブランドンの声は音を発しなかった。
「失敗だ。俺は魔界に帰る。それだけだ。」
チチチとトカゲが鳴いた。
「おっと、言い忘れた。ブランドン、恨むのは一人にしておけ。呪いを受けさせろ。」
トカゲの姿が暖炉の炎に消えた。
「聖なる光に当たれば、俺も燃えちまうからな。」
トカゲのつぶやきは誰にも聞こえなかった。
ブランドンは悶えた。
失敗?
上手くいくと言われていたのに。
炎の祝福を受けて不死になり、王太子になった。
好きなだけ女を抱き、美酒を飲み楽しんだ。
王太子を下ろされ、幽閉されたのはセインのせいだ。
トカゲに見限られたのはあの女のせいだ。
あの女が俺の子を殺したからだ。
ブランドンの不死の身体から黒い煙の様な粒子が湧き出した。渦を巻いてセインとフェリシティーへ向かった。
ブランドンはトカゲの忠告など耳に入っていない。彼奴等が憎い。目標は二人だ。十分な量の呪いが身から出ていく。口からガボガボと血と黒い煙が湧き上がった。
エヴィが黒い渦の前で光を放とうとしたが、弱い光しか出ない。
「ウゥ、血の穢れが満ちていて無理。対抗できない、、、ん?この呪いは!」
エヴィが黒い渦に身を投じた。エヴィが黒い渦の中で必死に光を出してもがいている。
黒い渦はエヴィを通り過ぎて2つに別れた。それぞれ目的に向かう。
身体に受けた炎の祝福、不死の力がブランドンの恨みの先へ向かい、先ずセインをからめとろうとした。
ガイルはセインを抱きしめようとした。セインがガイルを突き飛ばした。ガイルが床に転がる。
「俺がうけてやらあ!ガイル、後は頼んだ。自由に生きろ。幸せに生きろ。笑って生きろ。愛してるぜ!楽しかった!」
セインが不遜な笑みを浮かべながら黒い渦に呑まれた。セインを包んで黒い渦が消えた。
もう一方の黒い渦にはフェリシティーを抱きしめたままのバートがいる。
バートごと黒い渦に呑まれかけた時にエヴィがフェリシティーを光で包んだ。黒い渦にはバートだけが呑まれて消えた。
「いやあ!バートさん!」フェリシティーの叫び声がこだました。
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