バートの幸せ
バートはプロンシアーナに向かう馬車の中で、フェリシティーを思い出していた。最後に会った時の泣き顔が目にこびりついている。
出会いはフランセーアの王都のサーラの実家の店だった。
最初はエリンそっくりの子供に驚いた。
エリンと結婚相手の子供だと思い込んだ。アリステアから親子で旅行し、旧友のサーラに会いに来たのだろう、と。
1年後くらいに、その子がいきなり訪ねてきた。
真剣な、悲壮感漂う顔をしていた。
問われるまま、答えていくと、少女の顔が和らいでいく。
どうやら、夫婦ケンカを聞いてエリンとベルンハルトの仲を疑っていると思った。
しかし、少女はベルンハルトとエリンの子供だった。
誤解は解けた。しかし、ショックが大きい。
ベルンハルトがエリンを抱いたのか、と思うと苦しかった。
エリンが好きだ。
幸せにと願っていた。
なんで、ベルンハルト殿下と?エリンはベルンハルトを好きでもなんでもない。サーラの夫に恋慕するはずがない。
考えるまでもなく、サーラのため、金のためもあるな、と思った。エリンのあのアホ父が何かやらかしたのだろう。
父親ベルンハルトを殴った俺に、少女、フェリシティーは手紙をくれた。
嫌われたただろうと思った。泣いてたしな。
なぜか手紙が来て感謝の言葉が綴られていた。
良い子だ。
両親に愛されて素直に育ったんだな。
その後も手紙が来る。
正直、嬉しかった。
エリンの娘、フェリシティー。エリンに似たフェリシティー。好感を持たないでいられるはずがない。
思いがけず、アリステアで再会できた。
くしくも、俺とエリンが出会った場所で。
エリンかと思った。
すぐにフェリシティーだと気付いた。
運命かよ!心の中で叫んだ。
フェリシティーは少女から女性になっている途中だった。
大輪の花を咲かせる蕾。
すでに香りを放ち始めている。
公爵令嬢ではないフェリスとして、何度も会い、話した。楽しかった。
なぜか、なついてくれた。
エリンとの思い出の場所がフェリシティーとの思い出の場所になっていく。上書きされていく。
困った。中年オヤジが親子ほど年の離れた少女にこんな感情を持っては駄目だ。
エリンの子供だ。ベルンハルトとサーラの娘だ。
最後に街歩きをして、サヨナラした。
はずが、フェリシティーに抱きつかれた。いい年したオッサンなのに胸が高鳴った。いかん。これは、いかん。
無理にカッコつけて、別れた。
フェリシティーからのプレゼントに、また困惑した。
フェリシティーの髪入の飾り紐がついた、万年筆。
恋人が恋人に贈る物だ。もしくは妻が夫に贈る物。家族に贈るもの。
自分の体の一部を贈るとは、親愛の証だ。
ベルンハルトへのプレゼントと間違えて渡されたのだろうか?ベルンハルトへの贈り物と同じだと言っていたから。
考えたが、俺が持つべきではない。未練たらしく持っていてはいけない。返そう。
精霊姫と呼ばれるフェリシティー姫だ。王族だ。公爵令嬢だ。
元々、知り合う間ではない。夢だと忘れよう。
フェリシティーに誂えていたアクセサリーが届いた。
それと合わせて、飾り紐をローラン子爵家に贈った。
さようなら、フェリシティー。幸せになれよ。
けっこう、堪えた。つらい。会いたい。
そろそろ街に着くなあ、と考えていたら、窓の外に馬に乗るフェリシティーが見えた。
夢?また白昼夢か?いや、本物!
なんてこった。フェリシティーが追いかけて来てくれた。
嬉しさがこみ上げる。それを隠すために怒り顔を固定する。俺は大人だ。いい歳したおっさんだ。フェリシティーを諌めて帰宅されねば。
馬車を止めた。
フェリシティーも馬から降りた。フェリシティーの息が上がっている。駆け寄ってきた。
「バートさん、これは父上ではなく、あなたに貰ってほしいのです。間違ってません!」
フェリシティーが言う。
そして、俺に抱きついた。
どうしよう。顔が緩む。抱きしめたいが、駄目だ。俺は大人だ。耐えろ。
その時、街道から2頭の馬に乗る人影がやってきた。
フェリシティーを馬車に乗らせて隠す。俺も乗り込む。
近くに来たらわかった。騎影はフェリシティーの護衛の少女だった。
馬上の二人は剣を持ち、構えている。殺気を感じる。
ヤバい。
俺は出会った時と同じ、降参のポーズをとり、馬車から降りた。
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