楽しい日々を過ごしています。
応接室で大人3人が楽しそうに歓談している。
子供時代、バートはローラン子爵家にしょっちゅう遊びに来ていた。
もちろんエリンに会いに、だ。2年間ほど通っていた。
その後、破産状態同然のローラン子爵家のエリンにバートが好意を持っていることをバートの両親が危惧した。
バートは王都へ移され、学園入学までエリンに会えなくなった。
学園では、バートはエリンと学友として過ごした。片思いだった。
エリンが卒業してアーサーが入学した。
バートはその後、卒業。他国へ留学し、ある程度学ぶと親の商会で働き、自分の商会を起こした。
その間もたまにローラン子爵家に顔を出してエリンの消息を聞いていた。
アーサーもケイトも、エリンがどこにいるかは言わずに元気であることは知らせていた。
また、お互いに仕事の話をして情報を得ていた。
さらにはバートが商会を起こす時にアーサーが人材を橋渡しした。
ここ数年はローラン子爵家に立ち寄っていなかったので、久しぶりだった。
フェリシティーは興味深く大人たちの話を聞いていた
バートはこの日ローラン子爵家に泊まった。
バートの祖父母宅へは使いを出してもらった。
結局、数日間バートはローラン領に滞在した。フェリシティーはバート滞在中、全て休みにしてもらった。
フェリシティーがバートに懐いている。
アーサーとケイトは不思議がりながらも、フェリシティーがバートと外出することを許可した。フェリシティーは預かり者なので、アーサーの許可がいるのだ。
ネイとユナが護衛につく。
バートも職業訓練学校に臨時入校し、フェリシティーと授業を受けた。
「異国の文化、風習とマナー」「婚姻図研究(国家間での王族と貴族の姻戚関係を学ぶ)」「法律を学ぼう!アリステアと他国の法律の違い」「物価変動の法則」
バートが選ぶ講座はフェリシティーには目新しい。
バートは職業訓練学校のパンフレットを見て、肩を揺らして笑っていた。
「商売が軌道に乗らない人のための商売術(相談時間あり)」
「元娼館勤めの御婦人が教える閨術(結婚している夫人限定)(秘密厳守)(匿名、変装可)」
「夫婦で聞こう、良い家庭の築き方(婚約中、新婚の人限定)」
「優秀な子供は良い家庭はから、学ぼう夫婦の家庭円満術」
「破産間近なあなたに、相談可能、破産手続きの仕方(相談時間あり)」
「元詐欺師が教える、狙われない商会のなるために、しなくてはいけない10の法則」
「片付けが苦手なあなたのために、断捨離術教えます(お掃除、片付けのお手伝い派遣します。相談可能)」
「良い使用人に長く勤めてもらうために、良い主人になるための心得(商会編)」
「離婚を考えた時に受ける講座 (離婚後の身の振り方実例 相談可能、避難先も斡旋あり 匿名・変装可)」
語学、計算、簿記。美術品の鑑賞術、音楽鑑賞、観劇、食事のマナーなど。執事やメイド、料理人、馬術等の資格講座に紛れて、たまに変わった講座がある。
「アーサーは面白い学校を作ったね。斬新だ。」
バートが目尻に涙を浮かべて笑った。ウケている。
職業訓練学校もローラン子爵領も、大賑わいだ。
第2王子とサンフォーク公爵令息に人々が群がっている。護衛だらけ、でもある。
護衛協定が結ばれて、自分の護衛対象だけでなく、領都の保安を守ってくれている。情報の共有もしている。
ローラン子爵領都は今、アリステアで一番安全で治安の良い領都となっている。
「フェリス」
昼食を一緒に食べて、お茶を飲んでいる時に、バートに名前を呼ばれた。
「いつまで、それをやるつもり?親元にはいつまで、って約束なの?」バートが聞いた。
「バレたら即、オシマイです。帰りたくなったら、いつでも帰る約束です。長くて1年、です。」フェリシティー。
「そうか。もうすぐ仕事でここを出る。次は会えるかわからないんだね。」
「また、見かけたら声をかけて下さい。」フェリシティー。
「それは無理だよ。わかるだろう?」バート。
フェリシティーは普段護衛に囲まれている。
「じゃあ、家に来てください。」フェリシティー。
「敷居が高いなあ。」
「私がバートさんの商会にお伺いします。良いですか?」
「あんまり居ないから、会えるかわからない。
それに、フェリスはフェリスの世界に居るべきだ。これは息抜きだろう?」バート。
フェリシティーは押し黙った。
「ごめん。今は楽しもう。また会えたら良いね。」バート。
フェリシティーが学校から子爵家へ帰宅する時、バートが送ると言ってくれた。
途中、お店にお茶を飲みに寄った。
「年をとると、育った街が随分変わって驚くよ。こんな良い店、昔はなかった。」
バートが懐から懐中時計を出して時間を見た。
その時、店に入って来た客がバートを見て駆け寄ってきた。
「こんにちは。ラレット商会のバートさんですね。お久しぶりです、ジョシュア・タパスです。良かった。こんな所でお会い出来るとは。あの、少しよろしいでしょうか?」
タパスと名乗った男がフェリシティーを見た。
バートは困った顔をした。
「あの、どうぞ。お待ちしてますから。」フェリシティー。
「すまない。すぐ戻る。」
バートは隣の席にいるネイとユナを見た。二人が頷く。バートがタパスと連れ立って行ってしまった。
フェリシティーはバートが置いていった懐中時計をなんとなく手に取った。
飾りのない事務的な物だ。懐中時計に付いた飾り紐は古びている。その色褪せた紐の中に金に輝く色が混ざっている。見慣れた馴染みある色に見えた。
それがエリンの髪の毛だとフェリシティーは気付いた。
ふと、カツラの中の自分の髪を一本抜いて、バートの飾り紐の金色に重ねて見る。エリンの髪の色と同じだった。混ざって全くわからなくなった。
バートさんは今でもエリンさんの髪を持っている。他国へ行くときも、持っているのだろう。
しばらくしてバートが席に戻り、フェリシティーに謝った。いつもの楽しい会話が始まった。
子爵家に帰ると、ケイトがフェリシティーに手紙を渡した。アーサー宛の中にフェリシティー宛の手紙があったそうだ。
護衛のネイにフェリシティーが告げた。
「第2王子様から、王子滞在のホテルで食事会ですって。サンフォーク公爵令息のルーファスも。アーサー叔父様と一緒に、ですって。断われないわ。」
フェリシティーはため息をついた。
あんまり興味がない。というか、行きたくない。
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