バートさんに会えました。
2ヶ月間、フェリシティーはフェリスと名乗り、ローラン子爵家で使用人をやりつつ、職業訓練学校にも通った。
同じくらいの年頃の使用人友達(王宮の武術も出来る使用人)も一緒だ。ネイとユナという女の子。仕事しながら仲良くなったつもりだ。ネイとユナにとってフェリシティーといることが仕事だとしても、お互い冗談を言ったり仕事の愚痴を言ったりしている。
同じ日を休みにして一緒に学校に通う。
フェリシティーが選んだ授業をネイとユナも取ってくれる。
興味を引いた科目を自由に取る。
連続して取る教科もあるが、単発の授業もある。
「横領されている帳簿の見つけ方」「横領事件の実例」「信用できる人物、使用人の見分け方」「没落貴族実例 没落貴族にならないために」
貴族の令息令嬢が来たので作った科目もあるらしい。
フェリシティーは初日にこれらの授業を取ってみた。
平民、商人、貴族が同じ教室で同じ授業を受けている。新鮮だ。
斬新な授業が多く、授業を受けるたびに楽しい。
欄ローラン子爵家でアーサー、アーサーの妻のケイト、二人の子供のラシエルとクリスとも仲良くなれた。
隣の領地、クロフォード伯爵夫人エリンもローラン子爵家に数日間の里帰りに来た。
エリンとフェリシティーは信頼して相談できる親戚くらいの距離感になれた。
数回職業訓練学校に通えた。
時々近くに座った人に話しかけてみる。
フェリスを使用人と見て、そっけない態度の人がいたり、不安だったのか嬉しそうに話をしてくれる人様々だ。
その中で自己紹介して数名知り合いになれた。
普通の人として、学校に通えてフェリシティーは満足だ。
フェリシティーは休日、ネイとユナを連れて散歩に出た。
ここはローラン子爵領地だ。
子供の頃のバートとエリンが出会い、過ごした場所。
フェリシティーはバートの話で聞いた、最初の出会いの場所を探した。
天気が良くて、風がふんわり吹いていて散歩日よりだ。カツラとメガネをかけていて、質素な服。誰からも注目されない自由。
フェリシティーは川辺を散歩し、川を覗き込んだ。
魚が数匹、泳いでいるのが見えた。
気持ちの良い場所が気に入って、近くの木陰にシートを広げて、座った。川のせせらぎが耳に心地良い。荷馬車の音、働く人の声がたまに聞こえる。
ネイとユナが川辺でお喋りしている。
フェリシティーは目を瞑り、想像した。
ここで、少年のバートが釣りをして、エリンがやってきて、二人は話をするのだ。
バートさん、元気かな、フランセーアにいるのかな?また外国かしら?
「お嬢さん、こんにちは。」
本当にバートさんの声が聞こえた気がした。
「眠っているの?フェリシティー?」
またバートさんが話しかけてくれた。いい夢かもしれない。
フェリシティーは夢だと思い、目を閉じたま夢のバートに話しかけた。
「手紙ばかりじゃなく、バートさんに会いたいです。」
「うん。会って話したかった。ところで、この二人はフェリシティーの護衛かな?少し怖いので何とかしてもらえると助かる。」
???何だかこの夢はおかしい。
「お知り合いですか?攻撃対象ですか?、、、寝てますか?」
ネイの声までしてきた。変な夢だ。
「起きてください、お知り合いかもしれない人が危ないですよ?」ユナの声までする。
フェリシティーは夢うつつに、目を開けた。
目の前に両手を上げて降参ポーズのバートさんがいる。背後のネイから喉元にナイフを当てられている。
一気に目が覚めた。
「バートさん!なんで?!殺されかけてる?!」
フェリシティーが叫んだ。
「うん。窮地だ。助けて。この人はフェリシティーの護衛さん?」
バートは言葉の割に呑気そうに答えた。
ネイがフェリシティーの知り合いと判断し、ナイフを下げた。少し離れて近くに控える。
「ああ、びっくりした。久しぶりだね、フェリシティー。白昼夢かと思ったよ。」バート。
「お久しぶりです。バートさん、よく私とわかりましたね。」
フェリシティーは、今はカツラとメガネ姿だ。
「いや、またエリンだと思った。一瞬、夢か幻かと思って、フェリシティーだと気づいた。何年ぶりだろう。見違えた。大きくなったね。」バート。
「そりゃあ、15歳ですから。」フェリシティー。
「そうか。もう、そんなになったんだね。変装してるけど、キレイになったね。わかるよ。」
バートがにこやかに微笑んでいる。
フェリシティーは頬が染まるのを感じた。しょっちゅうエルドや色々な人から褒められても何とも思わないのに。なぜだか胸が高鳴る。
「ローラン領地でアーサーが面白い事をし始めたと聞いて、久しぶりに来たんだ。まさか、フェリシティーに会えるとは思わなかったよ。いつも手紙をありがとう。楽しく読ませてもらってるよ。返事が遅かったりそっけなくて、つまらなくないかい?こんなオジサンと文通してくれて、良いのかと思ってたよ。そう言えば最近は手紙が来なかった。ここにいたからかい?」
バート。
「あ、そうです。フランセーアにお手紙を下さったのですか?」フェリシティー。
「うん。気にしないで。それより、本当に驚いたよ。」バート。
「私もです。以前、バートさんがエリンさんと出会った場所って、この辺かな、って思ってたら、バートさんが現れたので。」
「スゴイな。俺もエリンと会った場所だから何となく来たら、君がいた。ものすごく驚いた。」バート。
「ここが出会った場所ですか?」
「うん。そこで出会った。それで、そこで落ちて、ここで昼寝した。」
バートが今、フェリシティーがうたた寝していた場所を指さした。
「ここで!」フェリシティーがとても驚く。
意図せず、引き寄せられたかのように、この場所に座った。
大きな木が木陰を作り、爽やかな風が頬を撫でる。葉の擦れた音すら心地良い場所で。引き寄せられる様に座った場所だった。
「隣、いいかい?」バート。
「!もちろんです!どうぞ!」フェリシティー。
バートがフェリシティーの隣に座った。
フェリシティーはドキドキしていた。バートさんか近い。
「今日は気持ち良い日だね。」
バートが心地良さげに座り、話しかけてきた。
「フェリシティーは変装してるね。名前も違う名前で呼んだほうがいいかな?」
「はい、今はフェリスとお呼び下さい。」
「その服装、平民設定?」
「はい、ローラン子爵家で使用人しながら職業訓練学校に通ってます。」
フェリシティーとバートは近況を報告しあった。
お昼が近くなると街のレストランへいき、楽しく会話した。ネイとユナも隣のテーブルで食事をした。
そのまま日が傾くまで、フェリシティーとバートは街を散策しショッピングし、疲れたら公園でお茶をした。
夕刻近くになるとバートはフェリシティーをローラン子爵家に送り届けた。
フェリシティーは固辞するバートを強引に邸内に連れ込んだ。
今は子爵夫人のケイトがバートを見て喜んだ。
身内しかいない調理室に行き、ケイトがお茶を出した。昔はいつもこうしていたのだ。使用人なんて一人もいなかったから。
調理室にケイト、バート、フェリシティーとネイ、ユナのみになる。
「バート、立派になって!何年ぶりかしら。」
「ケイトこそ、見違えた。アーサーと結婚して、子爵夫人かあ。聞いてたけど、アーサーならケイトを逃すわけないから、納得したよ。やっとか、ってね。」バート。
「アーサー叔父様はずっとケイト叔母様を好きだったの?」フェリシティー。
「恥ずかしいから、やめて!」ケイト。
「聞きたい!」フェリシティーがはしゃく。
「アーサーは俺が初めて会った6歳くらいから、ケイトが好きだったね。まるわかり。その後もずっとケイトに片思いしてた。相手にされなくて落ち込んでたな。子供の頃の年の差は大きいから。」バート。
「アーサー叔父様が?あんなにカッコ良いのに?」フェリシティー。
「そう、アーサーは昔からモテてた。でも、ケイト一筋。言い寄られても他には見向きもしない。」バート。
キャーっと、フェリシティー、ネイ、ユナが悲鳴を上げた。
「羨ましい!ステキ!」
「ああ、もう恥ずかしい!そんな話で盛り上がらないで!」
「ケイトの事だから、自分を卑下してアーサーをかなり待たせたんだろ?アーサー可哀想に。ケイトしか見てなかったのに。」バート。
「バートこそ、ずっとエリンしか見てないくせに!」ケイトがたまらず言ってしまった。
場がシーンとしてしまった。
バートが穏やかに言葉を返した。
「そうだよ。でも、これでも幸せなんだ。会わなけりゃ良かったなんて、思わない。思ったこともない。会えて幸福な時間がたくさん会った。エリンが幸せそうで、今、俺も幸せなんだ。」
「もう、バートったら。変わらないんだから。泣けてきたじゃない。」ケイト。
「おい。俺の妻を泣かせるな。って、誰かと思ったらバートじゃん。すっげぇ久しぶり!」
アーサーまで登場した。
「調理室に入れないって、皆困ってるぞ。夕食の支度が遅れる。人払いして応接室で話そうぜ。一緒に夕食食おうぜ、いいよな?バート」
アーサーがとても嬉しそうに言った。
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