留学してみたいです。
ベルンハルトの第二子の誕生にフランセーアは歓喜した。トュリューグ公爵家は王家から信頼され国民から人気が高い。
サーラが安産だったことに、ベルンハルトは安堵した。サーラの出産にはベルンハルトとフェリシティーが付き添った。
男の子はルークと名付けられた。
無事に生まれれば、ベルンハルトはルークをとても可愛がった。サーラもルークに夢中だ。しばらくの間、トュリューグ公爵邸はルークを中心に毎日を送った。
ベルンハルト一家は穏やかに、賑やかに日々を過ごした。
さらに、フェリシティーがフランセーアの貴族学園に通い始めてから、サーラは女の子を産んだ。
今回も精霊エヴィに勧められ、大樹と泉の水を定期的に飲んで妊娠期間を過ごした。
赤ちゃんはアイリーンと名付けられた。3人の子宝に恵まれてベルンハルトとサーラは幸福だった。
「全部フェリシティーの運んだ幸福だわ。」
ふとした昼下り、揺りかごに眠るアイリーンの横で、膝にルークを乗せてサーラがベルンハルトに言った。
「フェリシティーが生まれなかったら、私、ベルンハルト様と離婚したと思うの。」サーラ。
「えっ。そんな、やめて。」
急に言われて、ベルンハルトは戸惑う。
「フェリシティーが産まれて、私を母親にしてくれて、ベルンハルト様と居ていいと思えた。それで、フランセーアに来て、フェリシティーと精霊様のおかげで、ルークとアイリーンが生まれたんだもの。私の幸福は、全部フェリシティーが運んでくれたの。
そう、エリンに出会って、ベルンハルト様と出会って。私、もらってばかりだわ。」
幸福そうな笑顔でサーラが言った。
「俺の方こそ、サーラにたくさん幸福をもらってるよ。サーラが俺と居てくれて幸福だし。フェリシティーの母親になって、ルーク、アイリーンまで産んでくれた。俺も幸福すぎて、怖いくらいだ。」ベルンハルト。
フェリシティーはルークとアイリーンをが産まれて嬉しいし、かわいい。
学園に通い、まあまあ楽しい。
学業は楽しい。知らない事を教えてもらい、知識を得る。
学園で知り合った令嬢達との交流。お茶会に呼ばれて呼んで、パーティに出て。
ただ、特別扱いが嫌だった。
精霊姫様と憧れられる。
公爵家の長女。
第2王子エルドからのあからさまな好意。
フランセーアとアリステア王国の血統の姫。
生徒から、教師から、学園の使用人からの眼差しが痛い。
フェリシティーは仕方なく猫を被って言動している。とても疲れる。
気がつけば学園の2年が終わり、フェリシティーは14歳になっていた。
平穏、平和、和やかな日々。変わらない毎日。繰り返しの日々。
ある日の夕食時。
「お父様、お父様が留学したのは、15歳でしたか?」
フェリシティーが聞いた。
「そうだね。アリステアの貴族学園で3年間、あと2年をフランセーアや隣国とかに行った。国が違えば様々なことが違う。
アリステアでは当たり前だと思っていた事が、他国では良くないと思われる事だったりしたなあ。文化や風習が違うと、自分の中の思い込みが根底から覆される。物事が違って見えるんだ。若いうちに経験出来て良かった。」
ベルンハルトが懐かしそうに話した。
「お父様、私も留学したいです。もう少ししたら、私も15歳になります。」フェリシティー。
ベルンハルトがギョッとした。
サーラもだ。
「それは、うーん。危ないから、ダメ、かなあ。」ベルンハルト。
「女の子だし。親元を離れるのは心配です。
精霊エヴィ様のこともあるし。フランセーアにいてほしいと皆が思ってるし。王家に反対されそう。
フェリシティーは何かを学びたいの?」
「私、アリステアのローラン子爵領の、アーサー叔父様の作った学校に通ってみたいの。」フェリシティー。
「え?アーサー殿の?職業訓練学校だよね?普通の平民の学校だよ?」ベルンハルト。
「何を学びたいの?」サーラ。
フェリシティーは話し始めた。
精霊エヴィや実母エリン、叔父アーサーとあった日から。たまにエリン、アーサーと季節のお便りを交わし合っている事。
エリンの手紙は娘の成長を喜び、お互いの家族を大切にしましょうね、的に結ばれている。優しい手紙だ。お互いちょっと気を使ってる。
アーサーの手紙は、おもしろい。
妻のケイト、子供二人の話。フェリシティーが会ったことがない従兄弟だ。
仕事の話。こんなことを始めたよ。こうなったよ、など。
仕事で会った人の話。ローラン子爵領は今こんなんだよ、と教えてくれる。行ったことはないが、楽しそうだ。
「それでね、私、特別扱いされないってことを、経験してみたいの。」とフェリシティー。
フランセーアの学園ては、いつも誰かが自分を見ている。注目されている。気が抜けない。息が詰まる。
一度でいいから、注目されない暮らし、学校生活をしてみたい。
ベルンハルトは生まれながらの王子だった。大切にされ、注目されることが普通だった。しかし、確かに息が詰まるのはわかる。
「うーん。留学かあ。アリステアの、アーサー殿の学校。」ベルンハルトは迷った。
「良いじゃないですか?アーサー様のお屋敷に置いてもらえるかしら?従兄弟にも会ってみたいわよね、フェリシティー。」サーラ。
「アーサー様のお屋敷?それでは平民の中に混じれないわ。」フェリシティー。
「いくらなんでも、護衛はいるわよ。侍女もね。もし、あなたに何かあればフランセーア王家が黙ってないわよ。アリステアのローラン子爵領地でフェリシティーが事故にあってごらんなさい?民衆がアーサー様に怒るわ。」サーラ。
「身分を隠して平民として通いたいの。」フェリシティー。
「アーサー殿の奥方は平民だったよね。奥方の親類として、お世話なれないか?友人として護衛と侍女をつける、とか。」ベルンハルト。
「、、、フェリシティーが平民に見える?アーサー様とフェリシティーは似ているわよ。」サーラ。
「うーん。じゃ、アーサー殿のイトコの子供で、裕福な平民に嫁いで平民になったというのは?」ベルンハルト。
「行っていいの?」フェリシティー。
「見聞を広めるのは良いと思う。ただ、心配だ。護衛が付いて変じゃない設定を考えないと。」ベルンハルト。
「とにかく、アーサー様に了解してもらわないと話にならないわよ、ベルンハルト様」サーラ。
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