お迎えは乱暴にしないでください
「さて、そろそろお帰り。君、黙って出てきたんだろう?送ろう。私も仕事がある。」バート。
「はい。」フェリシティー。
店のほうが騒がしくなった。
「なんですか?あなた方は?!」
「おやめください!来客中です!」
バートが立ち上がり、フェリシティーに目配せした。
「ここへ」バートが本棚を扉のように動かし、隠し扉の中にフェリシティーを入れて閉めた。
2つのティーカップのうち、1つをゴミ箱に入れて上から書類をグシャグシャにしてかぶせた。
ドタドタと物音がして、応接室に幾人もの剣を携えた男が入ってきた。
「この男を捕えろ!」男がバートを指さした。
「いきなりなんですか?」バート。
「姫の誘拐容疑だ。姫を探せ!」
腕を後ろ手に縛られるバート。
「精霊姫フェリシティー殿下が来たはずだ!どこへやった?!」
「精霊姫?フェリシティー?ベルンハルト殿下の?」バート。
「しらばっくれるな!」
男がバートの腹を殴った。
バートがうめき声を出した。
隠し扉の中でフェリシティーが震えていた。
「やめろ!乱暴するな!」聞き慣れた声だ。フェリシティーが気がついた。
「しかし、誘拐犯です。早く姫を保護しなくてはなりません。」
男が言う。男達はベルンハルトの護衛だった。
フェリシティーが扉から飛び出した。
「お父様!」
「フェリシティー!良かった。」
しかし、ベルンハルトはフェリシティーを抱きしめたあと、フェリシティーの頬をひっぱたいた。
「勝手なことをしてはいけない。サーラはフェリシティーがいなくなって倒れた。城中大騒ぎだ。」ベルンハルト。
「お母様が!、、、ごめんなさい。あの、バートさんを解放して。私が勝手にこちらに来たの。」フェリシティー。
バートは男らから解放され、腕の縄を解かれた。
バートは無表情で、黙ってベルンハルトとフェリシティーを見ていた。
「お前たち、出ていけ」ベルンハルトが護衛達に命じた。
応接室の扉が閉じられた。
応接室にバート、ベルンハルト、フェリシティーだけになった。
「ごめんなさい!」フェリシティーがバートに謝った。
「バート、申し訳ない。娘が迷惑をかけた。
、、その、久しぶりだな。」ベルンハルト。
バートは黙っていた。
ベルンハルトが握手しようと差し出した手を無視し、いきなりベルンハルトの腹を殴った。
「ウグッ」ベルンハルト。
「お父様!」
膝を付いたベルンハルトをバートが睨みつける。
扉を開けて護衛が入ってきたがベルンハルトが手振りで護衛をあっちいけと示した。護衛が心配そうに部屋を出た。再び扉が閉じられる。
「おまえ、エリンを!サーラがありながら!」
怒りに染まったバートがベルンハルトの胸ぐらをつかみ、ねじ上げた。ベルンハルトを殺しそうな目で睨んでいる。バートがベルンハルトの腹を再び拳で殴った。ベルンハルトが呻いて倒れた。腹を抱え、痛みに耐えている。
「やめてください!バートさん!お父様!」
フェリシティーが泣き出した。
バートがフェリシティーを見て我に返った。
「すまん。ベルンハルト殿下。あんたを殴るのは、レイナルト様だな。だが、あんたは俺の気持ちを知ってたはずだ。どうなってる。サーラと結婚したはずだ。
友達だと思ってたよ。もう二度と顔を見せるな。」
「バート、話を、聞いてくれ。」
「出ていけ」バート。
フェリシティーがすすり泣いている。ベルンハルトのそばに来て抱きついた。
バートがフェリシティーには優しい目をした。
「お父さんを殴ってすまない。しかし、姫ももう来てはいけない。帰ってくれ。」
バートもひどく傷ついた顔をしていた。
「ごめんなさい。エリンさんが私と似てたから。お父様が浮気したと思ったの。私を見て、エリンと言ったバートさんに話を聞きたかったの。私はお父様とエリンさんの子供なんでしょう?」フェリシティー。
ベルンハルトは覚悟を決めた。真実を話す。
「そうだ。フェリシティー。サーラが望んだ。エリンとサーラは親友だ。
サーラが何度も流産して、子供が出来ないから、俺と別れてくれと言い始めた。俺は、子供がいなくても良かった。サーラがいてくれたら良かった。でも、サーラはエリンに頼んだ。エリンと俺の子なら、愛せるからって。黙っててすまなかった。フェリシティー。」ベルンハルト。
フェリシティーが首を振った。
「私が、勝手なことを、したから。ごめんなさい。バートさんも、ごめんなさい。」
フェリシティーがしゃくりあげながら言った。
バートが脱力したように、ソファに座った。無造作に手で頭をグシャグシャにかき混ぜた。
ベルンハルトとフェリシティーもソファに座る。黙って待つ。何を言えばよいか、わからない。
頭を抱え、うつむき、しばらく黙っていたバート。
「殴ってすまない。ベルンハルト殿下。」
うつむいたまま言うバート。
「いや、当然だよ。」ベルンハルト。
ふらつくベルンハルトに、フェリシティーが寄り添う。
「久しぶり、だな。」
バートが顔を上げて言った。無表情だが、眼光がキツイ。
「ああ。」ベルンハルト。
「ベルンハルトとサーラが結婚して、こうして娘を育ててるんだな。エリンも、今、幸せか?」バート。
「うん。昨日、久しぶりに会った。旦那様がエリンにべた惚れだ。子供も生まれたって。幸せそうだった。」ベルンハルトがかすかに微笑んで言う。
「そうか、良かった。」
バートが心底安心した顔をした。バートも微笑んでいる。
「フェリシティー姫、あなたのお母様は二人とも、素敵な人だ。」バートがフェリシティーに言った。
「バート、君は、今でも?」ベルンハルトが問う。
「殿下。サーラが心配しているでしょう。お帰り下さい。会えて良かった。」バート。
「また、来て良いかな?」ベルンハルト。
「いえ。もう学園の生徒ではない。生きる場所は違っていますから。殿下は殿下の人生を」バート。
「そう、か。でも、俺はバートを友達だと思ってる。誰より信頼できる。大切な友達だ。」ベルンハルト。
「ありがとう。ベルンハルト。元気でな。フェリシティー姫も。」
バートが悲しそうに微笑んでいた。
「バートさん。ごめんなさい。会えて、話を聞けて良かったです。ありがとうございました。」フェリシティー。バートは微笑んで頷き、小さく手を降った。
ベルンハルトとフェリシティーが護衛らと店を出た。
馬車の中で、フェリシティーはベルンハルトから昔の話を聞いた。
ベルンハルトは話した。フェリシティーが生まれた頃、サーラとエリンがどんなにフェリシティーを可愛がったか。
そして、エリンは何も言わずにいなくなった事。サーラとベルンハルトが、フェリシティーを愛していること。フェリシティーの幸福を願ってる事。
フェリシティーは黙って話を聞き、ベルンハルトに寄り添った。
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