フェリシティーは行動します
フェリシティーから見て、両親の仲はとても良かった。
政略結婚が多い貴族でありながら、両親は学園で恋愛し結婚した。
大好きな母は、男爵令嬢だった。王子の妻としては身分が低いから、酷く蔑まれていた。
城の女官でさえ、伯爵家の出身だったりする。
それで、つまらない意地悪を母にしてくるのだ。元は平民のくせに、と。
父ベルンハルトは、母サーラを大切にしている。浮気もせず、愛妾も作らない。そう思っていた。
父が自分と母サーラをアリステアの王宮に連れて行かない事や、他の貴族とほとんど交流せず、のんびり過ごさせてくれている事はわかっていた。
アリステアで、フェリシティーの世界は母サーラがいて、父ベルンハルトが外の喧騒から守ってくれている、そこから出る事なく、幸せだった。
フランセーアに訪問して、色々な事があった。
フェリシティーは初めて、女の子の友達が出来た。
フランセーアに移住する事になり、驚いた。
しかし、フェリシティーの世界は母と父だけだったから、国が変わるだけかと思っていた。
フランセーアに来ると、両親は社交界に出るようになった。
王妃や王族の大切な友人であるサーラを蔑む人はフランセーアにいない。母は楽しそうに貴族の女性達と話をしている。
フェリシティーも昼間のお茶会に出た。
そこで、貴族の母と娘、父親と子、親子の顔が似ていることに気がついた。
フェリシティーは父には似ているところがあった。目の色だ。
しかし、母サーラには似ていない。顔立ちは、両親にも親戚にも似ていない。
湖畔の離宮から、突然王宮の精霊の泉の前に放り出された。
不思議な精霊の登場、不思議な話。
けれど、フェリシティーはそこにいた二人の人物に目が釘付けになった。
自分に似ている女の人と、男の人。
女の人は母の友人みたいだった。そして、父ベルンハルトもその女の人を知っていた。
女の人の夫が示した、父ベルンハルトに対しての嫌悪の態度。
二組の夫婦の微妙な戸惑い。
父ベルンハルトがその女性を見る時の瞳。特別な人に向けた視線。あれは、エルドが自分を見る目に似ていた。
直感だった。でも、確信でもあった。
父ベルンハルトは、この女の人が好きだ。私は、この女の人から生まれたんだ。
父は母一筋のふりをして、この女の人と浮気したんだ。お母様のお友達に。
女の人の旦那様は、妻を取られて、父を嫌ってる。父が王族だから、逆らえなかったんだ。
お母様は、きっと我慢して、生まれた私を引き取って育ててくれたんだ。
アリステアでは、知ってる人は知ってることなんだ。それで、お母様と私は屋敷に閉じ籠もってたんだ。
リカルドとシェリーがアリステアに来た時。
フランセーアの王太子と婚約者に挨拶に来たサンフォーク公爵家の3人。
フェリシティーを見て、初めてフェリシティーを見た人々と違う顔をしたのだ。
ギョッとした驚き方だったり、納得した顔だったり、興味深いけど触れてはいけないと、それを隠そうとしていた。フェリシティーを知っているけれど、初対面のように振る舞った。
サンフォーク公爵夫人は、ローラン子爵家の方だと聞いた。
フェリシティーに似た美貌の姉と弟。その弟さんはローラン子爵アーサーと名乗った。
サンフォーク公爵家の3人は、フェリシティーを見て、伯父と伯母に似ていると知っていたのだ。
大好きなお母様と優しいお父様。仲の良い両親。
フェリシティーの世界は足元から崩れた。
浮気して出来た子供を正妻に育てさせた父。
二人とも、私に黙ってた。どっちも酷い。でも、お父様はもっと酷い、最低。お母様を裏切って苦しめて。
お母様が女の人に、「宝物をありがとう」と言った。
きっと、私の事だ。
私は、物じゃない。
私に似た女性の名は「エリン」。
以前、私を見て、その名前を呼んだ人がいた。
お母様は息抜きに実家のランマルド商会のフランセーア支店に行く。
奥の応接室で支店長と話をしているお母様を置いて、フェリシティーは店にいた。
並べてある商品や、カタログを見ていた。
そこに、身なりの良い紳士が来店した。
なんとなく、会話を聞いていた。バート・ラレットと名乗った人は近くに商会を持つ社長さんだった。
店員はその紳士に丁寧に対応していた。お客様ではなく取り引き相手だった。
取引した商品について店員と話していた。
その紳士が、ふとフェリシティーを見た。その途端、驚きで目を見開いた。明らかに狼狽していた。そして、「エリン」と言った。
シェリー達と女の子だけでお泊り会になった。楽しい、けど、頭の中にはあのエリンという女性が浮かんだ。
朝、お手洗いへ行き、付添の侍女の気を失わせ、個室に隠した。令嬢は護身術を学ぶ。役に立った。
洗濯室へ行き、各所へ届けられる城の制服の中から、馬小屋係の少年の衣類を盗んだ。着替えて目立つ髪をまとめて帽子の中に入れた。厨房の外の荷馬車に上がり、空になった木箱に入った。無事に城の外に出れた。
荷馬車が休憩中に木箱から出て、辻馬車で噴水のある中央広場で降りた。
マラドラン男爵家の商会のプロンシアーナ支社がある。ランマルド商会プロンシアーナ支店だ。
お店に入ろうとすると、支店長が開店準備で外にいた。支店長はナタリー・スプリンタと言う30半ばの女性だ。
「おはようございます。スプリンタ支店長。朝早くに申し訳ないです。」フェリシティー。
一瞬、キョトンとしてフェリシティーを見て、ハッとした表情になるスプリンタさん。服装が違うから驚いたようだ。
「まあ!どうなさいましたの?とりあえず中へ。」
フェリシティーは母の秘密の使いで来た、と嘘をついた。
「バート・ラレットさんに伝えなくてはいけない伝言があるの。」フェリシティー。
「バートさん?今、フランセーアにいらっしゃるかしら?まあ、近くだから御一緒しますわ。」スプリンタさん。
支店に鍵をかけ、閉店中の札をかけた。
徒歩で10分ほど行き、小さなお店をノックした。
スプリンタさんがお店の方と話をして、しばらくして奥から一人の男性が姿を表した。あの紳士だ。
「おはようございます。珍しいですね。スプリンタさんか来られるとは。急ぎの御用でしょうか?」男性。
「おはようございます。朝早くにすいません。この子が伝言を伝えなくてはいけないそうです。」スプリンタさん。
「おはようございます、バート・ラレットさん。」フェリシティー。
「!君は。」
バートが目を見張った。フェリシティーを覚えていた。
「ごめんなさい、バートさん。私、開店準備がありまして。御用が済んだらうちの店にこの子を連れてきてもらえませんか?大切な子なんです。」スプリンタさん。
「わかりました。」バート。
スプリンタさんが帰った。
「母からの伝言がありまして、二人きりてお話したいのです。」フェリシティー。
「奥へどうぞ。扉は開けて、話しましょう。店の者はいますが、仕事で忙しいので話を聞かれることはありません。それでよろしいですか?」バート。
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