エリンから見た旅の出来事
「楽しい旅だったはずなんだけと。エリンに何かあったっけ?」セイン。
「逃亡中だったが、あれはあれで、良いものだったな。」ガイル。
「あんた達はね!ハネムーンかってほど、仲良かったわね。」エリン。
「説明してくれる?」怪訝な顔のレイナルト。
エリン達が顔を見合わせた。エリンがため息をついて話し始めた。
ベルンハルトの離宮を出で、マデリーンの女官テレサとコレット、護衛とで、エリンはルドガーの用意した
隠れ家に向かった。3人の女性が馬車に乗っていた。
ルドガーの指定した屋敷に近くなった頃、テレサが気分が悪くなり、馬車を停めて降りた。
王都から遠い、森林の中だ。
息が苦しい、と訴えるテレサは、自分で胸元をはだけた。護衛騎士らが女性達から目を逸らし、そはを離れた。
両側からテレサを支えるため、メイドとエリンが付き添った。
「申し訳ございません。奥様。」テレサは謝った。
「あら、馬車に薬の入った私のバッグがあります。忘れてしまいました。」
テレサが言ったので、メイドが馬車に戻った。
エリンとテレサが二人きりになった時。
ふらついていたはずのテレサが突然、エリンの髪を掴み、エリンの口に濡れたハンカチを押し当てた。
エリンは驚いたが、すぐ反撃し、テレサの顔面を拳で打った。
少しハンカチの液体を吸ってしまったエリンはふらついた。
数名の男らが木陰、茂みから出て来てエリンを羽交い締めにした。
男らとテレサ、エリンが消えた。
それは、メイドが馬車に向かって歩き始めてから、数秒ほどの出来事だった。
テレサと一味は誘拐に成功したと思っていた。
彼らの後ろに付いてきている者に気づくことはなかった。
護衛が気がついた時、馬車を降りたはずの3名が姿を消していた。
幌付きの粗末な荷馬車に乗せられ、エリンは運ばれていた。
身体をモゾモゾ触られ、エリンの意識がボンヤリ戻ってきた。
「さすがに、良い女だ。王族の妾か」
「妾というか、高級娼婦だ。いい身体だな」
男たちの声に、テレサの声がした。
「やめな。報酬が減るよ。一応、私も女なんでね。そういうのは気分が悪くなる。」テレサ。
「お前の胸もいい眺めだったな。お前が触らせてくれるなら、お前でもいいぞ。」男の一人が下卑た笑いを込めて言った。
被せて他の男も笑った。
エリンはうっすら目を開けた。暗い。2名の男とテレサだけのようだ。あとは、御者。
「引き渡す前に、ちょっくら相手してもらおうや。」
「うっ」「ウガッ」「クッ」
男らとテレサが次々うめき声を出した。
御者台から人影が現れた。男らは立とうとしたが、立てずに転がり、這いつくばった。
人影は黙ったまま、男らを蹴り上げた。そして一人ずつ馬車の後方から落とした。
「奥様、御者をしてくれ」人影が言った。
エリンはすぐに御者がいないとさとり、御者台に上がった。
最後に人影はテレサに近寄った。
テレサは床に転がっている。人影がテレサを蹴った。
「答えろ。誰の命令だ?」
「金持ちの変態ジジイだよ。」
ククッと人影が笑った。
「金持ちの変態、王太子だろ?」人影。
「はあ?違うね。」テレサ。
「プロンシアーナの王太子、ブランドンだろ。もうバレてる。無駄だよ。」人影。
「なんのことだか。」
テレサが言い、人影の足にナイフを向けたが、その手を踏みつけられた。もう片方の手で、テレサは攻撃しようとしたが、その手も蹴られた。
人影がテレサから離れた。テレサは素早く起き上がり、両手にナイフを持ち、構えた。
人影とテレサの戦いが始まった。
テレサが御者台に向けてナイフを投げた。人影が気を取られた。御者台にはエリンがいる。
御者台とはホロで区切られている。風ではためいて、時折エリンの背中が見えた。ナイフは運良くホロに刺さり、突き抜けずに落ちた。テレサはほぼ同時に人影にナイフで斬り掛かった。人影はエリンに気を取られ、避けきれずテレサのナイフを腕に受けた。が、テレサに蹴りを入れた。
その後、人影は容赦なくテレサを痛めつけた。口を割らず、エリンを害そうとするテレサに手加減をやめた。テレサは深手を負った。
テレサは人影の放った吹き矢の痺れ薬で動きが鈍かった。
人影はテレサを、馬車から落とした。
その後、テレサの遺体がスラム街で発見されたのは、テレサの仲間の仕業らしい。深手の傷を負ったテレサを運ぶ事は目立つ。捨ておいて捕らわれて喋られても困る。
エリンを助けた人影は、コレットだった。エリン達と一緒に消えたメイドだ。
数日、エリンはコレットといた。
エリンはルドガーの屋敷に行こうとしたが、コレットが止めたのだ。
「コレットから、プロンシアーナのブランドン王太子が私を狙ってるから、身を隠すように言われたの。アリステアにはブランドンの手の者が入り込んでるから、危険だって。」エリン。
「コレットと合流してエリンを預かって、俺達も逃亡中だから、一緒に旅したわけ。」セイン。
行方不明のセインを探す王家からの手配書がまわり、ブランドンの暗殺者からもセインは狙われていた。
ガイルも、ブランドンの暗殺リストに入っていた。
二人が一緒に行動しているとブランドンに報告が行ったらしい。
セインは目立つ。美貌の黒髪の貴公子である。
ガイルも体格がよく、目立つ。
そこに美女のエリンが加わり、更に目立った。
「そうだわ!コレットは無事なの?」エリン。
「無事だよ。安心して。」セイン。
「良かった。」安心した表情になるエリン。
「そうそう、それでね、」とエリンが話を続けた。
役人に不審の目で見られ、何とか逃げた日、エリンは言った。
「私達、目立ってるわ。村人の服を着ても、目立ってる。予想外の変装をしましょう。」
エリンはカツラやメガネをつけたり、商人や旅の行商などになろうと提案したつもりだった。
しかし、セインは、エリンの提案に喜び、はっちゃけた。
長い黒髪を生かし、女裝したのだ。化粧をして口調も変えると、立派なオカマができていた。パッと見は女性だが、二度見すれば男とわかる。
肩幅があり、長身。声も低い。動作、仕草が男だった。
「セーラって呼んでね!」セインは笑顔で言った。
ガイルはそのまま、村人風。ガイと呼ぶことにした。セイン扮するセーラと恋仲の、設定だ。
エリンは町娘風にした。セーラの姉のエリィ設定だ。
女裝男子セーラと、恋人の大男のガイ。セーラの姉エリィの三人組。
セーラとガイは男同士、女同士が夫婦になれるよう、各地の役所や領主に嘆願しに回っている。姉のエリィは親の遺言で二人の付き添い。という設定で。
各地の領主に会い、政権を乗っ取る時に味方になる書類をもらう事を堂々として回ったのだ。変装して。
領主は様々な反応をした。
変態バカップルの嘆願は、門前払いが多かった。
門前払いされたら、王宮のトップクラスの文官の紹介状を出して中に入った。
応接室に入ってから、変装を解き、第2王子と第3王子の服装に着替えた。
領主、地方役人達はセインの確約した文書を受け取り、サインしてくれた。
王子のプライトを捨てた変装。平和を望み公平な政治をする確約書に感激、感涙してくれた。
三人は目立った。すごく目立った。
どこであろうと、女裝男子と大男がイチャイチャバカップルを堂々と披露した。
人々は遠巻きに注目したが、近寄ってこない。目が合うと逸らす。母親が幼い子供を連れてその場を急いで離れる。
役人が不審者として事情聴取すると、セーラとガイ(セインとガイル)は男同士の愛を認めてと力説。役人が怯えて逃げた。
エリンは、これは芝居じゃなく本来の姿だろ、と心の中でつぶやいた。
連れのエリンまで変質者の扱いだった。
旅の始め、宿屋でエリンは別室だった。
しかし、エリンの部屋には様々な者が来た。
寝込みを襲おうと一人や数名で忍び来る男。
金をもらった宿屋が鍵を開けて手引きした時もあった。
人身売買関係の誘拐未遂。
結婚、交際を申し込みに来る者。年齢様々な若者からナイスミドルまで。
風呂、着換えを覗こうとする者。
聖職者。男同士の恋愛は神の怒りにふれる!悔い改めよ!とエリンに言いに来る。あの二人には怖くて言えないらしかった。
善意で「可愛そうだけれど、弟さんの人生とあなたの人生は別なのだから、自由になっていいんだよ。自分の幸せのために生きなさい」と洗脳?を解こうとする人。
結果、3人で1室に寝泊まりするようになった。
しかし、別の意味でエリンは酷い目にあった。
身分を隠して別人に変装した事で箍が外れたらしい恋人二人。
衝立でベッドを隠すが、音や声は丸聞こえだ。
男同士は性欲が強く、体力もありあまり、毎晩長時間愛の行為をいたしてくれた。朝も起きたら始める。
エリンが夜や朝、部屋のお手洗いに行く時、何度もうっかり現場を目に入れてしまった。
安い宿屋は音漏れがする。
三人1室、長時間、あの声がだだ漏れ。
翌朝は宿屋の人、旅人達が恐ろしい物とは目を会わせないように、エリンを含めた三人を避けた。
恥ずかし過ぎる!
「毎日毎晩毎朝はもうやめてー!」
「もうイヤー!頭がおかしくなる!」
「お前らいい加減にしろー!」
「恥じらいを持てー!」
エリンの抗議は聞き入れられなかった。
変態三人が1室で過ごしている、と何度も宿屋を追い出された。
エリンも変態と思われ、言い寄る男が来なくなった。
代わりに本物の変な性癖の男が、来た。
「仲間に入れてくれ!」という変態。
「家族に言えないけど、僕も男の人が好きなんです」相談に来る人。
カップルで相談に来る人。
中には「やり方を教えて下さい!」と言うカップルがいて、セインとガイルが親切に詳しく教えたりした。
それがむさ苦しい大男だったり、美少年だったり、さわやかな若者だったり。
人を見る目が変わってしまったエリン。
普通に見える人々が、実は変態、、、。
毎晩のセインとガイルの愛の行為に、エリンは眠れなくなった。
セインとガイルはたっぷり運動して満足して熟睡。それがまた、腹が立ってエリンは眠れない。
各地を回る三人は烈しく目立った。
三人一室で夜な夜な激しいプレイをする変態三人組として。
変装?してから王家の捜索隊とブランドンからの暗殺者は全く来なかった。
3人のすぐ横で捜索隊が食事してたり、デートする男二人の近くで役人がセインの手配書の似顔絵を持っていたりしても、声を掛けられることはなかった。
こうして無事に各地を回り終えた。
回り終える頃には、エリンは男は皆、ゲイに見えた。
男同士の交わりが幻聴で聞こえた。
眠れない。やっと眠ったら、うっかり見てしまったセインとガイルの交わりを夢に見た。
こうして、エリンは心身が弱り、男を見ると吐くようになっていた。
終わり。
とエリンが話し終えた。
フランセーア王夫妻。王太后。
ベルンハルトとサーラ、アーサー。
レイナルト。
全員沈黙。固まっている。
セインとガイルは
「懐かしい話だ」セイン。
「10年前だな。若かったな。お前の女裝、可愛かった。さっきのメイド姿も可愛いかった。お前は何を着ててもカワイイ。存在が奇跡だ。」ガイル。
「ガイル、そういうのは二人きりの時に。あの頃は各地を巡って、私達の蜜月だったな。辛いこともあったが、忘れがたい。」
「思い出すなあ。若かった。立場的には一番辛くはあったが、人生で心身が一番幸福な時だった。長年恋していた人と想いが通じたのだから。」ガイルがセインの手を取り見つめる。
「俺もそうだったよ。」セインもガイルを見て、頬を染める。
何年経とうと、二人はイチャイチャしていた。
エリンは二人のイチャつきに慣れているので、普通にセインに話しかけた。
「あの頃より、さっきのセインは女っぽくメイド姿が板についていたわね。女性にしか見えなかったわ。」エリン。
「メイクの腕を上げたから!あとは、仕草や声、話し方もレクチャー受けたの。パラダイスのお姉さん達に。下着とかで、身体を補正したり、ね。私、美人になったでしょ?」
「うん。キレイだよ。良かったね。セイン。幸せそうでなによりだわ。」エリン。
「エリンこそ、幸せそうで良かった。これでも、本当に心配してたんだから。親友のつもりなんだからね。」セインが女性言葉になっている。
「心配してくれてありがとう。キツイこと言ってごめん。思い出したばかりで。混乱してた。楽しい事も、うん、あったね。
二人とも私に気を使わなさすぎて、最後のほうがえげつなかったから。」エリン。
「現場を見せすぎて、ごめんなさい。ガイルと二人きりの旅で、恋人になりたてだったから、我慢できなくて。旅の間だけ、恋人でいようって、約束だったから。」セイン。
「そうだった。悪かった。人に見せたり聞かせたりするものではないな。空気だと思ってた。」ガイル。
「私の存在を忘れてるのは、わかってました。」げんなりしてエリンが言った。
ガイルとセインは、互いに想い合いながら、長い間、片思い状態。逃亡中に想いを告げ、恋人になったばかり。そして、クーデターを起こすからには、旅が終われば真面目な王子に戻ると約束していた。
エリンを伴っての旅は、二人は「ただの恋人」になれた貴重な日々だった。
お読みいただきありがとうございます。




