何を思い出したのですか?
「希望に添えるよう手配しますわ。」王妃。
「何を要求するかと思えば、教育や医療とは。
喜んで協力しましょう。」王太后。
「ローラン子爵領とクロフォード伯爵領の学生の受け入れは可能です。こちらからの教師と医師の派遣は時間がかかるが、可能です。前向きに対応します。」王。
アーサーとレイナルトは黙って聞いていた。
「さて、善は急げです。万能薬を飲んでもらいます」王太后。
「ベルンハルト殿下はお出かけなのでは?」アーサー。
「昨日、お祈りしてもらって、大樹の葉はここにあります。精霊の泉の水もここに。」
王がハンカチに包んだ葉と瓶に詰めた水出した。
隣の王妃がすり鉢とスリコギを出した。
その様子にエリンは笑った。
「用意がよろしいのですね。」
「そうですね。用意はしておりましたの。」
王妃が葉をすりつぶし、カップに入れて水を注いだ。
ベルンハルトとエリンを会わせないように配慮したのだろう。レイナルトとベルンハルトが顔を合わせるのも良くない。
エリンはおとなしく、その液体を一口のんだ。
「マズイです。」
しかし、次には一気に飲み干した。
ふう、と口元にハンカチを当てるエリン。
そして、しばらく目を閉じるエリン。
エリンを見守る一同。
万能薬はエリンに効くのだろうか。
体をビクリ、とさせ、両手で頭を押さえるエリン。
「エリン、大丈夫?」エリンの隣でレイナルトが寄り添う。
「あ、一気に、色んな、ことが、戻ってきてます。あっ。うーん。そっかーー。」エリンがつぶやいた。
エリンは目を瞑り、記憶を受け入れているようだった。しばらく、エリンはそうしていた。
時折エリンはビクリ、と身体を震わせた。レイナルトがエリンを心配そうに見る。
次第にエリンは涙を流し始めた。身体を震わせて嗚咽した。
「エリン」レイナルトがエリンを抱き寄せた。
「ごめんなさい。色々な事が、あったんです。大丈夫です。昔の自分の感情が、どんどん来て、飲み込むのが、間に合わなくて。」
皆がエリンを見守り、黙っていた。
エリンはそのままレイナルトに抱きしめられていた。
しばらくして、エリンはレイナルトからそっと離れた。
「レイナルト様。思い、出しました。申し訳ない事を、しました。他にも、たくさん、傷つけました。」
エリンがレイナルトに言った。
「大丈夫だよ。エリンこそ、大変だったろう?
僕は、またエリンが僕と結婚してくれて、今が1番幸せだから、謝らないで。」レイナルト。
エリンとレイナルトが手を取り合い見つめ合った。
二人共、目がウルウルしていた。周りに人がいると忘れている。
「あー、そこまででお願いします。
どうですか?姉上。プロンシアーナでの事は、思い出しましたか?」アーサーが聞いた。
「ええ、今、来てます。少しずつ、思い出しました。」エリンが言った。
精霊の泉の水と葉を飲み、1時間ほど経っていた。
そこに、慌ただしく扉を叩く音がした。
「大変です!王太子様達が!急報が来ました!」
「入りなさい」王太后。
使者が慌てている。
「申し上げます!湖畔の離宮に行かれた王太子様方とベルンハルトご夫妻が湖に落ちて行方不明との事です!」
「なんですって!?」
王妃が立ち上がり、フラリと倒れかけた。皆が立ち上がった。
「ローズ様が落ちて、フェリシティー姫が助けようと落ちて、その後次々と。そして不思議な事に落ちた方々を湖が渦を巻き飲み込み、吸い込まれた様に消えた、と。」使者。
「すぐ、湖畔の離宮へ参ります」王妃。
エリンもフェリシティーの名を聞いて動揺した。
もう一人、慌ててメイドが部屋に飛び込んできた。
「精霊の大樹が!おかしいです!城で騒ぎになっております」
フランセーア王たち、アーサー達も冷静ではいられない。
「私達にも精霊の大樹を見せてください。」アーサーが言った。
王妃が真っ青だった。王妃を支えながら王も顔色が悪い。
「いったい何が起こっているのだ」皆が困惑していた。
王夫妻、王太后、エリン、レイナルト、アーサーが王宮の広い中庭に向かった。
中庭に着き、遠目にその光景を目にしながら、大樹の方へ近寄った。
風がないのに大樹の枝が揺れ、大量の葉が大樹を中心に渦巻いていた。ゴウゴウと音を立てている。
「なんだ、これは!」王。
異様な光景を使用人らも、ざわめきながら遠巻きに眺めていた。
大樹の渦巻きからヒュッと旋風がいくつか現れた。
それらが王夫妻、王太后、エリンとレイナルト、アーサー、メイド1名と護衛1名を包み、大樹の渦巻きに取り込んだ。
ぽいっと大樹の渦巻きの内部に放り込まれた8名。
尻もちをついていたり、四つん這いだったり、立ってる者はいない。どうなっているんだ?皆が呆然とした。
大樹を中心に、10メートル程の中に8名がいる。大樹のそばは、風がない。中から見れば、外が見えないし、静かだ。
突然エリンが叫んだ。
「なんであんた達がここにいるのよ!」
メイドと護衛を見て叫んだエリン。直後に吐きそうになり、エリンはえづいた。「オエェ」
エリンの背を撫でるレイナルト。
「ホントに思い出すんだ!万能薬なんだなあ。」キレイなメイドだが、声が低い。
「忘れたり思い出したり、便利だな。」護衛。
「あんた達、誰?」アーサーが聞いた。
「俺たち、エリンの友達!」メイド。
「半年ほど寝食を共にした仲だ」護衛。
メイドは女裝男子らしい。
女にしては長身、男なら細身。黒髪のキレイな顔だ。
護衛はガッシリ大柄。
「友達じゃない!仲間扱いやめて!
せっかく忘れてたのに!また、報酬につられて、私のバカバカバカ!」エリンが叫んだ。
「お前たち、エリンに何をした?プロンシアーナの者か?」レイナルト。
「だから、エリンの友達。約束を果たしたよって、会いに来たの。」メイド男子。
「敵ではない。」護衛。
「もしかして、プロンシアーナ王セイン?」アーサー。
「あたりー!スゴイなー、キミ。」メイド男子。
皆が護衛を見た。
「何をしに来た?いや、お前たちが精霊の大樹に何かしたのか?!」
王が驚き睨みながら護衛姿の男に言った。背に王妃と王太后をかばっている。
「ちがーう!王は俺でーす。セイン・プロンシアーナです。よろしくお願いしまーす!」
女裝男子が軽く頭を下げたあと、可愛らしく手をあわせて頬の横に斜めに置き、品を作ってポーズを決めた。
シーンと静まった。
皆、ポカンとし、信じられないとばかりに、メイド男子を見た。誰も言葉が出ない。
「ふざけるな。プロンシアーナ王が女裝してこんなとこにいるわけ無いだろ。」
ようやく、レイナルトが言った。
「いえ、レイナルト様。こいつ、プロンシアーナ王セインです。」エリン。
「こいつ、って。ヒッドーイ!親友のつもりなのに。
エリン。久しぶり!
俺たち頑張ったんだよー。ほ・め・て♡
エルンストがさ、こないだここに来たじゃん?
ビクビクされちゃって、お友達になれなかった、って言ってたからー。
仲良くなろうと思って、来ちゃった♡」
「本当にプロンシアーナ王、なのか?」王。
「そうでーす。怖い顔しないで、ね?」セイン。
「何をしに来た?」レイナルト。
「ご挨拶?エリンがここに来るって聞いたから。会えるかな?って。
精霊の泉と大樹の不思議も見たくって。
ほら、私達も精霊に呼ばれたみたい。」セイン。
大樹の渦巻きの中は凪いでいる。静かだ。
突然、泉がボコボコ音を出して噴水の様に水柱が立った。
下段の泉が揺れた。大きな渦が突然出来て、泉にポンポンと子供たちが現れた。
ローズ、フェリシティー、エルド、リカルド、シェリー、オルガ、ジェフリー、シモン。
ベルンハルトとサーラも呆然と泉から現れた。浮いていて、突き飛ばされるように地面に押し出された。
泉から現れたのに、皆が濡れていない。
王妃がエルドとリカルドに駆け寄った。泣きながら抱きしめた。
「良かった!無事だわ!エルド!リカルド!」
「なんだ?どうなっている?」
驚きと喜び、安心しながら子供たちとベルンハルトを見る王。
「泉の精霊が助けてくれたの」フェリシティー。
「いや、泉の精霊に連れ去られて、ここに?」リカルド。
水柱が立つ泉から掌に乗る位の大きさの子供、全体的に白っぽく光って見える、周りを虹色にキラキラ光らせながら飛ぶ、妖精が現れた。
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