そろそろ始めましょう
「座って話しましょう。」
王太后が人払いし、3人でテーブルを囲む。
「クロフォード伯爵夫人、あなたの無くした記憶に聞きたい用事ができたの。精霊の泉の水と大樹の葉は万病に効くと言われています。それを飲んで思い出していただきたいのよ。」王太后。
エリンはレイナルトを見た。
「レイナルト様も、ですか?」
「僕は思い出さなくて良いと思ってる。」
「私は10年ほど前に記憶を無くしています。
アーサーが迎えに来て、アーサーは弟です、王太后様。それからローラン子爵家で暮らし始めました。
皆が優しいけれど、何かを隠してますよね。
思い出せないのです。幸せでしたし、やるべきことをしていたから、思い出せなくても諦めてました。
この違和感を無くせるなら、思い出せるなら、思い出したい。
でも、おかしいではありませんか?
ただの貧乏子爵家の私の記憶をフランセーアが必要とは。
私とフランセーアに何の関わりがあるのですか?」
エリンが王太后を問い続ける。
そこににアーサーが現れた。
アーサーはクロフォード伯爵の侍従扱いでフランセーアについて来た。
「お待ち下さい。姉上、急ぎすぎです。
王太后様、招かれもしていませんのに王宮に上がりました事、深くお詫び申し上げます。
私はローラン子爵、アーサーと申します。ここにいる
エリンの弟です。」
「本当に無礼だこと。3対1になってしまったわ。」
「申し訳ない。しかし、エリンを止めなければと思いまして。
ベルンハルト殿下は今どちらですか?」
「子供たちと湖畔の離宮にいます。」王太后。
「エリンと会わせるのはまずいから、ですね。エリンをこの王宮の人々に見せたくないから、人の少ない王太后宮に滞在させていますね。」アーサー。
「そうですよ。エリンさんはこの会話がわからないでしょうから、順に聞いた話をお聞かせしましょう。
その前に、陛下と王妃をこちらへ呼んで頂戴。よろしいでしょう?」王太后。
二人を待つ間、王太后とエリンは話を弾ませていた。
「王太后様はハッキリしたお方ですわね。さすが、フランセーアを50年平和に治めて来られた方ですわ。判断が早いです。」エリン。
「夫が頼りなくてね。子供がいましたから、夫の失踪後も王子の立場を守るために、王宮で政務をし続けました。実家に泣きついて、戻るなどしても、厄介者でしょう?バカにしてくる貴族たちに、負けるもんかと頑張ったのよ。悔しいじゃない。」王太后。
「苦労したから、強くなったんですのね。いいえ、強くならねばならなかった。けなげですわ。」エリン。
「そうなのよ。20歳そこそこの小娘が、オッサン宰相と渡り合うのよ。まあ、結局、味方につけてこっちの言うように動かしましたけどね。」王太后。
「王太后様の努力のおかげでフランセーアは女性の地位が高いです。素晴らしいですわ。アリステアは男社会です。見習わなくてはと考えていたのです。」エリン。
アーサーとレイナルトは黙って待っていた。
フランセーア王と王妃が到着すると、簡単に挨拶をすませ、本題に入った。
「思い出せない記憶の話をされても不安だと思ったのですよ。姉上。いえ、思い出してはいけない記憶なのだろうと考えました。あの頃の話を始めます。」
アーサーが言い、長い話ですよ、と言いおいた。
アーサーがローラン前子爵の借金の話から始めた。
王太后は初耳だった。「まあ!なんてこと!」と驚いて興味深く聞いていた。
エリンが行方不明になった所まで話した。
「ここまでが俺の知っでる話で、後はアリステア王家から聞いた話だ。」
アーサーかマデリーンや王太子から聞いた話をした。
レイナルトは不機嫌そうに黙っていた。
エリンは驚いて聞いていた。
そして、アリステアも把握していない行方不明の話をした。
一年前のプロンシアーナ王太子の伝言を話した。
「私が、10年前に赤ちゃんを産んでいたんですか。なるほど。凄まじい人生ですね。
で、約束を守り、記憶を失っている私に、今度はそっちの都合で思い出せ、と?」エリン。
フランセーア側が無表情に顔を見合わせた。
この女性は駆け引きしようとしているのか?
「協力していただきたい。」フランセーア王。
「私は平和に暮らしたいですから、協力しなくもないのですが。」エリン。
「プロンシアーナと何かあったのか、ですね。
忘れてますから、自分でもわかりません。有用な事柄では無いかもしれませんよ。責任は持てません。
それでも良いですか?」
フランセーア側は、見かけと中身が違うエリンの物言いに驚いていた。
「あなたが有用な事を覚えていなくとも、あなたに責任は問いません」王太后。
「人の記憶を消したり、戻そうとしたり、アリステアもフランセーアも、勝手ですよね。
で、それに協力する私に見返りを用意してもらえますか?」エリン。
フランセーアの王太后、王と王妃は困った顔をした。
「エリン、失礼だ。」レイナルト。
「失礼は承知ですわ。元々が失礼な話ですもの。
レイナルト様は良かったのですか?私、他の方の子供を産んでいたそうですよ。
で、せっかく忘れているのに、忘れさせたくせに、またそちらの都合で思い出せって。」エリン。
「思い出さなくていい。今のままで僕は幸せだから。
しかし、国の言う事に逆らう力がない。情けないよね。」レイナルト。
「フランセーア王、王妃様、王太后様、私は自分が何を知っているか、知らないのかも、わからない。
思い出したとして、その記憶が今の私にとって、良いのか悪いのかわからないのです。
私を、レイナルト様を、守ってくださるのでしょうか?都合の悪い記憶なら、私達ごと消す権力があなた方にはお有りです。
国のためになら、私などちっぽけな存在です。
フランセーアが私達の味方であるなら、ご協力いたします。」エリン。
「フランセーアは君達を害そうなど考えていない。
なぜなら、あなたが産んだ子はフランセーアにとって大切な人です。
そのご生母は我等にも大切な方だ。」王。
「エリンさん、信じてください。あなたの産んだ姫はあなたに似ています。私の息子が、第2王子ですが、姫を好いています。私達も姫がフランセーア王家に嫁ぐことを望んでいます。あなたは、この国にとって大切な方です。」
王妃がエリンを見つめながらゆっくり述べた。
「わかりましたわ。王妃様。信じます。
あと、協力するのですから、こちらの希望を飲んでいただきたいですわ。」エリン。
「聞くのが怖いな、しかし、叶えることができる望みなら、叶えよう。」王。
「私の生家、ローラン子爵領と、クロフォード伯爵領の学生をフランセーアで学ばせたいのです。
毎年10名ほど。学費はフランセーア持ちで、住む所なども用意していただきたいのです。特に、女子教育を。
それと、フランセーアの教師を我らの領地の学校に派遣して下さい。
あと、医者を数名こちらに派遣して欲しいです。」
エリンの要求にフランセーアは王らは拍子抜けしたように笑いだした。
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