アリステアで王族会議しました
ベルンハルト一家の移住準備はほとんど終えており、新王夫妻がフランセーアから帰国の後、しばらくして出立予定だった。
兄王ルドガーに呼ばれ、王宮に来たベルンハルト。
王族の使う応接室に入り、意外な人物に驚いた。
父の前王と兄王、義姉のマデリーン、そしてローラン子爵アーサーがいた。
ベルンハルトは、アーサーを卒業の間近に学園で見た事がある。
エリンの弟らしく、エリンに似た美貌の少年。成績も突出して良いと聞いた。
その後、父子爵が起こした借金騒動の後、アーサーの領地改革でローラン子爵家が再興したと聞いている。
ローラン子爵アーサーはベルンハルトが入室すると、挨拶を交わした。
マデリーンがアーサーを実兄の妻アリシアの兄と紹介する。
義姉の姻戚として、少し会話をしたベルンハルト。
アーサーもアリステア王国の王等に呼ばれた真意を測りかねているようだった。
しきりに恐縮している。
が、そういう風を装い、王族を観察しているアーサーだった。
人払いを確認し、内輪の話をしたいので、と小さいテーブルに移動し、5人が丸テーブルを囲んで椅子に座った。隣と30センチから50センチほどの距離となった。
マデリーンが話始めた。
「これからする話は辛い話です。お怒りや驚きがあるはずです。でも声を小さくしてください。」
「アーサー様はご存知かも知れませんね。兄の息子たちにフェリシティーがエリンと似ていても口に出してはいけない、と教えたと聞きました。
フェリシティーを産んだのはエリンです。」マデリーン。
「姉上、なぜその話を今?」突然の告白にベルンハルトがたじろいだ。
「理由があるの。疑問はあるだろうけど、黙って聞いてほしいの」マデリーン。
マデリーンはエリンがローラン子爵家の借金から始まった結婚をし、そのためにレイナルトが苦労していた事から話始めた。
エリンに頼まれ、ベルンハルトの離宮にエリンを連れていく手筈を整えたこと。
無事にフェリシティーを出産後、エリンが離宮を出る時に起こった誘拐、行方不明の事。
アーサーとベルンハルトが息を呑んだ。
テレサという女官の死と垣間見えたプロンシアーナの影。
この話を聞いたベルンハルトは明らかに動揺し、顔が蒼くなった。
アーサーも驚いていた。
王家に保護されていたと思っていたのだ。
その後、エリンが発見され、何も話したくないと言い、忘却薬を飲んだ事。
ベルンハルトは表情が隠せず苦しそうにしているのが傍目にわかる。
エリンが誘拐されたのは、王家の秘密に関わったせいだろうか。ベルンハルトの子供を産んだせいだろうか。
そして、フランセーアでのプロンシアーナ王太子、エルンストの伝言。
マデリーンが話し終えたあと、部屋は静まり返り誰も口を開かない。
アーサーは話を聞きながら、考えていた。憶測しか浮かばない。
エリンの身に起こったことはエリンにしかわからない。
王が口を開いた。
「プロンシアーナは軍の縮小の条約を結びに使者を寄越すと言った。なら、それを待とう。
使者の出方を見てみるしかなかろう。」
「プロンシアーナの出方を見てから、フランセーアへ移住します。」ベルンハルト。
「いや、予定通りフランセーアへ行ってくれ。
フェリシティーの出生の秘密を、フランセーア王家に話してはどうだ?我らがフランセーアとの約束を守ろうとしたことを信じてもらおう。アリステアはフランセーアに何ら隠すことはない。」王ルドガー。
「それがよろしいかと。」アーサーが同意した。
「アリステアの秘密をフランセーアの秘密にするのです。フランセーアの王族が欲しがっているフェリシティーです。
民衆から愛される精霊姫。
フェリシティー姫の名誉を傷をつけることは、フランセーアにとって大切な姫に対する侮辱、としてもらいましょう。
ベルンハルト殿下にはフランセーアに行き、しっかりと親交を結んでいてください。ご親族ですから大丈夫です」
アーサーをその場の皆が見た。
「セイン王とエリンに何があったか、エリンに聞くしかありませんね」アーサー。
「エリンは俺のことを忘れていたのか。」ベルンハルト。
ベルンハルトに向き、アーサーが問うた。
「忘れられていたことがショックですか?」
「そりゃ、そうだよ。俺は忘れられないのに。」複雑そうな顔のベルンハルト。
「エリンのせいじゃないわ」マデリーン。
「そうです。エリンのせいではないですが、エリンは忘れています。セイン王は忘れていないのに。セイン王はエリンに、覚えていることを願っているようです。忘れたとなればお怒りになるでしょうね。約束して、自分は果たしているのに。
せっかく平和を目指してくれているのに、機嫌を損ねたくないです。良い条約を結びたい。
セイン王がどう出るのか、何があったのか、私達にはわかりません。」アーサー。
「エリンが記憶を無くしたとセイン王に言うのか?信じるか?」ルドガー王。
「嘘を付いていると思うでしょうね。そんなに都合よく記憶をなくすなど、無いですよ。
エリンが思い出して助言してくれたら、一番いい」
アーサーが一同を見渡す。
「でも、エリンは忘却薬を欲しがった。思い出したくないのに。無理よ」マデリーン。
「エリンには辛いことです。姉ですから、幸せでいて欲しい。しかし、プロンシアーナ王の考えがわからない。エリンに接触してくるかも知れない。アリステアや、他の国々の平和のために、エリンには思い出してもらいましょう」
きっぱり言うアーサー。
「エリンは今、どうしてる?幸せなのか?」
ベルンハルトは心配そうに言った。
「ええ。幸せそうです。」アーサー。
「アーサー殿、あなたはエリンが記憶を取り戻すのが出来そうだとあてがあるのか?」前王。
「はい。」皆が息を呑み、アーサーを見つめた。
「精霊の泉の水と大樹の葉は万病に効くとか。」アーサー。
「しかし、フランセーアの王族とその伴侶や子にしか効き目がない、と。エリンはアリステアの人間だ」ルドガー王。
「ベルンハルト殿下は祝福を受けた、と聞きました。エリンはベルンハルト殿下の伴侶、となりませんかね。それに、精霊の祝福を普通ではないほど受けた、フェリシティーの生母です。
私は精霊の泉の不思議さはわかりかねますが、効くと思いますね。やって見る価値は十分ある。」アーサー。
男達は希望を得た顔になった。
しかし、マデリーンはエリンに記憶を戻させたくなかった。
エリンは強い賢い女性だ。
そのエリンが記憶を消したいと願った。
マデリーンに「忘却薬をのませて。約束だったでしょう?」と言ったエリンの辛そうな表情が浮かぶ。
しかし、とアーサーが続けた。
「すぐには無理です。エリンは今、身ごもっていますから。」
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