民衆の熱望を感じました
民衆は幼い精霊姫に歓喜してます。
翌日はフランセーア王都の表敬訪問の日だった。
まず、ベルンハルトの祖父に当たる前王の墓所に行く。慈悲王ナムール。
ベルンハルトは幼い頃に会い、可愛がってもらった記憶がある。
優しい人だった。自己主張せず、どちらかというと、無口。聞き手にまわり、穏やかに話す姿を思い出す。前王はベルンハルトの母ラミーナの面影をベルンハルトを通して見ていたのだろう。
ラミーナはアリステア王国に嫁いでから、1度もフランセーアに戻らなかった。
ベルンハルトが花を供える。
「お祖父様、妻のサーラと娘のフェリシティーです。」
サーラとフェリシティーも花を供えて挨拶と祈りを捧げる。
市の名所、各所に表敬訪問する。
慈悲王、ナムールの建てた病院、学校、裁判所、孤児院、母子保護施設。
順にまわったが、どこへ行っても人々が崇拝の眼差しでフェリシティーを見る。
「精霊姫様!」
「フェリシティー姫様!」
とあちこちで歓声があがる。
ベルンハルトも精霊姫ラミーナの子であり、精霊姫フェリシティーの父であり、本人も祝福を受けたと知れ渡っているので、崇拝の目で見られる。
サーラも精霊姫の母として、憧れの眼差しを向けられる。
どこへ行っても、精霊姫様と歓声が沸き立ち、民衆の熱を感じた。
それらは、フェリシティーがフランセーアに豊穣をもたらすと信じられているからだ。フェリシティーがフランセーアに留まることを望む、民衆の願い、思いだ。
ベルンハルトとサーラはにこやかに民衆に手を振る。
フェリシティーは民衆を見るたび、サーラにしがみついた。サーラに抱っこをせがみ、サーラの胸に顔を埋める。
その様子に、民衆は「まだお小さい姫様だから。」「お可愛らしい」「恥ずかしがりやの奥ゆかしい姫様」と少しがっかりしながら、それでも拍手と歓声が絶え間なく降り注ぐ。
離宮に帰ったベルンハルト一家はぐったりしていた。
疲れた。
笑顔を保った顔の筋肉がひきつっている。
夕食をとり、湯浴み後。
すぐさまベッドに沈みたいのに、今夜もテーブルに「あの絵」が積まれている。
裏にサインと日付と○○へとの指示が一枚ずつ付いている。
黙々とベルンハルトとサーラがペンを走らせる。
「どんだけあるんだ?」ベルンハルト。
「ごめんなさい。」
まさかこんなオチがあるとは思ってなかったサーラ。
この絵を出されるたび、思い出す学園時代のエリンの笑顔。フェリシティーを産んでくれた女性。
ベルンハルトもサーラも、その人の名を出さないで会話している。
毎日の日課となったサインを終える。
メイドのマリンと執事が絵を運び出し、ティーセットを並べた。
サーラがベルンハルトに話し掛けた。
「フェリシティーへの期待がスゴイですね。帰国できるかしら?」
「うん。一度は帰国しよう。王太后が言ったから大丈夫だよ。
民衆は国の約定があるから、フェリシティーがこの国の王子と結婚してずっとこの国にいるって思ってるんだ。」ベルンハルト。
フェリシティーが王子らに仕出かしたことは知られていない。
王宮からは何も言って来ない。
「民衆はフェリシティーがこの国にいれば納得する。俺は一度帰国して、王位継承権を放棄するよ。家族で移住しよう。サーラは嫌かな?」
「私はフェリシティーとベルンハルト様がいてくれたら、どこでも大丈夫です。ベルンハルト様こそ、良いんですか?」
「俺もサーラとフェリシティーと一緒に暮らせたら、住むところはどこでも良いよ。
アリステアに帰って、父上と兄上と話し合うよ。」
ベルンハルトもサーラも、アリステアで過ごしながら危惧していたことがある。
フェリシティーが生母に似た面差しとなってきたことだ。
フェリシティーはまだ幼く、王宮にもほとんど連れて行っていない。邸からあまりだしていない。
しかし、このままエリンにそっくりな少女になれば、エリンを知る人ならば疑問を抱くかも知れなかった。
国との約定を守り、平穏に家族で共に過ごせる。
フランセーアに移り住もう、ベルンハルトは決めたのだった。
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