娘は意志の強い子でした
王太后の曾孫とフェリシティーが会いました。
翌日の昼下り、3台の馬車が離宮にやって来た。
王太子の息子2人、王太子弟の兄妹、王弟の孫3人。
子供たちはサロンに通された。
子供が7人いるのに、静かにして誰も口を開かない。
ベルンハルトとサーラに連れられ、フェリシティーがサロンに入る。
年長のリカルドが前に進み出て挨拶した。
「フェリシティー姫にお目にかかれて光栄です。フランセーアにようこそ。
王太子の長男、リカルドと申します。お見知りおき下さい。こちらは弟のエルド、従兄弟のシモン、ローズです。又従兄弟のジェフリー、シェリー、オルガです。
今日は仲良くお話していただけるとと嬉しいです。」
フェリシティーも挨拶した。
「フェリシティー・アリステアです。よろしくお願いします。」
サロンで茶会をする。
フェリシティーが言葉が少ない。無表情だ。
女の子の年長のシェリーがフェリシティーに話しかける。
「アリステア王国のドレスは可愛らしいですね。とてもお似合いです。フェリシティー様はキレイな金髪ですね。羨ましいです。学園は何歳から入学ですの?いつか留学してみたいと考えてますの。」
フェリシティーがあまり話さないので、かわりにサーラが答える。
「シェリー様のドレスこそステキです。シェリー様の御髪もつややかですわ。学園は12歳から5年ほど通います。留学に来てくださると嬉しいです。」
年長のリカルドとシェリーが話題を振り、たどたどしい茶会が進んだ。
紅茶を飲み終わると、リカルドが庭に出ましょうと誘った。
子供たちがゾロゾロ出て行く。数名のメイドもついて行った。
部屋に残ったベルンハルトとサーラ。
茶器を下げるメイドたち。
ごちそうさま、と声をかけるサーラ。
二人だけになって、ベルンハルトとサーラが話し出す。
「フェリシティー、なんだか様子がおかしかったと思わない?」サーラ。
「そうだね。妙に大人しかった。フェリシティーらしくない。緊張?しないよね。フェリシティーは。」ベルンハルト。
「なにかしら?あんなに表情が無いなんて。話さないし。不機嫌?いえ。怒ってるのかしら?フェリシティーにしては、静かすぎるわ」
顔を見合わせるベルンハルトとサーラ。
「庭に行ってみましょうか」
部屋を出で、庭へ出る通路へ向かう二人。
庭から悲鳴が聞こえた。
走り出すベルンハルトとサーラ。
庭に出るとリカルドとジェフリーが女の子たちを守るように背に隠していた。
シモンは体から何かをはたき落とそうと賢明に体中をまさぐっている。涙目だ。
シェリーは失神したオルガの頭を膝に乗せて呆然としている。顔面蒼白だ。
ローズは声を上げて泣いていた。
フェリシティーとエルドが地面から何かを拾ってお互いに投げあっている。
メイドは、怯えている。
護衛騎士が駆けつけてきた。しかし、事態が呑み込めず、眺めているだけだ。
フェリシティーとエルドは罵り合っている。
「国に帰れ!もう二度と来るな!」
「頼まれたって来るもんか!今すぐ帰りたいわ!」
「お前なんか大嫌いだ!」
「私もあんたなんか大嫌いよ!」
「頭おかしい!クソ女!ブズ!平民出のくせに!
こんなもの投げつけるクソ女なんかと結婚しねえ!」
「やったあ!その言葉覚えてなさいよ!私だって、あんたとなんか、絶対に結婚しないんだから!」
二人が投げあっているのは、カエル、ヤモリ、ミミズ、ヘビ、ダンゴムシ、などの昆虫や爬虫類だ。
シモンはとうとう上着とシャツを脱いで、身体に付いた虫を振り払っている。泣き顔だ。
大人たちはしばしポカンとしたが、背後からフェリシティーとエルドを捕獲した。多少爬虫類と昆虫が身体に当たったが。
「やめなさい!なんてことをしてるの!」
サーラがフェリシティーに怒る。
フェリシティーがサーラとベルンハルトに向かって言った。叫んだ。
「私はお母様とお父様とずっと一緒にいるの!フランセーアになんか、住まないの!結婚は、自分で決めた人とするの!」
ウワーンと泣いてサーラに抱きついた。
誰も言葉が出なかった。
先程まで怒りの形相のエルドも毒気が抜かれたように、ヘビを握りしめて動かない。
フェリシティーの鳴き声だけが庭に響いた。
失神したオルガを邸に運び、ベッドに寝かせる。
子供たちを拭いたり着替えさせたり。
ローズは兄のシモンにくっついて離れない。怯えている。
フェリシティーは別室で怒られていた。
フェリシティーが言うには。
庭園で始めはリカルドがフェリシティーと話していたが、エルドが会話に入ってきた。
そして、フェリシティーにヘンテコなプロポーズをしたそうだ。
「兄上には幸せになって欲しいから、俺が犠牲になる。神聖な精霊の泉に頭を突っ込むような女だが、我慢してやる。お前の結婚相手になってやろう。」
フェリシティーが激怒。
そして、あの騒ぎだ。
皆が落ち着いた様子になったので、7人の子供たちは帰ることになった。
エルドか馬車に乗ろうとした時、フェリシティーがエルドに駆け寄り、微笑んでエルドの手を取った。
「さっきはごめんなさい」
可愛らしいフェリシティーの微笑みに、エルドは油断してフェリシティーに逆らわなかった。
「ああ、俺も」謝ろうと言いかけたエルド。
フェリシティーはエルドの手の中にカエルを押し込んだ。
「ウワッ。」
エルドか驚いてのけぞり、尻もちをついた。
「平民出のクソ女ですから。」ニヤリと笑うフェリシティー。
「カエルだけ怖そうにしてたから、やっぱりね!苦手なんでしょう!」
フェリシティーがしてやったと勝利の笑みを浮かべている。
「この、シネ!クソ女!」
エルドが顔を真っ赤にしてフェリシティーにカエルを投げつける。フェリシティーはカエルをキャッチしてエルドの顔に押し付けた。
エルド、カエルを振り払うがもう涙目で言葉が出ない。負けた。
「フェリシティー!!」
両親の声に怒られる気配を感じ、フェリシティーは逃げ出した。
リカルドが笑いながら、ベルンハルトとサーラに言う。
「元気の良い姫君ですね。エルドもかなり非礼を働きましたから、気にしないで下さい。忘れられない思い出になりました。」
他の子供たちは無言だ。フェリシティーが怖い。にらまれたくない。攻撃されたくない。
王太后の曾孫たちが帰って行った。
ベルンハルトとサーラは、庭に声をかける。フェリシティーがどこかに隠れているはずだ。
「フェリシティー!帰っておいで!怒らないから!」
「暗くなるから、帰っておいで。」
しん、としている。
「そっとしとこう。」ベルンハルト。
庭から声がした。
「アイツだけは、謝らないから!
平民出って言ったもん!
お母様の悪口だもん!許さないもん!」
アリステアでサーラが「平民妃」と呼ばれ、平民出だと悪口を言われていると、フェリシティーは知っていた。
サーラがベルンハルトを見た。ベルンハルトが頷く。
「怒らないから出ておいて。暗くなるから心配なの。大好きよ、フェリシティー」
大きい声で庭に向けて言う。
ガサガサ音がして葉っぱだらけのフェリシティーがサーラに飛びついた。
「お母様、大好き!」
サーラもフェリシティーを抱きしめてささやく。
「大好きよ。ずっと一緒よ。フェリシティー」
ベルンハルトがサーラとフェリシティーを包むように一緒に抱きしめた。
フェリシティーは祝福を受けた日の帰りの馬車で、両親の会話を聞いていた。
翌日、ベルンハルトたちが王宮に行き、一人になったフェリシティーは一人で庭で遊んでいたと言う。
一日かけてヘビやヤモリ、カエル、ミミズ、ダンゴ虫などの昆虫を集めて箱に詰めていた。
箱を庭園に隠し、もしものために準備していたのだった。
明けましておめでとうございます。
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