Episode7
7.
翌朝のことです。
村の広場にシモンとフランの姿がありました。
シモンの手には新たなベルヒアーの指示書きと、
拡声器(声を大きくする道具。ベルヒアーの発明品)が握られていました。
フランはピストルを持っていました。
少年は村全体に響き渡る大きな声で呼びかけました。
「村の皆さん。広場に集まってください。必ず全員集まってください。
お年寄りも若い人も、健康な人も病人も、男の人も女の人も、強い人も弱い人も、一人残らずです。
これより、ある偉大なお方のご命令をお伝えします。
集まっていただけないと、皆さんとても不幸なことになります。
僕がそれを保証します。さあすぐに集まってください」
村人は誰もやってきませんでした。
シモンは付け足しました。
「あるお方というのは、ベルヒアーです」
すぐに村中の家の扉が開き、村人たちが広場に殺到してきました。
その勢いがものすごかったので、シモンは彼らに釘を刺しました。
「僕たちはベルヒアーの使者です。傷つけたり殺したりすればどうなるか、おわかりですよね?」
うそはついていません。
が、本当のところどうなるかは、シモンにもフランにもわかりませんでした。
でも村人たちはわかっているのか、おとなしく少年たちの周囲に集まりました。
「さて皆さん」
シモンが指示書きに目をやりながら話します。
「これから皆さんには、第一回譲り合い遊びをやっていただきます。
皆さんの譲り合い、助け合いの精神が試されます。
ルールはこうです。
これから一時間のうちに、みなさんのうち半分の方が死んでください。
誰が死ぬかは、どのような方法で決めていただいても結構です。
話し合いもしくは自己犠牲が推奨されています」
村人の間に当惑が広がり、それが怒りに変わり、爆発しそうになる瞬間を見計らって、シモンは最後の一言を付け足しました。
「この遊びに成功しなかった場合、ベルヒアーが怒ります」
最初は沈黙。
ぼそぼそとした会話。
すぐに罵り合いに変わりました。
ある者が家に飛び込み、剣を持ち出してきました。
それを皮切りにわっと村人が散り、それぞれの家に武器を取りに向かいました。
殺し合いが始まりました。
駆けまわって手当たり次第に殺す者がいました。
徒党を組んで殺してまわる者たちがいました。
家に立てこもる者たちもいました。
火をかける者たちもいました。
村から逃げ出そうとする者もいました。おっとこれはいけません。フランがピストルで撃ちました。
女の悲鳴があっちこっちから聞こえてきました。
男の叫び声もあっちこっちから聞こえてきました。
少年たちはしっかりそれを録音しました。
ベルヒアーに郵便で送るためです。
半時間もすると村は静かになりました。
シモンは拡声器で、譲り合い遊びの終わりを宣言し、もう一度村人たちに集まるように呼びかけました。
集まった村人の数は、明らかに半分よりずっと少なくなっていました。
男の多くは血にまみれていました。
女の人は少なくなっていましたが、それ以上に子供と老人はほとんどいなくなっていました。
シモンは呼びかけます。
「第一回譲り合い遊び、お疲れさまでした。それではこれより第二回譲り合い遊びをはじめます」
広場に血の嵐が吹き荒れました。
逃げ出す者。追う者。
有利なのは徒党を組んでいる者たちでした。
弱い者は片端から殺されました。
「第二回譲り合い遊び、お疲れさまでした。それではこれより第三回譲り合い遊びをはじめます」
徒党内でも殺し合いが始まりました。
家族がいる者は絶好の目標になりました。
妻と子がいる場合、男を殺せば三人も四人も減らせるのです。お得な勘定になります!
「第三回譲り合い遊び、お疲れさまでした。それではこれより第四回譲り合い遊びをはじめます」
残りの村人は手当たり次第に殺し合いました。
最後に残った一人が、血と臓物の池の中に荒い息で膝をついていました。
フランがピストルでその一人を撃ちました。
こうして譲り合い遊びは終わりました。
少年たちはききゅうに戻りました。
シモンが言います。
「ようやく仕事が終わったよ。今回の仕事は楽だったね。ほとんど見ているだけだった」
フランがいつも以上に陰気な声で同意しました。
「そうだな」
出発の支度を始めます。
ジリリンジリリン。電話が鳴りました。
フランが出ます。
『まだ一人残っています』
少年たちは村に引き返しました。
一軒一軒、家探しをしました。
はしごの立てかかった家に入り、衣装箪笥を開けたところで、
あの白く幼い女の子をみつけました。
シモンがピストルを抜きます。
フランがその前に立ちました。
そして女の子を抱き上げました。
女の子は泣いて抵抗しました。
「おい。何をしてるんだい」シモンが尋ねます。
「見ての通りだ」フランが答えます。
「何をするつもりだい」
「この子を連れて行く」
「ベルヒアーが怒るよ」
「ベルヒアーなんて知ったことが」
「僕たちはひどい目にあう」
「僕はこの子と逃げる。きみは好きにしろ」
フランは女の子を抱きしめて、ききゅうに駆けていきました。
シモンは仕方なく、手近にあったバスケットにありったけの食べ物を詰めて、相棒を追いかけました。