お隣さん
「おはよう」
「う……うんっ……おは……よ」
おはようの「う」まで言う前に、ハッとして目が覚める。なぜ……目の前に眩しいイケメンが居る!
今、自分のいる場所が把握できない。冷や汗をダラダラ流しているのを見てそのお隣さんはクスクス笑っていた。
「覚えていないの?」
そう言われて、飛び起きる。
そこはテントの中だった。ただ違うのは私のテントではない。私のテントより一回り広い。シュラフも……これは私の持っている一人用ではない。だから私は「一緒に寝ている」状態になっていた。
私はどうやらほろ酔いではなく「泥酔」してしまった様子である。
「キミが急に眠いって俺のテント入ってくるから」
笑いながら言っているお隣さんの言う事は正しいみたいである。その証拠に私は昨日の服のままシュラフに包まっていたのだ。
「すみませんっ! ほっんとうにすみませんっ!」
私はその場にとっさに正座して土下座する。何たる醜態! 何たる……あーもう軽蔑された!
私はパニックになってただひたすら謝る謝る!
「んーまぁ、こういうハプニングも新鮮だったから」
お隣さんは微笑みながら、私の頭をポンポン撫でてくれた。
私は平謝りしながらその場を去り、設営したが使うことなく自分のギアを仕舞うと、その場を後にした。
もう何やっていたのかわかんないスピードでこなしていて、我に返ったのは帰りの運転中だった。
「あはははは」
「もぅ! 笑い事じゃないよーっ!」
研究室でお茶を飲みながら、私は机に俯せていた。傍のデスクでパソコンを打ちながら、浬くんは論文を仕上げている。それで私と会話もしているマルチタスクな脳が凄すぎて……凄いなぁ~とチラ見しながら尊敬していた。
浬くんは菜月曰く「なかなかイケメンセンセ」とのことである。私もそう思う。私って彼氏以外はイケメンゲット率高いのかも。
「それで瑞穗は朝まで一緒に寝ていたの?」
浬くんは席を立って、コーヒーメーカーからコーヒーを自分のマグカップに追加すると、私の横に座る。
「でも……流石に感心はしないなぁ。知らない男性のシュラフで一晩過ごすのは」
浬くんが私をジーッと見つめてくる。
「瑞穗は、昔から抜けていることが多くて……僕は本当に心配だよ」
手を掴まれてウルウルされると、それ以上何も言えない。静かに「ごめんなさい」と謝ってしまう。
「僕は心配しているんだよ」
優しく微笑んでくれて、頭をヨシヨシしてくれると、またデスクに戻りパソコンを打ち始めた。いつも浬くんに心配してもらっているかも。
私はこうやって何でも浬くんに泣きついて相談してきた気がするなぁ。未だに何でも言ってるから隠すことも何もない。彼氏と付き合っても実はまだ処女なのも知っている。そんなことまでも! って思うんだけど……浬くんは医師免許も持っているので、身体のこととか何かと心配な父親って感じなんだろうなぁ。
「彼氏ができることは良いことだけど、何でも流されてはダメだよ」
といつも言われていた。流石に習慣化してしまってて……素直に白状している私も私だろう。
と、その時コンコンッとドアをノックする音が響く。
「失礼します」というと一人の学生が入室した。
入室して……
私は時が止まってしまった。
「あ……お隣さん……」