一緒に居たい
バタンッ!
扉が勢いよく開く音と振動が響いた。
「れ……ん……」
私の涙レンズの向こうに立っていたのは蓮である。それを認識した時には、蓮は灯弥に殴りかかっていた。
「どう見たって『合意』っぽくはないだろう」
蓮は灯弥を睨むと、そう吐き捨てるように言った。
「オレが殴られるなんていつぶりだろ」
寸でのところで踏みとどまり、灯弥は口角を拭う。私と目が合って、私はビクッと身体が竦み上がっていた。
「……焦り過ぎたな、ごめん」
そのまま蓮と目を合わさず通り過ぎ、部屋を出て行った。
灯弥がそんなことするなんて今まで考えたこともなかった。私は緊張の糸が溶けるかのように、その場に崩れ落ちそうになる。寸でのところで、蓮は私を抱きかかえてくれた。
え……お、お姫様抱っこ!? びっくりして真っ赤になる。傍に置いてある椅子の一つに座らせてくれた。
「……大丈夫か?」
その言葉を聞くと、安心してまた涙が流れ出る。バタバタっと部屋を出て行き、すぐ戻ってきた手には、ハンドタオルが握られていた。
しゃがんで目線を合わせてくれると、私の涙を拭ってくれる。私は安心してクスクスッと笑いが漏れてしまった。
それを見て安心したかのように、蓮は私の頭を撫でてくれる。何も言わないけど、その態度が嬉しかった。
チャイム代わりの音楽が鳴り響く。図書館の閉まる時間を告げていた。
「あ、ヤバ! 本貸し出し処理してなかった!」
私は「大丈夫だから急いで!」と促す。蓮は、「出口で待ってて!」と言うと、走って行った背中を見送った。
荷物を預けていたロッカーから出して、図書館の出口で待っていると、少しして走りながら駆け寄ってくる蓮の姿が見えた。
「今日何が食べたい? ……食欲あるか?」
ちょっと心配そうな顔で覗き込まれる。私の心臓はドキドキを通り越して、ドキンッドキンッと爆発しそうだった。顔が近い近い!
イケメンの破壊力は凄い! と私はさっきのことなんて忘れてしまうほど、ドキドキしてしまっていた。
食欲は無かったが……今は蓮と一緒に居たかった。
「うーん」と言いながら私の手を引っ張って歩き出す。それだけで嬉しくなって温かい気持ちで後をついて行った。