もう一人の灯弥
図書館は人もほぼ居なくて貸し切り状態となっていた。
携帯のバイブレーションが鳴る。
《瑞穗は今どこなのぉ~》
という灯弥のメッセージだった。「図書館にいるよ」と返信する。
少しすると、慌てた灯弥が図書館に飛び込んできた。私の泣き腫らした顔を見てギョッとしたと思ったら、「ちょっといらっしゃい!」と私を引っ張って図書館に併設されている会議室へ入った。
「どうしたの! ちょっと何その顔! 教授と何かあったの!?」
灯弥は私の顔を両手で押さえると、ジーッし私を見る。
「違うよー、そりゃあ確かにいろいろと考えさせられているけど……少しずつ整理している感じ」
はにかみ笑いをしてしまう。まだ整理しなんて……嘘だ。
「もぉ~ワタシ心配よぉ。今日は奢っちゃうからご飯でも行きましょ」
灯弥がそう言い出してくれたのを「あーちょっと」と遮る。
「ごめん、私これから蓮と夕飯食べに行く約束しているの」
手を合わせて頭を下げる。心配してくれていたのに、誘いに乗れないことが申し訳ない。
フッと私が顔を上げるのと、私の両腕に痛みが走ったのは同時だった。
ドンッ!
と私は壁に押し付けられる衝撃を受ける。私は灯弥に両腕を掴まれ壁に押さえつけられていた。
「……ちょっといい加減にして欲しいんだけど」
いつもの灯弥の口調ではない、それは「男の人の口調」だった。
私は冗談か何かかと思って「ちょっとやめて」って言おうとしたが、灯弥の唇が私の唇を塞ぎ、それは叶わなかった。
なに……これ……。
私の思考回路は停止した。
ダメダメダメダメ……
速攻で思考をフル加速に転じる。
意識吹っ飛ばしてたら、私「持っていかれる」。それぐらい灯弥のキスは違っていた。私が思考を戻せたの、このとろけそうな感覚の中に「違和感」みたいな不快感がある。
私は必死に抵抗するが叶わない。
やっと放してくれた時には、涙が止まらなかった。もうぐちゃぐちゃである。灯弥の唇はそのまま私の耳元まで移動すると、耳朶に軽くキスをする。
「本当は、卒業まで待とうと思ったんだけどな」
熱い吐息と共にそう囁いた。
「や! 止めてよぉ……」
私は腰から崩れ落ちる。それを支えているかのように腕を掴んだ力は弱まることは無かった。
もう無理……こんなの……。