プロローグ
「また失恋? ……今度の理由はなんなの?」
私、彷徨瑞穗は大学構内のカフェに着くなり、ため息をつく。
隣で友人の藤代菜月がヨシヨシをしてくれていた。ショートカットが見た目カッコイイ系女子で、実際カッコイイ。私的にはデザイナーっぽい雰囲気だと思っているのだが……。趣味はモータースポーツという男性顔負けな彼女は私の自慢の友人の一人である。
「早くない? 今度は何ヶ月よ~」
「えっと……」
過去を遡ること数秒。
「三ヶ月」
「やっだぁ~それって三の付く数字ジンクスじゃないのぉ~」
隣にドスンッと座ってケラケラ笑っているのは、男の子だけど話し言葉は「おネェ」の朝霧灯弥である。
見た目はほんとカッコイイ。バイトでのバーテンダーが合ってはいるのだが、おネェなのがアンバランス。なぜかそれが安心してしまう、癒し系だと私は思っている。実際他校の女の子にはモテモテだが、周りはおネェなのを知っているので、もう友人的な感覚で人気がある。
私たちは三人で同じ大学の同じ学部に通っていた。
ジンクスと聞いて、私は「うーん」と唸ってしまった。
「それって私に魅力がないからっていうやつじゃない……」
そりゃあ、155cmの身長で、体系は普通よ……うん! ナイスバディとかダイナマイトボディではないのは仕方ない。いつもセミロングの少しくせ毛を下ろしているか、まとめているしかしていない私には確かに「華」はないのかも……。
ちょっと悲しくなってきてしまって……それに気づいたのか、灯弥が腕を広げ「カモーン」と目で合図している。
「さぁ! アタシが慰めてあげるわよぉ~!」
「灯弥~!」
私はいつものように思いっきり抱き着くと、ヨシヨシしてもらう。灯弥ってホント女子力高いというか……いい匂いがする。
アロマテラピーのように安心して癒されているのを、隣で菜月が時計を指さして肩を叩いてきた。
「瑞穗、いいけど……時間いいの?」
私は我に返って時計を見る。
「やばっ! 遅くなっちゃう!」
私は携帯の時計を再度見直した。
「瑞穗ったらまた『ソロキャンプ』行くのぉ?」
頬杖をついて灯弥が呆れたように私を見ている。
「今日は金曜日! 失恋キャンプに行くのよーっ!」
そう言うと、二人に「また来週ねー」とバイバイして、まずは研究室のある棟へ向かう。
世にいう教授たちの部屋がある棟は「教授棟」とも呼ばれていた。私はその一室「水無瀬 浬 教授」と書かれた部屋をノックする。少ししてドアが開いて、教授がお出迎えしてくれた。
「あれ? 瑞穗はまだ出てなかったのかい?」
「浬くんに『行ってきます』言いに来たの」
この教授、水無瀬浬は私の幼馴染み的な人でもあり、お兄ちゃん的な存在だった。浬くんがいるから、私はココを受験したという秘密もある。憧れている幼馴染みだった。
「だって、浬くんが紹介してくれたキャンプ地だもん。浬くんに『行ってきます』言わなきゃ、楽しんで行けないよ」
小さいころからこんな感じで、保護者的な浬くんなので、こまめにいろいろ報告や相談をしていたし、浬くんも嫌な顔もせず付き合ってくれる。本当に優しい、と感動する。
今日行くキャンプ地は、浬くんが紹介してくれた「私有地」である。オーナーさんが自分の趣味と、知り合い様に開拓した場所と聞いていた。
私が「キャンプ場いつも混んでるから予約取りにくい」と愚痴をこぼしたことにより、見つけてきてくれたのだ。
「気をつけていってらっしゃい。本当は僕も一緒に行きたいんだけど……論文に追われちゃってるから」
そう泣きながら昔から変わらず私をギューとハグしてくれる。今日は失恋ハグデイだな、と心の中で思っていた。
「ううん、もうすぐ学会の発表でしょ? 頑張って!」
そう言って、私は離れるのを嫌がっている浬くんから無理やり離れると、扉をバタンと閉めて深呼吸。
私もういい歳だと思うんだけど……浬くんにとってはまだまだ「お子様」なのかもしれないかも。
行ってきます、も終わったから私は駐車場へダッシュで向かった。