十三話:初恋
昨日うちに来た少女の名前は輝山 貴乃というらしい。
なんと僕や清正よりも一歳年上だそうだ。
…昨日思いっきりタメ口だった。
その後笑って承諾してくれはしたが…。
「あはは、家族になるんだったら敬語なんて気にしなくていいよ~。」
「まぁ、そうなんだけどさ…。」
「晶斗最近ずっと落ち込んでるな、元気出せ!はーっはっはっは!」
僕は年上は上辺だけでも敬うタイプなんだ!
いや、清正は目上はどんな人でも敬うから僕より上か…。
「母さんは俺たちがいる間、帰ってこれないらしいから
俺が代理人として手続するよ。」
「そうか、じゃあお願いするよ。」
「清正くん…ありがとう。」
「俺も家族が増えるのは嬉しいからな!じゃ、行ってくる!」
すると清正は一人でスタスタと玄関に歩き出した。
「ちょ、清正!貴乃を置いてくなよ!」
「?手続きは俺一人いればできるぞ?」
「え…そうなの?」
「おう。俺たちも母さんについて行かなかっただろ?」
「いや、そもそも記憶にないな…。赤ちゃんだったし。」
そうだったのか、てっきり本人も必要なものかと…。
「あ、晶斗…。」
「ん?どうした?」
すごく何かを言いずらそうな顔をしている。
清正がこんな顔をするのは珍しいな。
…なんて言われるか非常にコワくはあるけど…。
「どうした?何でも言ってよ。」
いつも清正に助けてもらってばかりだからな。
僕からも何かしてやりたいっ…!
「今日…一緒に訓練する約束だったのに…悪い。」
………ふむ、なるほど。
清正はそういうやつだったな。
なんて言われるか心配だった分、
一気に肩の力が抜けちゃったよ…はは。
「えーと…晶斗?」
「ん?あ、ごめん。すごい真剣な顔だったからなんて言われるか心配で。」
「いや、真剣だぞ!?」
「あ~うん。それは分かってるから。気にしないでいいよ。」
「…すまんな。」
「いいって、また空いてるとき頼むよ。」
「っ!うん、うんっ!任せとけ!」
清正は何を見ても優秀だからよく年上?って錯覚するけど、
こういうところ見ると同い年だなぁって思う。
「じゃあ、気をつけてね。」
「おう!いってきま~す!」
するといつものように異常な速度で走っていった。
…いつ見てもギャグ漫画みたいでちょっと面白い。
「さて、と。」
ま、とりあえず洗濯物干したりするかな。
…一年も訓練したから薪割りもできるはず。うん。
「あ、晶斗くん。どうしたの?」
「あ、貴乃…さん。いまから洗濯物干そうと思って。」
「あはは、呼び捨てでいいよ。私も手伝うね。」
「え、いいよいいよ!僕がやるから。」
「私も家族にさせてもらうんだし、このくらい手伝わせて?」
「…そっか、そうだね。じゃあ手伝ってもらっていい?」
「うんっ!」
洗濯物を干しながら貴乃と話していて、
二つほど気づいたことがある。
一つは貴乃の髪は一見すると真っ黒に見えるけど、
太陽の光が当たるとキラキラ光って見えることだ。
「私の『能力』はね、自分以外の物を光らせることができるんだ。」
「ってことは『他恩系能力』か。
でもそれならなんで貴乃の髪は光って見えるんだ?」
「…さっき清正くんに聞いた話だと、
『他恩系能力者』でも稀にその『能力』の特徴が
自分の体に影響を及ぼすこともあるんだって。」
…マジか。
僕たち『他恩系能力者』の集まりの第二寮でも
そんな授業受けてないぞ…。
そうすると第零寮は相当貴重な授業を受けれるんだろうな~。
…はぁ、このペースだといつ清正に追いつけるのやら。
ま、それはさておき…
もう一つは個人的な感想なんだけど…かわいい。
今まで出会った子の中で一番好みの子だ。
まぁ、貴乃みたいなお嬢様タイプ?の子に会ったことがないんだけど…。
昨日は泥まみれだったからよく分からなかったけどすごくかわいい…うん。
「?どうしたの、晶斗くん。私の顔に何かついてる?」
「うえっ!?あ、いや、なんでもない…。」
「…?」
マズイ、おもわず目をそらしてしまった…。
今まで異性に興味を持たなかったせいかな?
心臓がうるさい…。
「~♪よし、これで終わりだね。」
「…え?あ、ごめん!ボーっとしてた!」
「ううん、最初の方干し方教えてくれたりしていっぱいやってくれてたから。
結果的に私の干した量の方が少ないし申し訳ないよ…。」
「い、いや…そんな…。」
ヤバイ、さっきからドモりまくってる…。
音緒とはちゃんと話せるのになんでだぁ~!
「私ね…晶斗くんに一緒に住もって言われたとき、
すごく嬉しかったんだ。」
「…え?」
「だからその分、ちゃんと恩返しさせてね。」
そんな風に思ってくれてたのか…。
もし孤児の僕が…家族を失った人たちのために何かできるなら…。
ずっとそう思ってた。
孤児のみんなの気持ちは痛いほど分かる。
失った家族に会いたいと思う子もいれば、
自分を捨てた親に何故捨てたのかと問い、
答えを聞きたい子もいるだろう。
僕も…今生きているかもわからない親に会いたい、
一度でもいいから会って思いっきり抱きしめてもらいたい。
それを母さんに言ったとき…母さんはとても悲しそうな顔をした。
前はなぜ母さんが悲しんだのか分からなかったけど…今なら分かる。
「恩返しなんていいよ…。」
「え?」
「僕らは家族だ。生まれたときから。」
「…あ。」
そうさ、僕らが家族になれたのは運命だ。
この家族は神様が僕らにくれたんだ。
辛い過去は忘れて、今の家族で沢山の思い出を作れって。
だから…恩返しなんていらない。元の家族なんていらない。
僕らは神様がくれたこの家族で…幸せに生きていくんだ。
「…ありがとう、ありがとぅ…うぅ。」
「え!?な、泣くほどなの…?」
「ぐすっ…だって…。」
まだ道のりは遠そうだけど…はやく馴染んでくれるといいな。
「はぁ~…いい湯だ。」
ガララッ
「晶斗くん♪一緒にお風呂入ろ♪」
「ブハッ!…っ、馴染みすぎだぁー!」