勘違inter
砂と水溜まりの中から見上げた空に、
私の勘違いが浮いていた。
青い太陽。セメント色の硝子。鉄錆色の自転車。
後からついてくる轍が少しうっとうしくて。
かごの中の鞄から、ちらちらする20×20の束。
10年前くらいの卒業論文。
何を書いたっけ。確か恋についてだったかな。
そんなこと忘れてしまっていた。
あの時は全部が眩しかったな。
堅苦しい卒論さえにも、綺麗な世界があった。
棒や折れ線、円やイラストにだって、
他人には分からない私の世界があった。
………………勘違いさ。
白い海容。蛍光緑のパルス。金滅色の自動車。
前からやってくる灯りが少しうっとうしくて。
頭の中のぶよぶよからバチバチする電光石火の性。
30秒前くらいの突然のアイディア。
何を思ったっけ。確か文字についてだったかな。
そんなこと忘れてしまっていた。
この頃は全部が鈍く見える。
堅苦しい文言ばっかで、嫌いな世界の中だ。
立ち居振る舞い、諸々、休日にだって、
誰にも分からない。私の世界はなかった。
………………勘違いさ。
泥とそよ風の中から見下した街には、
私の勘違いが沈んでいる。
掬えない。救えやしない。
掴めない。使えやしない。
無駄だと切り捨てたんだ。今更、浮いてくるな。
こっちの気持ちまで浮わついてしまうだろう。
あの時は全部が眩しかったな。
堅苦しい遣り取りさえにも、綺麗な世界があった。
棒や折れ線、円やイラストにだって、
他人には分からない私の世界があった。
………………
恋も文字も所詮は勘違いさ。
違う他人同士の間の遣り取りなのだから、
ズレがあって当然だ。
そのズレを考慮することは出来ない。
出来ていたら、この世界はもっとマシだ。
不意に見た空は、砂と水を混ぜたような色だった。
汚れていたのは、私のレンズだった。
コンクリートには点々とした染みがあった。
全部、勘違いだった。
勘違いさ。
勘違いでいいんだよ。