クリスティン
出逢い
冒険者の街【ハルムント】へ向かう為、大きめの鞄に保存食、ポーション等を詰め込み王都を出る。
冒険者ギルドのカードが有れば出入りは比較的自由がきく。
【異空間収納】にも荷物は入っているが、手ぶらの旅は見た目が怪し過ぎるのから鞄は必須だ。
のんびり歩いて1週間程の気ままな一人旅を楽しもう。
その間に少しでもローレンスの能力に馴れておかないと…
そんな気分も2日目の夕方に吹き飛んでしまう。
「………」
遠く……森の中から悲鳴が聴こえてくる。
【身体強化】を使い森へ駆けながら【魔力探索】で状況を把握する。
馬車と人間が4人。
戦闘中なのは1人……
反対方向に離れていくのが1人……
おそらく商隊と護衛の冒険者だろう。
対する魔物は12体。魔力の感じからゴブリンの群れで間違いない。
こんなに簡単に状況把握出来るって……ローレンス反則だろ……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ヒイィィィ……」
「たっ、助けてくれ……」
怯える商人を守る為、あえてゴブリンの前に出て襲い来る矢を剣で弾く。
「くっ、このままじゃ……」
あの弓矢で牽制するゴブリンさえ居なければ……
と思った時、樹の上から矢を放とうとするゴブリンを、後ろから袈裟斬りに斬り、着地と同時に樹の下にいるゴブリン2体を横薙ぎに斬る黒い影が現れる。
「加勢する!」
黒い影はそう叫ぶと次のゴブリンへと信じられない速さで向かって行く。
「助かります」
思わぬ方向から奇襲を受けたゴブリンの群れは統制が乱れ浮き足立っている。
正面にいたゴブリンの首を斬り、次の目標を探そうとしたが……ゴブリンの気配がない。
森の奥から黒いローブの少年がこちらへ歩いて来る。
「ゴブリンは残ってないよ。大丈夫だった?」
少年は戦闘の直後とは思えない、落ち着いた声で語りかけて来る。
「あ……ありがとうございました。本当に助かりました」
「俺はウォルフ……C級冒険者です」
「わっ私は【クリスティン=スコット】E級冒険者です」
「少し怪我してるね? ポーション使って」
少年は鞄からポーションを出して来る。
「いえ……代金が払えませんから……」
「別にお金はいらないよ、君は休んでて。ゴブリンを集めて燃やさないと血の臭いで魔獣が集まって来るから始末してくる」
少年……ウォルフは固まっている私の手にポーションを握らせて森へと入っていった。
クリスティンもゴブリンの死体の始末を手伝おうと思ったが、依頼は商隊の護衛である。
魔物の襲撃を受けたばかりの商隊から離れることは出来ないことに気付く。
仕方なく商隊の側で警戒をしながら待っていると、森の奥から見たこともない威力の火柱が上がる。
「なっ、何?……」
警戒を強めながら火柱の上がった方角に向け剣を構えていると、さっきの少年が頭を掻きながら……バツの悪そうな表情で歩いて来る。
「何があったんですか? 大丈夫でした?」
「驚いたよね?……ゴブリンを燃やそうと思って魔法を使ったら威力を間違えた……」
「あなたの魔法?あんな大きな魔法を使えるんですか?」
ヤバいっ、なんとか誤魔化せないかな……
「ゴブリンを集めた場所に硝石が有ったのかな? 俺もビックリしたけど、延焼が無くて良かった」
苦笑いしながら言い訳する。
ローレンス程魔力制御を鍛えてない俺が使ってあの威力かよ……
「怪我されてなくて良かったです。加勢していただいて本当に助かりました。改めて、ありがとうございました」
「何で護衛の依頼を1人でしてるの?護衛は交代で警戒しながらやるもんでしょ?」
「ゴブリンの群れを見て、一緒に依頼を受けた方は逃げ出してしまいました。【ハルムント】迄後少しなのに……」
「あぁ……急造パーティーで依頼を受けたんだ……」
「はい、【ハルムント】から【王都】への往復の依頼でした。残り1名の募集だったんです」
「【ハルムント】なら俺も丁度行くところだから、同行して良いかな?報酬はいらないからどう?」
「助けて貰って、報酬もいらないって……そんなことは出来ません」
「じゃあ、【ハルムント】のことを教えてよ。報酬は情報ってことで。冒険者に情報は大事でしょ?」
拠点にしようと考えてる【ハルムント】の情報が欲しいのは本当だ。
この商隊を放って行くのも何か後味が悪いし……
「判りました。お言葉に甘えさせていただきます。私のことは【クリス】と呼んで下さい」
「じゃあ、商隊の人に許可貰って来るね」
命の危険を感じていた商隊の隊長は2つ返事で了承してくれた。
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