旅立ち
ウォルフのチートな旅立ちになります
「依頼のスケルトンの魔石10個……確認宜しく」
「ウォルフさん、生きてたの? 良かった。でも、1ヶ月もかかる依頼じゃないですよね? ギルドに顔も出さずに何処にいたの?」
ギルドにスケルトンの魔石を納めて、依頼達成の報告をしようと受付のレイラに話かけると……一気に捲し立てられる。
「えぇっ、そんなに長かった?」
「依頼受理から32日ですよ! 依頼を達成してから今日迄何をしてたんですか?」
「寝てた……」
「はぁ?」
ローレンスのこと、その魔法なんて信じて貰えないだろうし……
呆れ顔のレイラに『だらしない奴』と思われるのが不本意だけど無難かなぁ……
「ウォルフさん……真面目な人だと思ってましたけど、冒険者でやっていくなら、達成した依頼は速く報告して下さいね!」
「はい……すみません」
「真っ黒なコート? ローブですか? 変わった服ですね」
「ん?……似合う?」
「剣士には不似合いですけど…剣を使う様には見えませんね」
「家を勘当されたから……イメチェン?」
「いきなりダラけた生活になってる時点で十分にイメチェンですよ。ハァ……」
「……はい、気を付けます」
一ヶ月も寝てたのか?
ローレンスの記憶と魔力がこの身体と融合するのにこれだけ時間がかかるとは、当のローレンスも予測してなかったはずだけど……
主体が俺になったからイレギュラー的な状態になったのかな?
レイラの深いため息を後にして今後のことを考える。
『王都では知り合いが多すぎる。実家からも離れたいし……冒険者の多い地方都市に行こうかな?』
俺の知識はローレンスの記憶のおかげで2千年以上の膨大なものになってしまっている。
それはこの国の歴史よりも遥かに長い。
普通に会話していても……何時ボロが出るか判らない。
バレた時のリスクがあまりにも大き過ぎる。
未知な存在に対すると、人間はまず恐怖を覚える。
更に、他人の身体を乗っ取ることの出来る魔法。
超常の回復力を持つ身体。
この力を欲しがる人間が多いことは容易に想像出来る。
ローレンスの、危険どころではない魔法を使える俺を、拘束出来る力は……たぶん、人間には無い。
この力はあまりにも危険だ。
人間に比べると遥かに長い寿命を持つエルフは人間には使えない、秘術としか形容出来ない魔法を数多く持つ。
ローレンスはそれを更に魔改造した魔法を造り出していた。
今、俺が旅の準備の為に使っている【異空間収納】もその1つだ。
エルフ達が長い年月の中で貴重なアイテム、素材を保存する為に産み出した魔法で、ほぼ『無限の収納体積』と、収納物の保存の為に『時間の停止による収納物の劣化防止』の効果を持つ。
ローレンスは、そんなチートな魔法を持つエルフ達を殲滅する為の研究をしていた訳で……その魔法は危険極まりない。
魔導師の弱点である『詠唱』に必要な時間を無くす為に、魔力操作のみで魔法を発動させる『魔術』を完成させ、更に接近戦の際の弱点を無くそうと、剣士の身体を狙った。
剣聖の技を叩き込まれた俺は格好の素材だったみたいだ。
多数……其も非常に高度な魔法を持つエルフを相手に殲滅出来る『魔術』。
其を可能にする超精密な魔力操作。
俺は自分が理外のバケモノになったことに不安しか無い……
【魔導師】としても【剣士】としても尋常ではない存在だ。
あの時使った剣も確定ではないが、ローレンスの知識からすると神代に竜族、巨人族に対抗する為に存在した剣の可能性が高い。
ってことは、ダークエルフであるローレンスの戦闘力は竜に匹敵してたってことか?
よく勝てたもんだ。
考えながらもギルドから必要なお金、旅に必要な物品を揃えた俺は宿の部屋で収納を終える。
剣も新しい物を用意した。
ローレンスとの戦いで使った剣は【魔力障壁】、【物理障壁】等を打ち消す効果が有るみたいなので、普段の戦闘に使って磨耗するのは避けたい。
これからのことを考えると、大きめのダンジョンが有って、【王都】から距離が有る街が良いな。
冒険者ギルドはどの街にも存在するけど、小さな街では依頼そのものが少ないから、程々大きめの街じゃないと不便だし……
とりあえず冒険者の街【ハルムント】を目指そう。
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