勘当された剣士
勘当される…
この世界には魔法が存在する。
世界中の空気中に融け込んだ魔素を集め、術式に従い操作する事で意図する現象を興す事を可能とするものだ。
【生活魔法】と呼ばれる簡略化された魔法ならば、この世界の誰にでも扱う事が出来るが、一般に【魔法】と呼ばれる魔法は危険度の問題もあり、その術式は国家単位で厳密に管理され、国家直属の組織である【騎士団】【魔導師団】に属する者であるか、超国家民間組織である【冒険者ギルド】に登録された【冒険者】でなければ扱う事を許されていない。
自然界で魔素を取り込み独自進化した【魔物】と呼ばれる生物が存在するこの世界では、【冒険者】達が危険な魔物を駆除する事で一般人の生活の安全を確保している。自身の生命を賭け魔物と戦い駆除する彼等は、その実力に応じた階級【ランク】を冒険者ギルドより認定され、ランクに応じた魔物討伐依頼を受ける事が出来る。
当然、高ランクの依頼ほど危険度は増すが、その報酬も破格となっていくため冒険者という職業に憧れる者は多い。しかし、常に自身の生命をチップに報酬を得る生き方は厳しいものでもある。彼等はその必然性から【剣術】、【体術】等の武術を学び身に付ける事を求められた。
空気中に魔素が融け込む以上、自身の身体の中にも魔素は採り込まれている事から、大小の差はあれども、この世界の生物は【魔力】を体内に宿し生まれる。
前述の【魔法】を使うためには、集めた空気中の魔素を術式に従い展開した後、体内の魔力を種火として使う事が求められる。
種火となる体内魔力の大小と魔力操作の精度により、扱える魔法の規模、威力、発現速度に差が生まれるため、体内魔力の高い者は【魔導師】と呼ばれる職業に就く事が多いが、中には違う道を目指す者もいる。その者達は体内魔力を体内で循環させ、身体能力を高める技術【身体強化】により、身に付けた武術を更に高める事を目指した。その研鑽は各【流派】として後世に引き継がれる事もあれば、一代で廃れる事もあった……
そしてもう一つ、この世界の生物は生まれながらに【スキル】と呼ばれる特殊能力を持って生まれる。更に成人時に【後天性スキル】と呼ばれるスキルが発現する。
一般的には【魔力増】、【身体強化】といった戦闘に向いたスキルから、【味覚強化】、【臭覚強化】といった身体的特徴を強化したスキルが主となるが、何事にも特殊な存在は顕れる。【剣士】、【武術家】、【魔導師】といった複数の能力を顕現した上位スキルである。
例えば、【剣士】のスキルには、【身体強化】、【剣術適正】、【魔力微増】といった効果が複合されるように、上位スキルと呼ばれるものには強力なものが多い。【剣士】の上位互換スキルである【剣豪】のような【レアスキル】も存在するが、【レア】と呼ばれる通り、こういったスキルが発現する例は稀である。更に伝説級のスキル【剣聖】となれば、数百年に一度生まれるかどうかと云われている。
このスキルについては生活魔法に分類される【自己鑑定】以外では、【鑑定】スキルを持つ者にしか診る術がなく、自己申告による不正を防ぐため、国家や各冒険者ギルドには【鑑定】スキルを持った人間が配備されている。
逆説的な表現をするならば、持って生まれたスキルが自身の将来を決めるとも謂えなくはない。
そして、俺が持って生まれたスキルは………
「勘当だ。二度と【スヴェイン】の名を名乗る事は赦さん!!」
父であるカイル=フォン=スヴェイン伯爵の怒声が、父の執務室に響いた。
レイスル王国の軍事顧問を代々引き継ぐ剣の名門【スヴェイン伯爵家】の三男である俺は、【ゾーン】というスキルを持って生まれた。このスキルには前列が無く、効果も不明ではあったが、『前列の無いスキルならば、レアスキル以上のものであろう』と父は喜んだと聞いている。
しかし、十四才になる現在、スキルの効果は何も発現する事も無く、『スヴェイン伯爵家の無駄飯喰い』と陰口を叩く者も少なくないのが俺の現状だ。
スヴェイン伯爵家の初代である【剣聖】ガーランド=フォン=スヴェインの興した血統の直系男子は【剣豪】のスキルを持って生まれる事が常識となるほど、代々【剣豪】というレアスキルを持った剣のエリートである家系の中、剣に関するスキル恩恵を発現させる事無く成人間近となった俺に対する世間の眼は、必ずしも好意的なものではなかった。
『平民の血を入れるからだ。名門も終わりだな』等と、母に対する誹謗中傷も陰口の中には散在した。
それが俺の焦りを生んだ事も否定は出来無い。
『俺のスキルは【魔導師】の能力に特化したスキルなのか?』
そんな俺の疑念は日々増大していく。
【スヴェイン】の剣理を否定するつもりは微塵も無い。代々、身分に係わらず剣を目指す者を受け入れて来た伯爵家らしくもない流派の理念には尊敬の念すら抱いている。
スキルによる恩恵を受けられない俺が【スヴェイン】の名に相応しい強さを体現する為には【身体強化】の更なる強化が必須である。
【身体強化】の高みを目指すなら、【魔力操作】の精密化が必要だと考えた俺は『【魔導師】になる修行をしたい』と父に伝えたのだが、父の激昂は予想外だった。
ただ、実績の無い俺が反論しても【負け犬の遠吠え】でしかないだろう。
父に頭を下げ執務室を出た俺は、その足で家を出て【冒険者ギルド】を目指した。
初めての投稿になります。
至らない点も多いと思いますが、宜しければ感想をお願いします。